『犬神もっこす』『夜明けの図書館』『後鳥羽院』『かくかくしかじか』など

Posted at 13/05/28

【『犬神もっこす』『夜明けの図書館』『後鳥羽院』『かくかくしかじか』など】

犬神もっこす(5) (犬神もっこす (5))
西餅
講談社

西餅『犬神もっこす』の最新・最終巻(第5巻)が出た。この作品はモーニングで連載時に全部読んだので単行本が出るときには改めて読み直すことになる。最初に読んだときは、学生劇団の生態や人間関係など、自分の経験に即した面に気を引かれてそちらの面白さを主に感じながら読んだのだが、今読みなおしてみるとむしろ、この主人公の心の中の閉ざされた闇の解明という、作品終盤の謎解きの方に集中して読んでいる自分を感じた。

人が生きるということは何にせよ何かを、過去の記憶や悲しみ、おそれや期待、様々なものを背負って生きることになるわけだが、彼が強く感じていたのは喪失への恐怖で、失うくらいなら最初から得ない方がいい、失うならば最初から仲良くならない方が、関係を深めない方がいいという心の閉ざし方を、終盤のヒロインである蔵前さんが犬神家の一族や劇研の皆が見守る舞台上で溶かし、開け放っていくという展開が緊張感を持って描かれている。長期間連載される作品の中には、途中まではすごく面白いのに終盤に来て失速するパターン(残念ながら『デラシネマ』がそうだった。何か事情があったのかもしれないのだが)があるのだけど、この作品は最後に渾身のエピソードを持ってきてきれいに一つの作品として約10か月の連載をまとめ上げていて、全体として幸福な作品にまとまった感じがして、僭越ながら祝福させていただきたい感じがする。よかったです。

夜明けの図書館(2) (ジュールコミックス)
埜納タオ
双葉社

埜納タオ『夜明けの図書館』第2巻。図書館のレファレンスサービスをテーマにした作品の第二弾。最近『図書館の主』や『草子ブックガイド』など、読書物・図書館もののマンガがいくつも出ているけれども、全回レファレンスサービスをテーマにした作品はこれが初めてではないかと思う。取り上げられたテーマは絵本、料理、小唄、植物。調査を依頼したのは20代の女性、男子高校生、年を取った芸妓、転校してきた女子小学生と、バラエティに富んでいる。どの買いがすごくよかったという感じでもないのだけど、何というか手軽な興味でサクサク読める。

こうした作品はいわゆる「薀蓄もの」というジャンルに入るわけだけど、このジャンルは以前は男性向けという感じがして、『美味しんぼ』や『レモン・ハート』、『王様の仕立て屋』などがその代表例として思い浮かぶけれども、最近は『茶柱倶楽部』やこの作品など、むしろ女性が主な読者だろうかと思う女性作家による作品が多く見られて、巻末の作者の独り言みたいなところを読んでいても、取材の大変さや楽しみみたいなものが女性の視点で描かれているのが興味深い。

並んでいる本を取るとき、背のかどに指をかけて取ると背のかどが痛むのでそうしたらいけないということが書いていて、確かに私はそうやってずいぶんたくさんの本を(おもに自分の本だが)傷めてきたなと思った。つい無意識にやってしまうのだが、こういうところは気を付けないといけないと改めて思った。

後鳥羽院 第二版 (ちくま学芸文庫)
丸谷才一
筑摩書房

そのほか昨日買った本は、丸谷才一『後鳥羽院』第二版(ちくま学芸文庫、2013)と東村アキコ『かくかくしかじか』第1巻(集英社、2012)。『後鳥羽院』は読み始めたばかりだが、定家はなぜ小倉百人一首に後鳥羽院の御製として「ひともをし ひともうらめし」の歌を上げたのかという探索から始まって、あまり大したことないと作者には感じられたこの歌を、定家は本当に院の代表作と考えて選歌したのではないかという見解にたどり着いていくところが興味深い。

かくかくしかじか 1 (愛蔵版コミックス)
東村アキコ
集英社

『かくかくしかじか』は第2巻が出てるのを見て第1巻から読んでみようと思ったもの。まだちらっとしか読んでないのだけど、この作者はこういうエピソード的なものを書くのが本当にうまいなあと思う。人生の辛さとか厳しさとかすごく経験して、それを乗り切ってきた感が凄い。逆に言えば基本的にものすごく強烈にポジティブで、現実と格闘しながらも勝ち続けてきたいわば最強の勝ち組だからこそ、こういう凄く苦い感触のようなものも臆せず描けるのだなとも思う。逆にこういう人たちにとっては、夢は実現させてしまうものだから、その夢を見ているときの感じというのがあまりリアルにならず、ギャグっぽくなってしまう感じがあるような気もする。その人だけにしか感じられない世界をどのように描くかというのが、ものを描く上では大事なことなんだなと思う。

Comic ZERO-SUM (コミック ゼロサム) 2013年 07月号
一迅社

今日は『コミックゼロサム』の発売日。『ランドリオール』の続きが読める。

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