ピンク・レディー:ひっくり返されたおもちゃ箱と1980年代の開放感

Posted at 07/05/25

一昨日の夜は相当咳き込んだものの結果的にはかなり眠ることができ、きのうの朝はだいぶ楽だった。

木曜日の朝10時からNHK-FMで葛西聖司アナウンサーのホストで作詞家の阿久悠が喋る番組がある。阿久悠の作詞家としての活動の履歴を振り返るのが趣旨で、いろいろな時代、いろいろな歌手が取り上げられているのだが、昨日は1970年代後半に活躍したピンク・レディーを取り上げていた。

ピンク・レディーは当初青少年(中高生くらい)の男子がターゲットとされていて、そりゃあもちろんそうだろうと思うのだが、売れてみると小学生以下の女の子に大人気だと言うことがわかり、途中から「気がつかれないように」路線を変更したのだという。私は1976年に中学2年だから、まさにターゲットの年代で、そのせいか特に好きということもなかったがよく聞いていた。76年暮の『ペッパー警部』に始まり、77年の『S・O・S』『渚のシンドバット』『カルメン'77』『WANTED』そしてその年の暮れに出た『UFO』までは順番も歌詞もよく覚えている。

しかし方向転換した『UFO』以降の曲はやはり当時の自分にとってはつまらなくなってしまったのであまり聞かなくなってしまったのだが、昨日改めて『サウスポー』とか『透明人間』とか聞いてみると、これはこれでいいなあと思った。ピンクレディーの前半期の曲にはかなり物語性のようなものがあったのだけど、後半期にはそういう難しいものはなくなり、言葉の面白さや言葉自体が持つ力のようなものが前面に押し出されている。『WANTED』なんて語彙は、それまで日本語にはなかっただろう。『UFO』にしても、6歳くらいの女の子が「地球の男に飽きたところよ、はあっ!」なんて歌っていると、やっぱりかわいいと思うだろう。大人っぽく見せた子供向けの歌詞なんだな、と思った。

ピンクレディーの曲と言うのは、阿久悠自身が言うように、「おもちゃ箱をひっくり返したような」面白さ、楽しさが詰まっている曲なんだ、ということが昨日聞いていて強く実感された。時代もちょうど日本経済が世界で急に存在感を増しつつあった70年代後半、またターゲットの世代も当時の言葉でいえば「新人類」、この世代が大学に入るころから「ニューアカ」ブームが始まり、すべてが相対化され、脱構築され、「何でもあり」の奇妙な開放感に満ち溢れた80年代が始まる。これをどこかの雑誌で「80年安保」と表現していたが、70年の世代が反抗の世代、言葉による既成秩序との戦いの世代だとしたら、我々の世代は相対化による無化の世代、「特に価値のあるものは特にない」、というある種の呪文のようなものが支配していたように思う。それはあらゆる知の要素をひっくり返しておもちゃ箱のように楽しもうという時代だったし、私自身もそれを満喫したのだなと思う。

だから今考えてみると、ピンク・レディーの存在というのはとても象徴的なのだ。こうした80年代を予見していたともいえるし、準備していたとも言える。

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これに関連してオリコンチャートの1位をずっと調べてみた。オリコンは1968年にはじまっているので、私にとっては一応同時代に聞いた覚えのある曲が最初からある。知らないのも多いけれど、10週以上1位を続けたような曲は大体知っている。自分の意識としては、大学に入ってから「歌謡曲」を聞かなくなった、と思っていたのだが、大学4年のころの1位の曲はほとんど知っているのだ。それが突然1985年の4月ごろから知らない曲ばかりになる。これが実に劇的に変化していて驚いた。何が合ったのか自分の生活史を振り返ってみてもあまりぴんとくることがないので、多分インディーズ系(当時そうは呼ばなかったけど)の方に関心をシフトさせたということではないかという気がする。チャートを見ると「おにゃん子」系の歌手が増えていて、そのあたりがあまり好きではなかったし、またアート方向の志向を意識的に強めた時期だったんだろうと思う。

あ、わかった、戸川純とかを聞き始めたころだ。そうか、それだけこの歌手が自分の中で存在感があったということなんだ。で、これ以降、誰もが知っているような曲は全然知らない、という傾向が強まっていくことになったのだ。

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11時前に出かけて松本へ。体を見てもらったら、今回の体の状態は「冷え」と「頭の使いすぎ」が原因だろうといわれた。「冷え」は確かに実感がある。東京と信州を往復していると信州ではつい薄着にしたり暖房を入れなかったりして、自分でもちょっと我慢のし過ぎかなと思うことがよくあった。いろいろていねいに見てもらって、だいぶ体が楽になる。夜は早めに床についた。かなり咳は出たが、3時ごろと7時ごろに目が覚めたけどはっと気がついたら9時前になっていた。体全体を緩めてもらったのだろう、起床の感じも楽だったしさわやかな感じだ。今日は声を使わなければいけない仕事があるから、それがどのくらいいけるか、ということなのだが。

それにしてもピンクレディーは、資料としてもなぐさめとしてもワンセット持っていたほうがいいかなと思った。

ピンク・レディー ~TWIN BEST
ピンク・レディー
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