日本社会の問題解決のために/トッドの主張と私の考えたこと:エマニュエル=トッド・インタビューを読んで(5終)

Posted at 21/01/28

エマニュエル=トッドのインタビューについて何回かにわたって書いてきたけれども、今回が最後、第5回。


トッドは歴史人口学者であり、人口や識字率の統計的数字の変化から社会の変化を読み解き、今後を予測して各国の消長を述べ、その上で提言するという形をとっている。

日本の人口減に関しては「非常に難しい」としていて、これは先行きがあまり明るくないという意味だが、Wikipediaによればトッドは「世界の多様性」(1984)において家族型と社会の関係を示している。その家族型は8種に分かれるが、日本はそのうち三番目の「直系型家族」とされていて、その特徴は次の通りである。

世界の多様性 家族構造と近代性
エマニュエル・トッド
藤原書店
2008-09-20

 

「子供のうち一人(一般に長男)は親元に残る。親は子に対し権威的であり、兄弟は不平等である。ドイツ、スウェーデン、オーストリア、スイス、ルクセンブルク、ベルギー、フランス南部 (地中海沿岸を除く)、スコットランド、ウェールズ南部、アイルランド、ノルウェー北西部、スペイン北部(バスク)、ポルトガル北西部、日本、朝鮮半島、台湾、ユダヤ人社会、ロマ、カナダのケベック州に見られる。イタリア北部にも弱く分布し、また華南に痕跡的影響がある。多くはいとこ婚を禁じるが、日本とユダヤではいとこ婚が許され、ロマにおいては優先される。基本的価値は権威と不平等である。子供の教育に熱心である。女性の地位は比較的高い。秩序と安定を好み、政権交代が少ない。自民族中心主義が見られる。」

これを踏まえた上であろう、トッドはインタビューで「日本は長男を重視する父系制社会で、女性が子供を産んでなお働くのはあまりいこととは見られない傾向がある」とする。そして「女性の地位向上や解放がなされなければならず、メンタリティの改革が必要」であるとする。

このあたりは典型的な欧米知識人の日本社会認識であり、これは正直いろいろと異論があるけれども、「女性が子供を産んでなお働くのがいいこととみられない」傾向はあるところにはあるだろうと思う。現実には結婚している女性は特に働いている女性の方が子供の数が多いとか、むしろ結婚が減ってきているために子供も少なくなっているというのが現実だとは思う。

ただトッドの提案である「中等教育・高等教育も政府がもっと負担する」ことは全面的に賛成で、この政策のシフトはどうしてもやる必要があると思う。これは少子化を食い止めるだけではなく、社会階層のこれ以上の分化を食い止めるためにも重要なことだ。

逆に言えば今の政策の方向性は社会階層の格差の拡大の方向に大きく向いているわけで、これを是正しなければ日本の将来は暗いように思う。

そしてトッドは移民受け入れを提案し、出生率向上と移民受け入れが日本社会の優先事項だとしている。これにももちろん異論がある。人口が減った分異文化の人々を移民として受け入れるというのは「フランスではうまく行っている」とおそらく考えているのだろうと思うが、これは典型的なフランス知識人の考えで、特にイスラム系移民の不満がテロリズムの温床になっていることにかなり無頓着だと思う。日本社会がそのような緊張に耐えられるとは思わないし、その方向性は阻止すべきだと思う。

歴史人口学の経験的な法則から、女性の識字率が上がると出生率が下がるという法則が導き出されているけれども、アフリカに関してはこの法則が当てはまらないという新たな問題が起こっているのだそうだ。つまり、アフリカでは女性の識字率が上がっているが出生率が下がらないのだという。

「世界の多様性」によればアフリカの家族型は八番目の「アフリカ・システム」であり、以下のような特徴がある。

「一夫多妻が普通に見られる。この一夫多妻は母子家庭の集まりに近く、父親の下に統合されるものではない。女性の地位は不定だが、必ずしも低くはない。離婚率が高い。それ以外は多様であり、民族により共同体家族的でも直系家族的でもあり得る。北アフリカとエチオピアを除くアフリカに見られる。」

この辺りに実は日本の少子化問題の解決の可能性があるかもしれないという気はした。日本の婚姻の傾向は、一生独身の男性が多い一方で何度も結婚している男性が一定数あり、「時間差的一夫多妻制」になっているという指摘がある。現実にはそれにより「母子家庭の集まり」がたくさん生まれている可能性がある。ということは結局女性が家族の家系の担い手でなければならず、実際に多くの母子家庭でそうなっているけれども、現在の女性の労働の待遇は大変低いのは周知の事実である。

従って、特に母子家庭の女性の待遇を向上させることで結婚した後の離婚で起こるリスクを低減させることで、女性が結婚に積極的になり、婚姻数を向上させれば必然的に出生率も上がるのではないか。まあこの辺りは今のところはある種の思考実験なのだけど、人道的ないしは人権上の見地からも母子家庭を持つ女性の労働条件・給与面での待遇などを飛躍的に向上させることは必要だと思う。

その他トッドが述べているのはEUがドイツが権力を握る状態になっていて、まとまった決断ができない状態になっていること、世界的に「夢」や「理想」がなくなっているという問題。今「夢」のようにみられているものは環境問題を含め、「悪夢の裏返し」に過ぎないという状況。新しい夢が生まれ得るかということに関してはわからない、という。

彼自身は「研究以外、何もできない」という。震災の後東北を訪れたら農家の人が「ようやく野菜を植えることができた」と語ってくれたことが印象に残っているそうで、自分の仕事を続ける以外にない、という言い方で、日本人への共感を示してインタビューは締めくくられている。

インタビュー全体を通しての印象は、自分と問題意識が重なり、非常に示唆的だった部分と、やはり「フランスの知識人」に特徴的な見方、考え方から世界や日本を見ているのだなと感じられる部分の、両方があったように思われる。

経済的なネオリベラリズムが格差を拡大させたこと、「国家」や「民主主義」という枠組みの持つ可能性の見直し、「中国の脅威」に対する西側諸国の自己点検の必要性、「保護主義」の必要性、軍事面での「アメリカからの独立の必要性」などなどには非常に頷くところがあり、力を与えられた感じがした。

一方で中国の分析に対してはちょっとわからない(自分の研究不足もあるが)ところがあり、また日本社会の分析に関してはちょっと首を捻るところもあったが、まあ日本の問題に関しては日本人が取り組むべき問題であるので、興味深い示唆を与えられて良かったと考えておくべきだろうと思う。

そういうわけで、全体に大変興味深い内容だったということは、改めて書いておきたいと思う。トッドの著作も「帝国以後」(藤原書店、2003)と「大分断」(PHP新書、2020)の2冊は購入した。「「帝国以後」と日本の選択」(藤原書店、2006)と「世界の多様性」(藤原書店、2008)もamazonで注文してある。またおいおい読んでみたいと思う。

帝国以後 〔アメリカ・システムの崩壊〕
エマニュエル トッド
藤原書店
2003-04-30





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