「江藤淳と加藤典洋」:左翼的な戦後史と国民再統合の戦後史/今日発売・更新のマンガが面白い:「宇宙兄弟」「POLE STAR」「キングダム」「忘却バッテリー」/救済と解放・原理主義と修正主義・リベラル左翼の企図する「実質的な革命」
Posted at 25/06/12
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6月12日(木)晴れ
昨日の午後から雨が上がり、少しひんやりしたのか、今朝外に出たらなんとなく寒いかなと思ったのだけど、気温は15度あって、もうこの時期になるとそれくらいで寒く感じるのかなと思ったり。今朝読んだ漫画はどれも面白いのが多く、特にDモーニングの「POLE STAR」と「宇宙兄弟」が良かった。「POLE STAR」の方が、ポールダンスの初めてのジュニア向けコンクールの舞台で、才能を開花させる様子。「宇宙兄弟」は宇宙空間を漂流してしまった六太を月周回軌道を一周したところで日々人が捕まえた後の、緊張が緩んでいく様子。どちらもとても良かった。
ヤングジャンプでは特に「キングダム」での韓の降伏の際の混乱の中、それを鎮めるために血気盛んな将兵を導いて脱出させ、城内を平穏にしようという韓の将軍・洛亜完の行動。それに先んじての韓の公主・寧の捨て身の説得。お膳立ては十分できていたけれども、この見せ場でそれぞれのキャラクターが最も盛り上がる展開に動くというのはやはり熟練の技だなと思う。
木曜日のジャンプ+では個人的にインディーズの「気になる来見さん」と「姫死んじゃった」も好きなのだが、やはり今日は「忘却バッテリー」が良かった。「恥将」と「智将」の二重人格になっている要が、本来の人格のバカの「恥将」の方が眠ってしまい、クールな「智将」が甲子園出場をかけた東京大会決勝戦を戦っているのだが、一年生投手の瀧が打たれたことを引きずりながら打席に立ってしまう。結局サードゴロを打つが、瀧のために少しでも頑張りたいという思いがファーストへのヘッドスライディングという本来やるはずのない非合理的な行動として現れ、それが周りを盛り上げる。この胸熱の場面に混ぜるギャグの匙加減がやはり天才を思わせると常に言われていたが、今回も本当にその通りだった。
***
今朝は昨日うまく行ったパターンで先に「救済について」をテーマにした文章を書こうと思ってメモなどしていたのだけど、身体的な救済みたいなところから性的な救済、イメージとしては戦場で生死を彷徨った兵士が後方に戻ってきて売春宿で性的なサービスを受けることで身も心も救われる、みたいなイメージがあるのだけど、これはもちろん自分が経験したことのないことなのでやや観念的ではあるなとは思った。
そこからいろいろ考えているうちに「性」によって救済される、というのが習慣化すると「性依存症」になる恐れがあるよなということを考え始め、そうなるとつまり「救済」というものには常に「救済依存症」みたいなものが付き纏う可能性はあるなということを考えたりした。多分本来の宗教的な救済においても救済観念への依存みたいなものはおそらくあって、例えばオウム真理教の信者が地下鉄サリン事件の実行役になった時、ある種彼らの説く「救済」に依存することで自分のやっていることを正面から見ないようにしていたのではないか、というようなことを考えたりした。
また「性による救済」みたいなことを考えると、同時に「性的な解放」というもの、つまり第二次フェミニズムだろうか、のあたりが唱えた「性の革命」みたいなものがある、つまり、「救済と解放はどう違うか」みたいなことを考え始めたりもした。
「解放」というものは自ら勝ち取るイメージがあり、革命的・左翼的な感じがするが、「救済」は神やある種の上位者によって「与えられる」、宗教的なもの権威的なものというイメージがあるといえばある。「子供の笑顔に救われる」というのも、もちろん自分の子供だからということもあるだろうが、子供という普遍の存在とその向こうに感じられる神とか人類とか世界とか宇宙みたいなものとのつながりが感じられるから、ということもあるだろう。だから「救済」には「この世の中にすでに定められた」秩序感があり、もともと世界というOSの中にインストールされたアプリのように感じる部分があって、そういう意味で保守的なイメージに繋がるのかもしれないなとも思った。
逆にいえば最も左翼であるはずの「共産主義思想」が左翼的であるのに権威主義化しやすいのは、それが往々にして「逆らいがたい存在を中心とした「救済」的宗教の似姿」であるからなのかもしれないと思った。
共産主義革命が永久革命として一刻にとどまらず世界に拡散していくものだとするなら、権威の構築よりも解放された自由闊達さが重要度が高いのでその正確に「解放」的側面が強いが、永久革命をやめて一国社会主義の方向へ「修正」されてスターリニズムや毛沢東主義になってしまうと、絶対的権威の構築にかかり、その恩恵としての資源の分配や名誉の分配といった形で萎びた「救済」が配布されるようになるのかもしれないと思った。
この辺りは昨日読んでいた呉智英「吉本隆明という共同幻想」の第3章の中で「原理主義」と「修正主義」についての議論があり、本来共産主義は世界革命を目指すのだからトロツキーの方が原理主義的であり、スターリンの方がいわば「修正主義」なのだ、という指摘があって、これは割とすんなりと腹に落ちるものがあった。
トロツキーが人気があるのは彼が知性派であり、芸術にも造詣が深く、彼が権力を持っていた時代には「ロシア・アヴァンギャルド」の前衛的な芸術が栄えたということもあるのだが、そのトロツキーは反面原理主義者であって、この辺りはキューバ一国の革命で終わらせたカストロと中南米全体の革命を目指したチェ・ゲバラの相似形にも見え、ゲバラが人気のある所以とも重なる。
https://x.com/ganrim_/status/1932787387001942137
ネットで読んでいる山内雁琳さんの議論でも、今の左翼は冷戦崩壊以降リベラルに食い込んできていわゆる「リベラル左翼」として市民派を称しているが、実はいまだに革命を諦めていないのだ、ということを言っていたけれども物分かりの良さそうな顔をして文化を重視するタイプのリベラル左翼というのは実は原理主義的な思想を持っていることが多い、ということはありそうな気はする、というか選択的夫婦別姓を唱えるフェミニズムや同性婚を合法化しようとするLGBT運動、そのほか外国人参政権運動など、その他の形で従来の秩序を大きく変えていこうとしている人々は確固とした思想を持ってやっているという点で本来リアリズム的側面が強いリベラリストとは全く違うということは確認しておいた方が良いと思った。
彼らが目指しているものは「解放=革命」であるのに、国家からの支援という形での「救済=恩恵」を利用しようとしているわけで、その辺のところはもう少し整理された方がいい感じはするなと思った。
というわけで救済論を考えているうちに性や宗教や政治の方に脱線していて、というか救済とか解放というものは本来的にそういうものを含んでいるのだということを改めて認識した、ということなのだろうと思う。
***
そのほか「近代イタリアの歴史」、與那覇潤「江藤淳と加藤典洋」、伊藤剛「テヅカ・イズ・デッド」を並行して読んでいる。「近代イタリアの歴史」では18世紀啓蒙主義の時代はイタリアでは経済学が盛んになってそれが19世紀のリソルジメントを用意したとか、「テヅカ・イズ・デッド」では「NANA」について、「キャラクターは立っているがキャラは立っていない」という議論についてとかいろいろ興味深い部分はあったのだがとりあえずメモにとどめておきたい。
「江藤淳と加藤典洋」については、読んでいて非常に「左翼から見た戦後史」という感じがしたのだが、これはいわゆる「天皇の人間宣言」に関連して「元共産党員」の太宰治「斜陽」を取り上げ、新憲法下での最初の内閣が片山哲の社会党連立政権になったことに関連してこれも元共産党員である椎名麟三「永遠なる序章」を取り上げていることなどから、やはり「左翼」とか「転向者」から見た「敗戦」と「戦後改革」という感じが強いなと思ったこともある。まだ読んでいる途中なので「そういう感じがした」とだけ書いておきたい。
例えば私が戦後史というものを文学批評的な視点から書くとしたら、藤原てい「流れる星は生きている」は絶対入ると思うのだが、読んだ限りでは「満洲からの引き揚げ」という国民的な動きについて触れていないように思う。沖縄返還については「限りなく透明に近いブルー」に関連して触れているようだ(まだ読んでいない)が、作品の内容を考えても(「限りなく透明に近いブルー」は中学生の頃割と同時代で読んだ・当時はなんだかよくわからなかったが)、「バラバラにされた国民の再統合の物語」としての「沖縄本土復帰」ではないだろうなと思う。
ということを考えているうちに、つまりは私が同趣旨のものを書くとしたら、敗戦によってバラバラにされた国民、例えば「軍部と一般国民」とか「戦場で捕虜になったりシベリアに抑留された人々と本土で復興に勤しんだ人々」とか、「沖縄県民と本土の国民」とか、「天皇と国民」とか、そうした一旦バラバラにされたものがどうやって再統合されていったのか、みたいな記録として文学その他を使って描き出す、みたいなことをやったらいいんじゃないかという気がした。
国民的再統合はおそらくは高度経済成長があって国民総中流化と言われた時代がいわばピークで、それから新自由主義の導入による格差社会化やフェミニズムなどの解放=革命思想の風靡によって再度解体が始まっているというのが現状であるような気がする。
「国民的歴史」というのはそういうものであるべきだと思うのだが、まだあまりそういうものは読んだことがないなとは思う。この世にないのなら自分が書くしかない、ということなのかもしれないが。
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