「全体主義中国と対峙することと西側民主主義の再認識」:エマニュエル=トッド・インタビューを読んで(2)

Posted at 21/01/25

昨日は日経記者によるエマニュエル・トッドのインタビューについて書いた。トッドという人をよく知らなかったのでまずはその人物背景について調べているうちに全ては書けなくなったので、今日は再度それを取り上げてみる。


このインタビューで何が取り上げられているかをもう一度見直してみると、

1.「民主主義の機能不全とその機能回復の方策(トランプ現象・ブレグジット現象を受けて)」と「その中でのグローバル化の見直し」

2.「全体主義的な中国の台頭」とその影響での「西欧による自分自身の振り返りへの期待」

3.「保護主義の導入による世界経済の回復」と「そのための国際機関の構想」

4.「中国の内部矛盾と日本の安全保障、核武装という解決方法」

5.「日本の人口問題、アフリカの特殊性、EUの問題点」

6.「夢を語ることの重要性と自らの研究に対する姿勢」

ということになるだろうか。最初の1.「民主主義とグローバル化見直し」については昨日書いたので、今日はその続きについて、まず2.「全体主義中国と対峙することと西側民主主義の再認識」について検討していきたいと思う。

まず最初にもう一度確認しておきたいのは、全体的にネオリベラリズムの進む欧米や日本の社会についての懸念が最も強いということ。その中でのグローバル化で利益を上げるエリートと大衆の分断、EUにおけるドイツの一人勝ちなどが俎上に上がっている。

その解決の手段としては国家の再統合を目指すこと、核武装などの従来型の防衛戦略など新しいものよりも従来の考え方の中での解決方法を提案しているけれども、新しいのは「保護貿易の国際機関」を提唱していることだろうか。

そして彼の知見の予測の源泉である歴史人口学と、そこから導かれる日本への処方箋、また歴史人口学の知見に反するアフリカの現象など、今まで知らなかった話も興味深い。

Wikipediaによればトッドは「帝国以後」でアメリカの一国支配の終焉について書いているが中国については取り上げていない。それはこの著作の段階では彼はまだ「中国はまだ発展途上国である」という認識であったということのようだ。その辺りは日本から見ると認識のずれが感じられるが、トッドがこの本を書いた2002年には日本でもまだ中国の科学技術の稚拙さを嘲笑するような言説が多く、実際にはまだ中国の超大国化に気付いている人は多くはなかったと思うので、そこは仕方ないと思う。

帝国以後 〔アメリカ・システムの崩壊〕
エマニュエル トッド
藤原書店
2003-04-30

 

トッドはこのインタビューで「西欧が回想的に分断されている中で、中国は突如として全体主義的な新たなモデルとして現れた」としていて、「世界の均衡の考えるためには中国の脅威を考慮しなければならない」としている。ただこれは西欧にとってもチャンスであり、「西側の内部で新たな連帯感が生まれる」、つまり冷戦時代にソ連が存在したことで自らを相対化しその存在意義を理解できたために、エリートたちは「全体主義」に対して「民主主義」をプッシュせざるを得なくなった、というわけだ。

つまり、中国は脅威だけれども、その脅威があるが故に西側は自らの体制のメリットとしての「民主主義」を意識せざるを得ず、メリトクラシーを推進するグローバルエリートも民主主義の重要性を再度考慮に入れなければならないと期待しているわけだ。

この辺りの問題は、アメリカにおいて特に下層白人の人々によって支持されたトランプ政権を倒し、政権を握ったエリートを中心とするバイデン政権が、中国に対してどのようなスタンスをとっていくかということにあると思う。

一方では中国を明確な敵と意識し、台湾を支援し、日本や同盟国との関係を重視して中国の封じ込めを図るトランプ政権の流れを踏襲するという見方。それは同時に国内の経済的建て直しを重視し、またトランプ支持者たちをも一定程度取り込むために彼らに配慮する政策を採用するという方向性があり得る。少なくともバイデンのいうUnity、国民の再統合のためにはこの方向性しかないと思うが、ここにはイデオロギー的な問題も絡んでくるので、民主党内の左派勢力やグローバルエリート勢力の反発をどう押さえていくかという問題もあるだろう。

もう一方では中国を戦略的な共存相手と見做し、中国に配慮した政策をとる可能性があり得る。それは中国に配慮するというよりは、グローバル化をさらに進めようとするグローバルエリートの圧力、また国内トランプ支持者ら下層白人を嫌う左派・ポリコレ派の強い主張をバイデンが抑えきれない場合、ないしその勢力に乗っかっていこうという場合だが、これは潜在的にはまだまだ巨大なトランプ支持層を完全に敵に回すということになるので、「国民再統合」というバイデンの主張は画餅に帰し、さらに分断が進むという選択を取ることになる。

だから現実的に考えるとバイデンは国家の分断を抑えるために中国を敵視する政策を取らざるを得ないと思うのだが、そうならない可能性も一定は配慮しなければならないとは思う。

だから、この辺りは結局は「エリートが大衆の意見を聞くことができるかどうか」という昨日書いた問題に帰結するわけなのだけど、しばらくはお手並み拝見ということになるのだろうと思う。

とりあえず今日の更新はこんなところで。また以後の点については続けて考察していきたいと思う。



「壊れかけている民主主義」を建て直すために:エマニュエル=トッド・インタビューを読んで(1)

Posted at 21/01/24

ここのところ現代の問題について色々考えて、それらについて書いていたのだけど、世界は今何を目指すべきかみたいなことを考えていて、その中でTwitterなどで色々なものを拾い上げながら読んでいた。

その中でも、現実を考えるための補助線として誰かいい著作者や本があるといいなと思っていたのだが、昨日読んだエマニュエル・トッドのインタビューが面白く、そのついでにWikipediaでちょっと調べてみたらやってること、考え方もかなり面白く私としては興味が引かれることが多かったので、ちょっとその辺について調べてみたり考えてみたりしようと思った。

昨日読んだインタビューはこちら。


他にもインタビューがなされているようだけど、これはどうも彼の新著が日本で出版されたことと関係あるようだ。

エマニュエル・トッドの思考地図
エマニュエル・トッド
筑摩書房
2020-12-23



こちらの方も順番に読んでみようとは思う。ただこれは考え方や思考の方法論的なもののようなので、先に読むべきものであるかどうかはわからない。代表的な著作は他にいくつもあるようだから、その辺を先に読んだ方がいいのだろうと思う。まず作戦を練らなくてはと思う。

もう一つのインタビューはNewsPicksに課金登録しないと読めないので、今のところ読んでいない。


ただコメントを読むと、先のインタビューでトッドの意見で唯一同意できなかった移民問題についての議論があるようなので、読んでみようかなとも思っている。

彼の専門は簡単に言えば「歴史人口学」ということだろうか。フランスには「国立人口学研究所」なるものまであるようで、この分野が発達しているということなのだろう。簡単に言えば、歴史の定量的研究ということだろうか。日本では速水融さんや鬼頭宏さんなどがいて、歴史学というよりは経済学の方に入るようだが、トッドはアナル派の歴史家・エマニュエル・ル・ロワ・ラデュリの勧めでケンブリッジに留学してそこでは家族制度を研究していて、どちらかというと日本でいうところの歴史社会学的な要素が強いように見受けられる。

まだはっきり理解しているわけではないけど、歴史人口学で彼がやっていることというのは、家族のあり方・人口・出生率・識字率などをパラメーターにして各国の社会の過去の動向を検討し、それを用いて将来を予測する、という風に捉えてみた。

このインタビューでは日経の記者がインタビュアーなのだが、記者自身が守るべき規範として持っているのが「民主主義」と「グローバリズム」であるという前提が強く、そういうバイアスを持った人に応えている内容だ、ということは考えに入れておかなければならないなと思う。

今日はまずこの「民主主義」の問題について検討してみたい。

まず記者はトランプ派のアメリカ連邦議会侵入事件を受けて現代を「民主主義の危機」と捉えているようで、「機能不全に陥っているように見える民主主義を働かせるにはどうしたらいいか」という問いから入っている。

それに対しトッドは「教育による社会の分断がある」こと、「宗教や国家など共同で全ての人が信じるものがなくなってしまったこと」、のふたつを挙げている。

だから分断を解消するためには、上層の人たちが下層の人たちを尊重する形で経済政策や社会政策を作ること、つまり国家を単位としてその中で和解していかなければならない、上層の人たちは下層の人たちの上層の人たちが特権階級化しようとしているという疑念を、また上層の人たちは自分たちのポジションを教育程度によって正当化することをやめなければならない、といっている。

これは「才能があり(≒生まれがよく)努力した(≒高い教育を受けた)人は報われて(≒社会的に高い地位について)当然だ」というネオリベ的なメリトクラシーの思想を乗り越えなければ分断は解消できない、というふうに言ってもいいし、また今必要なのはグローバル化ではなく国内の統合・団結=unityである、ということでもあると思う。言葉を変えて言えば、国家は「国民の、国民による、国民のための国家」であるという意識に改めて立ち戻るということでもあると思う。

実際のところ、日本でもその分断は深刻になってきているが、伝統的な階級社会であるヨーロッパはそれ以上だし、貧富の差や人種による階層の文化がもともとあるアメリカでも日本の比ではない。

つまり、トランプ現象に関して、問題はトランプ派の民衆の方にあるのではなく、エリートの側にあるということを言っているわけで、これは私も賛成できるし、日本に関してもその通りだと思う。

これは次に出てくるグローバル化の議論においてもそうなのだけど、重要なことは国家、国民の生活、経済を守る意識が大事であり、そのためには適度に市場を占めることが重要であり、多少の保護主義を持ち込むことが重要であると言っていて、その理由もまた、「エリートと大衆の交渉は国家の枠組みの中でのみ可能だから」だとしている。

つまりトランプ現象やブレグジットのような「大衆の反乱」がアメリカやイギリスで起こったのは、国の中で格差が深刻になったからであり、これらの現象は社会が壊れていくことを避けるために起こっているのだと指摘している。英米が先頭に立って資本主義を世界に広め、またグローバル化を推進してきたことを考えると、英米にこうした現象が世界に先んじて起こっているのも歴史の論理的帰結であって、社会を立て直すためのチャンスであるという感じで捉えているように思われた。

この辺りまでのトッドの議論には私はとても賛成で、というよりももともとはっきりとそういう意見なので、今までこの人の著述に触れてこなかったのは残念だと感じた。インタビューを最後まで読んでみると、特に日本についての意見は少し違うなというところがあるのだが、それは日本に対する観察が少し妥当ではないと感じるところもあるからだと思う。

しかしメリトクラシーの限界についての議論は同意できるし、ポリコレに関しては書いてないけれども、エリートの側が進めようとしているこれらの政策も結局大衆の多くは損を被る側であるので、そこに同意できないのも当然だと思う。エリートの側の正義を一度括弧に入れて今最も重要なことに取り組んでいくという反急進主義、漸進主義の思想こそが今重要なのだと思う。

トランプ支持者が求める「平等」

Posted at 21/01/23

昨日のエントリは元々はこれからの世界が何を価値とし、何を目指す社会になっていくのか、ということを考えながら書いていたのだけど、今思うのは「平等」がその価値かもしれないということ。

元々は、マイノリティ差別や女性差別というものは「平等への願い」から取り上げられていたものだったはずなのだけど、最近は平等というよりも「才能があるのに」「能力があるのに」属性によって差別されている、ということの問題視が中心になってきていて、つまりは「能力における差別は正しい」という話になりつつある。

それをメリトクラシーと呼ぶわけだけど、最近はこれに対する批判、というか反発が割と原初的な形で高まってきていて、アメリカのトランプ現象なども本質はこれなのだと思う。

つまり世の中にはポリコレの人たちによって「特権的な属性」と考えられてきた「白人男性」の中にも非常に経済的・社会的苦境に喘ぐ人が多いということ。これは日本においては「日本人成人男性」ということになる。実際には若者や女性、外国人の方が就業機会に恵まれやすくても、「白人男性」が抗議しても届かない構造になってきている。

彼らはトランプを支持し、「偉大なアメリカを再び」をスローガンに、かなり大きな精力を構築することに成功した。トランプ自身は気まぐれなのでこういうものを維持していけるのかどうかはわからないが、未だ産業革命期の「ラダイト運動」並に破壊にしかできていないこれらの人々がちゃんとした勢力になってくれば、メリトクラシーを正義とする社会は変わる可能性はなくはない。

トランプ支持者が求めているものは「平等」だというと屁理屈みたいに聞こえるかもしれないが、その辺のところをきちんと受け止めていかないといけないと思う。

長い文章ではないけど、とりあえずそこを指摘しておきたい。

バイデンが訴えた「俺たちは仲間だ」

Posted at 21/01/22

自由、平等、連帯、アイデンティティ、人類愛、進歩、伝統、安全、安心、豊かさ、成長機会などなど。

人間社会がこれから何を求めていけばいいのかということをつらつら考えて原理的なことを少し考えてみようと思ったのだが、今日は時間がないのでまずはこれらの価値が求めていくべきものかなと思うものを羅列してみたのだけど、最初の三つは言うまでもなくフランス革命に関連づけられている Liberté, Égalité, Fraternité のことだ。自由、平等というのは比較的わかりやすいが、フラテルニテは以前は博愛と訳され、現在は友愛と訳されることが多いが、「同胞愛」と訳す人もいて、つまりは連帯・結束・統合して何かに立ち向かうための連帯意識であると考えていいと思う。

今アメリカでバイデンが何度も訴えているUnity=統合、United States=合衆の理想がフラテルニテであると考えていい、つまり国民国家の基礎となる同胞意識と考えていいだろう。

これは国民統合意識のもとになっているとも考えられるし、また「万国の労働者よ団結せよ=Workers of all lands,unite.」の階級団結意識もそれの転用と考えていいだろう。国家を超えた階級団結意識だから「インターナショナル」なのであるわけだ。これはアカデミアの連帯意識であるとか、ヨーロッパの国々の国を超えた貴族階級の階級意識などとも関係あるだろうし、「アジアは一つ」などのスローガンにもつながっていく。

つまりフラテルニテは何者かと対峙するための仲間意識であって、「人類愛」ではない。博愛と訳した人の意図はどこにあったのか、単なる誤訳だったのかそれともフランス革命の素晴らしさを強調するためにそこをあえて曲げたのかはわからないが、その意図は日本においては一定の成功を収めたと言えるだろう。

アイデンティティ以下のことはまた時間がある時に改めて考察します。

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