「中国なにするものぞ」で始まる東京新聞の論説記事について考えた

Posted at 26/01/03

1月3日(土)晴れ

東京新聞の「新年に寄せて」という論説記事が話題になっている。

https://x.com/KadotaRyusho/status/2006989999720571267

https://x.com/masa_0083/status/2007225421218361782

https://x.com/yk_seculligence/status/2007157084845179116

https://x.com/tweet_tokyo_web/status/2006891484143038854

https://news.yahoo.co.jp/articles/b9495c30b1cc48337b1c43afe8d4f268b2d143f9

全文を読んで見たが、まず一番目を引くのが冒頭の「中国何するものぞ」から始まる段落だろう。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/459463

まず私は、「中国何するものぞ」というフレーズ自体を見たことがなかったが、それに続いての「進め一億火の玉だ」というのは日米開戦前に大政翼賛会作詞という形で作られたスローガンであり軍歌である。これはウィキペディアによればマレー開戦の当日(昭和16年12月8日)のニュース放送で間奏曲として用いられたそうなので、つくられたのは日米戦争中ではないようだが、開戦によって人口に膾炙するようになったスローガンであり曲だということなのだろうと思う。

「日本国民よ特攻隊になれ」に至っては保守派や安全保障を担う人たちにとっても作戦として間違っていたという人の方がほとんどなわけで、そんなことをまともな人間が言うはずがなく、いうとしたらむしろ中国やロシアなど認知戦を仕掛ける勢力側であろうと思われる。(神風特攻の評価は実際の戦果や米軍に与えた心理的効果についての評価はそう単純ではないが、イスラム過激派の自爆テロなどが行われるようになった現在としては特に、今後の作戦としてやるべきではないということについては否定する人はいないだろう)

それを結ぶのに、「ネットには威勢のいい言葉が溢れています」とまとめているわけだが、先ずそれを事実として延べていることについて異論が噴出しているというのが上に並べた様々な意見の引用になる。

したがって、この言説自体がほぼ捏造と言っていい内容になっていると判断している人が多いということになる。このあたりはいずれ東京新聞の側から弁明はあるかと思う(なかったらかなり問題だと思う)ので、この件についてはこれ以上言わないが、その上でこのフィクションの提示によって何をこの記者が述べたいのかについて考えてみたい。

まず段落ごとに主張をまとめてみよう。それについて私自身の見解も述べてみる。

1、ネットには好戦的で威勢のいい言葉が溢れている。 

私見・その事実の提示には誤りがあると思われる。

2、ロシアやイスラエルの破壊的な攻撃から、中国の軍拡を見て脅威を覚えるのは「仕方がない」が外交努力を放棄すべきではない。

私見・中国に対しびびっている人がいる、という指摘はそうだと思うがその人たちが開戦を主張しているという言説を見たことはないし、外交努力を放棄せよという主張も私は見たことがない。びびって「中国と戦っても負けるんだから中国に従え」と言っているのはおおむね左派の方々であると思う。

3、トランプ大統領「でさえ」高市首相の台湾有事発言のあとエスカレートを避けるよう要請した。

私見・トランプは基本的に「他国のための戦争」に非常に消極的な人物であり、「でさえ」という表現はトランプの人物評価として誤りだと思う。また高市首相は台湾有事の際の日本の対応について述べただけで、それに対する中国側の非難はもともと言いがかりにすぎないから相手にすべきではないし、そこは日米で共有されているはずである。「好戦的な」高市首相を「より好戦的とされる」トランプ大統領が「落ち着け」と宥めた、みたいな物語にして語るのは、中国側が喧伝しようとしている「侵略主義的な日本、好戦的で軽率な高市首相」という物語=ナラティブに進んで協力するものである。

4、憲法9条改正が議論され、日中関係が小泉首相の靖国参拝等によって日中関係が戦後最悪と言われた2005年に戦争の時代に生きていた人に話を聞いた。

私見・憲法改正が議論されたり日中関係が最悪であることと戦争経験者の話を聞くことの関連性がよくわからない。憲法改正や中国の反日的な動きについて「すわ戦争!」と煽っているのはこうしたメディア側である、ということをむしろ自ら認めているということにもなる。憲法改正は自衛権についてはっきりさせるためのものであることは明確で、それを第二次世界大戦でのアジア進出に結びつけて語るのはあまり意味がない。日本が侵略されるということが議題になっているのにこれから日本が侵略するということを前提に話を進めるのはためにする議論である。結局のところ、安倍政権下で安保法制が整備されていったために憲法改正の議論は下火になったわけで、憲法が改正されずに守られたことを寿ぐなら安保法制自体を評価すべきなのではないか。

5、東京大空襲で死にかけた半藤一利氏は戦前は新聞に煽られて国民は好戦的になったとし、中国この野郎という威勢のいい言葉は熱狂を生むとしている。

私見・半藤氏の言葉は完全に新聞批判であり、「中国この野郎」も「威勢のいい言葉」も新聞が煽った内容である。そしてこの文章を書いている人は新聞記者なのだから、新聞の責任、メディアの責任について深く自覚しているとか新聞報道に対する強い自己批判があっていいはずなのにそれがなく、「ネットの無責任な好戦的言説」に責任転嫁しようとしているのはいただけない。新聞が「国民感情の好戦的な煽り」に振れるならば、まず最初の一節くらいは過去の新聞の報道姿勢に対する反省や自己批判から入るべきだろう。それがなければだれも耳を傾けない。

6、7、沖縄戦で学徒動員された新垣秀雄氏は「お国のために死ぬことは名誉だと思っていたが本当は怖かったということが分かった」と述べ、「戦場は生易しいものではないからそれを子供にも理解させるよう語り続ける」と述べている。

私見・戦争に兵士として参加した人の声としては理解できる意見だが、負けた戦争だから失ったものが多すぎて得るものがなかったためにそういうしかないという意見でもある。
こうしたナラティブは子どもたちへ戦争への忌避感を育てるためのものなので突っ込みにくい構成になっているわけだが、よりリアルに戦争への忌避感を伝えたいならウクライナやガザやダルフールでの惨状の方がよりリアルに伝わるものはあるだろう。実際のところ、そうした場面を直に見せたらPTSDを起こしかねないような内容であるし、それらを禁止するなら戦争体験を語ること自体も問題はあるのではないかという意見もあるかもしれない。戦争の怖さを教えてショックを与えたいという主張もあるかもしれないが、これは男性に生理痛体験を電気ショックで与えるような見当外れとやや通じるものがあるような気はしなくもない。

いずれにしても私の意見としては子供たちに伝えるべきはこうした情緒的な戦争忌避感情ではなく、外交や安全保障政策の努力によって戦争を防いでいくための仕組みづくりの努力や戦後80年の平和国家としての日本の歩みとそれが中国や北朝鮮・ロシアなどによって脅かされている現状についての認識なのではないかと思う。

8、現代は「国民的な熱狂が作られている時代」なのではないか。自分たちはそれを防ぐための報道に邁進したい。

私見・「国民的な熱狂が作られている時代」などという認識が全くないのでなぜそんなことを主張するのかと考えてみたが、要するに「高市首相が好戦的だからそれを選んだ国民も戦争に傾いている」という見解に基づいた意見開陳であるということだろう。

つまりは「支持率下げてやるww」の延長線上である。そして自分たちを「戦争を止めようとしている高潔なメディア戦士」であるという自己陶酔も感じられ、自己完結した議論であった、という徒労感を煽ることに成功している、と感じた。

結局のところ、言っている内容には全く新味がないように思う。そしてその新味のなさを補うために「中国何するものぞ」というような「威勢のいい言説が存在する」ことにし、「国民的熱狂が今にも生まれようとしている」というフィクションを力説し、「それを止めようとすることを正義の左派マスコミの使命として宣言する」という自己陶酔的・自慰的・左派慰撫的ナラティブのいじましい縮小再生産を読まされたという感想を得たわけである。

***

こうした言説はは今までも散々くり返されてきたわけだが、戦後81年の2026年になって、その内容も説得力も著しく低下してしまったために、さまざまなフィクションや好戦的な権威主義諸国による日本攻撃のナラティブを混ぜつつ反戦物語を何とかでっち上げたということなのだろう。東京新聞の熱心な読者ならその大胆な新味の混ぜ方に興奮する人もいるかもしれないのだが、客観的に見たら左派メディアの凋落の無惨さがより明らかになっただけのように見えるように思う。「右翼軍国主義」の高市首相の登場は起死回生のチャンスだという肩の力の入り方は分からなくはないが、多くの人が見て明らかにおかしいと感じられるような事実提示に基づいた論説の展開はやめた方がいいのではないかと思った。

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