「私は果たして選挙権を有するに値するか」:政治参加と「正しい」判断能力ー安藤薫さんの論考をめぐって/「地方に「美」は存在するのか」:美術界のアカデミズム偏重と一般の「自由な美」への幻想
Posted at 25/08/15
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8月15日(金)晴れ
今朝は朝からよく晴れている。最低気温は22.3度、まあこんなものか。今日は終戦の日、諏訪湖花火大会の日だが、無事に運営されることを願いたい。
https://digital.asahi.com/articles/AST881J1DT88UPQJ00WM.html
安藤馨さんの論考。書いていることは、「主体的で熱心な政治参加」と「科学的・合理的な正しさ」の両立は難しいという「感想」のようなことなのだが、現在かなりネット上に強く現れている「参政党批判」と「参政党擁護」のコンテクストの中に置かれると、「参政党批判側の記事」と読め、参政党の熱心な支持者や運動家たちへの批判、という側面が強く感じられて、「頭の悪い奴は政治に参加するな」と読める、という側面はあるだろうと思う。
実際、私自身も最初に読んだ時の感想はそうで、「人々の政治参加の幅を最大限に取る」ことで「正しさも担保される」というのが「民主主義が前提とする効能」であったはずだと思う。もちろんこれは結果的に見て歴史の選択肢として良い方向にいかなかったことも数あることは確かなのだが、「参政党の主張は間違っている」ということを前提に「間違っている人たちの意見を政治に反映させるのは問題だ」と言っていると感じられてしまうと、「参政党の意見が正しいかもしれない」あるいは「参政党の意見は今は未熟だがやがて正鵠を得たものになる可能性がある」という「可能性は排除できない」と多くの人は考えるようになり、「学者の傲慢な結論」と思われてしまうようには思った。
https://x.com/konoy541/status/1955644739434524836
この河野さんの解説はまあ簡単にいえばこの言説全体を現在の政治状況というコンテクストを廃して価値中立的に読めば「政治参加」が進めば進むほど「事実に基づいた科学的合理的正しさ」を重視しない人たちの意見も反映されるようになることをどう考えるか、政治参加を進めるためにそうした不合理な意見の反映も受け入れるべきなのか、というある立場表明ではあり、少なくとも「政治は科学的合理的に正しく進められるべきである」という考え方が前提に置かれているのは確かだし、また「多くの人が政治参加するのは良いことだ」という考え方も前提には置かれている。
その先に、「科学的合理的に行われていない政治を受け入れるべきか」ということで言えば、これは参政党だけの問題ではなく、電力需要が逼迫しても原子力発電所の稼働を認めない左派系の影響力の強さなどもあるわけで、そのあたりに触れないのはやはり一定の政治的偏見があるように感じられるのは仕方ないとも思うが、掲載媒体が朝日新聞だから読者層へのサービスなのかもしれないという気はしなくはない。
だから河野さんの解説にもかかわらずやはり一定の党派的バイアスは感じてしまうのだけど、「有権者はもっと勉強すべきだ」という主張は左右共にあり、勉強しろ要求する内容が左派はフェミニズムだのジェンダーだの環境主義だのであることが多く、右派は経済合理性であること(参政党支持者だと日本に関する考え方なども強いと思うが)が多い傾向はあるだろう。
そしてその勉強すべきだという内容について対立する相手の要求は双方とも理不尽であるとか排斥すべきだと感じていることが多く、会話自体が成り立ちにくいという現状があって、結果的に投票結果を突きつけられてこれが民意だ、ということになりがちだから、「民意は理不尽だ」と感じてしまう人が多いということなのだろうと思う。自民党に投票しなかったのに石破内閣を支持する、と世論調査に答える人が多いのは、投票は全年齢だが世論調査のバイアスが高齢者に傾きすぎである(固定電話にかけるというスタイルに固執し続けているため)ということもあるけれども、自らも加わって決定された「民意を反映した精力分布図」を「修正したい」という気持ちが強い人が多いということではないかと思った。もちろん、民主主義制度によって政治的決断の基礎となる議席分布が決定されるのは、選挙であって世論調査でないわけだが。
「私は果たして選挙権を有するに値するか。」
という言葉がつまりはこの文章の主眼なのだと思うが、これは「自分個人についてさまざまなことを考え、様々なことを学んだ上で投票行動を決定する、自分として後悔のない投票を行う」ための一つの心構えとしては理解はできるし、「だから勉強しましょう」、という呼びかけであるのは理解できるのだけれども、その問いを常にバイアスのかかったコンテクストに満ち溢れている社会に解き放ってしまうと「政治や科学がわかっていない奴は投票するな」という「上から目線」に感じられてしまうわけで、まあ結論としては「もっと言い方があったんじゃないですか」という気はするなあとは思った。
***
https://x.com/vismoglie/status/1955902275391774820
https://x.com/Ten88neT/status/1955638401656570092
「地方には美術の美の字も存在しない」と「美術手帖」の編集長氏が書いていた、ということが炎上しているようなのだけど、イオンモールの明かりしかない地方都市、というのを調べてみると三重県鈴鹿市のことらしく、私の友人の画家が住んでいる街なので、「美術は東京にしか存在しない」という認識自体がカワイイというか微笑ましいというか、下のツイートのようなことを感じた。鈴鹿にはイオンモールだけでなく、多分画廊もあるとは思う。
https://x.com/copinemickmack/status/1955920235716038749
一方では地方に住んでいる時間が長い立場としては下のツイートのようなことも感じるわけである。
https://x.com/fukiteasobiki/status/1955793218983092691
https://x.com/kusakashinya/status/1955811747853689011
これは実は結構色々な問題を提起している、ということがあるのだけど、消費者と作り手という問題から言えば、これらの指摘がその通りだなと思う。
https://x.com/PKAnzug/status/1955793434108944861
https://x.com/_0ranssi_/status/1955881501796786442
マンガやアニメなどで「聖地巡礼」というのが生まれるのは、そこで描かれている多くは地方の風景がその作家の心象風景を形作る重要なファクターであることが多いからで、そういう意味での「資本」は地方にも、というかどこにでもあることは確かだろう。
多くの人が指摘はしているが、「美術手帖の編集長」という立場の人が、さまざまな批判や賛同から耳を塞ぐのは残念な気がして、自らの「美術」観や「美」に対する考え方を返答として発信していけばいいのにとは思う。
しかしおそらくは問題の本質は美術界の「藝大偏重体質」「アカデミズム偏重体質」みたいなものにあって、そこから外れる不規則な出現の仕方をするアーチストたちには「アウトサイダーアート」であるとか「アール・ブリュット」のような評価をしがちだということが大きいのだろうなという気はする。
この辺は「ブルーピリオド」でも「権威主義の藝大教授」として描かれている人がいて、彼は足繁くさまざまな美術展や個展に足を運ぶのだが、「どこの大学を出たか」を必ず聞くらしく、主人公の八虎は「そんなこと聞く必要ある?」と反感を感じるのだが、つまりはこのシリーズでは反権威主義の「アートコレクティブ」と「藝大アカデミズム=権威主義」の対立について書いているのだけど、この編集長氏の感覚は、より大きな意味での権威主義であるようには思う。
美術界の権威主義=アカデミズムというのはやはり結構すごくて、尖ってて反体制的に感じらる村上隆さんや会田誠さんも藝大大学院を出ている。地方美大を卒業したスターといえば奈良美智さんだが、彼も愛知県立美大を卒要した後はドイツの18世紀に設立されたデュッセルドルフ芸術アカデミーで5年間学んでマイスターシューラーを獲得していてるわけである。
逆にいえば、現代の美術界というものがいかにそういう方向に向かって閉じられているか、ということを一般の人はそれほど認識していない、という問題もあるのだろうと思う。ネット時代になり、特にマンガなどの大衆芸術においてはいかに広い裾野から才能を見つけ出すか、が勝負になっているが、アートは相変わらず倍率100倍を超える藝大油画の学生の中から原石を見つけ出す、みたいな仕事になっていて、一般の人の美というものに対する感覚からかなりかけ離れているということもあるのだろうという気はする。
日本人は西行にしろ啄木にしろ良寛にしろ「陋巷」にあってすごいものを作っている人たち、みたいなのが好きなので、ジャンプルーキーで描いていた漫画が見出されて本連載になり、大ヒット!みたいな話はいいけれども、「美術のない田舎」で苦労して学んで東京に出てきて都会でいっぱしの仕事をし、故郷に帰ってきて故郷をディスる、みたいな物語に対しては共感度はやはり高くはないだろうな、ということなのだろう。
まあ「美」というものはできればもっと自由なものであってほしいわけだが、実際には社会システムの中に組み込まれているものでもあるから、そのシステムが極めて薄くしか存在しない「田舎」というものを残念に思ってしまう、ということが、一般の人々の「アートに対する幻想」みたいなものを損なってしまった、と解釈しておくのが妥当なのかもしれない。編集長氏が鍵を閉じてしまったのも、そういう一般の幻想によって美術という業界が成り立っている面もあるから、身も蓋もないことを言って仕舞えば自分の飯の種にも影響するという側面もあるということだろうとは思う。なんだか世知辛い話になってしまった。
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