丸の内と神保町の散歩/「鎌倉殿の13人」第47回「ある朝敵、ある演説」を見た:目力の強い小池栄子さんの素晴らしい北条政子を見られた

Posted at 22/12/12

12月12日(月)晴れ

昨日は7時の特急で東京に帰り、東京駅でお昼の買い物をした後丸善で本を探してブラックローズ・リンゼイ「「社会正義」はいつも正しい」(早川書房、2022)を買った。これはポリコレ批判ということで日本で物議をかもし、出版社の担当編集者が訳者の書評をサイトに掲載したことを批判されて謝罪するというおかしなことが起こったことで、こういう中立的な本でさえ攻撃と感じるようなメンタリティを持っている人たちがいるのだなと改めて思い、リベラルや自由主義というものの現状を考える上で重要だと思って買ってみた。それから来年のカレンダーを探してみたのだが、いいと思うのが見つからず、とりあえず今回はやめて帰宅。

午後から神保町に出かけて本を見たが、古書店で「図説日本人の源流を探る 風土記」(青春出版社、2008)と「HK2001 コシノヒロコ作品集」(光琳社出版、1997)を買った。買ってから気づいたのだがこの作品集はめちゃ重で、持ち運ぶのが結構つらかったのであまり書店を見て回る余裕がなくなり、書泉グランデのコミックフロアを一通り見ただけで帰ることにした。東京駅に出て成城石井で夕食を買ったが、こまごましたものを買おうとしたけれどもどれも高くて、普段行ってるスーパーでは抑え目にされているだろう値段がこういうところではちゃんと反映されているのだなと思ったのだが、どうも無理して買わなくてもいいやという感じになってしまったのであまり買わなかった。

結局早めに帰って、4時から「鎌倉殿の13人」のタイトルバックの秘密という15分番組をみたのだが、細かいところに込められた工夫がわかりいろいろ面白かった。早めに入浴し、何となくエディ・ハーディン「Dawn 'til Dusk」を聞いていた。リラクゼーション効果はあるな。「コシノヒロコ作品集」、まあなんということはなく1000円だから買ったのだが、ぱらぱら見ていて気付いたのはモデルのメイクがいかにもの「アジア人メイク顔」であったことで、まあこのころの流行というものかと思ったが、「欧米から見たアジア人の顔」をなぞっているような感じがあり、そのへんちょっとどうなのという気はした。

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・・・書いている途中で、朝日が差し込んできた。そういえばここ、そういう部屋だったな。

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早めに夕食を食べて8時から「鎌倉殿の13人」第47回「ある朝敵、ある演説」を見た。

https://www.nhk.or.jp/kamakura13/story/47.html

実朝暗殺後、京の朝廷と鎌倉の義時の間では軋轢が高まっていたが、藤原三寅の鎌倉下向もあり、表面上は波風は立っていなかった。しかし上皇が源頼茂を討ったことによっておこった大内裏の焼亡という事件を受け、上皇は全国の武士たちに再建を命じるが、義時がそれに応じないと御家人との間がぎくしゃくし始める。一方義時との中が微妙になり始めていたのえ(伊賀局)は兄の伊賀光季が京都守護に任じられたことで少し機嫌を直していたが、政村を執権につけるという野望は忘れていなかった。

京都では縁戚の三寅(兄の曾孫)を鎌倉殿候補として送り込んだ慈円僧正が後鳥羽上皇に疎まれて側近から遠ざけられると院の周囲は武闘派のみとなり、ついに京都守護伊賀光季を討ち果たし、関東の御家人たちに義時追討の院旨がおくられる。

ここまでは三浦義村が裏で暗躍することをのぞけば(これは史実としては明確ではない)史実どおりなのだが、京から派遣された密使「押松」が実は平知康だった、というのはさすがにないだろうと思った。あえてそうした意味は今のところよくわからない。面白いから、が理由であるとしたらまあ、面白くなくはないのだが。

以下はドラマの展開に沿って。

義時はこの事態を受け、鎌倉を守るために自分の身を上皇に差し出す決意をし、それを告げるために御家人たちを招集するように命ずる。それを立ち聞きしていたのえは、兄が殺されたこと、また殺されるかもしれないと義時が知っていた(とのえが思った)こと、また義時自身が戦わずに身を捨てようとしたことを知って激しい怒りの表情を見せる。これは菊地凜子さんの今まで溜めに溜めた演技だなと思ったし、だからこその強度だなと思った。

義時は政子と実衣のもとにそのことを告げに行き、「平清盛や源義経、源頼朝と同様に伊豆の小豪族出身の自分が朝敵と認定されるとは、面白き人生だった」という。微笑みさえ浮かべたこのあたりが小栗さんの演技の一つの頂点なのだなと思った。

政子は止めるが義時の決意が固いことを知ると何とかしようとし、御家人が集まる際に自分が御家人たちを説得しようとして、その草案を大江広元に書かせる。

御家人たちが集まった場面は壮観だった。下の小池栄子さんの動画とインタビュー記事にもあるが、エキストラは80人に及んだそうで、その場に義時が決意を告げようとするのは本当の物事が動きそうな感じに見えたわけだけど、その場に実衣を連れて現れた政子は普段の白い頭巾ではなく赤紫の頭巾をかぶっていて、義時の発言を制して大江が書いた演説を読もうとする。

https://www.nhk.or.jp/kamakura13/special/movie/cm4702.html

https://www.nhk.or.jp/kamakura13/special/interview/090.html

しかし結局政子は「書かれたものを読む」のではなく「自分の言葉」で話し始める。これはもちろん歴史上名高い政子の大演説で、ここからは「小池栄子の演じる北条政子」の独壇場になる。

まず史実では御家人たちに頼朝の恩を説き、それを捨てて上皇に従うのかと説き伏せるわけだが、小池さんの政子(もちろん三谷さんの政子でもある)は後鳥羽上皇が狙っているのは執権義時の首であることを明言する。このあたりは「政子は義時のみが朝敵であることを隠して鎌倉全体への攻撃と言いくるめて御家人たちを説得した」と考えられている史実を逆手にとって、義時だけが朝敵だと言えば、御家人たちは義時の首を差し出すと思われている、それでいいのか?と訴える。

執権義時に反感を持っているものがいることは自分は知っている、この人はそれだけのことをしてきた、とぶっちゃけるのもすごいが、でもね、この人は私利私欲はなかった、鎌倉のためにとだけ考えてやってきた、そして今、自分を上皇のもとに差し出すことで鎌倉を救おうとしている、と訴える。

それでいいのか?という問いは御家人たちにまっすぐ届き、政子自らが「バカにするな!そんな卑怯者は坂東に一人もいない!」と心の底から叫ぶことで御家人たちの心を揺り動かす。このあたりの小池さんの目力はさすがだと思ったし、実際のところこの場面のために一年間の演技があったという感じがした。

これは先週も書いたが、政子が尼将軍と宣言したのは阿野時元の陰謀に加担した実衣を義時の断罪から救うためだったわけだが、この大演説は上皇から義時を救うためという演出になるだろうと予想はしていたのだが、まさかここまで「義時を助ける」ということが政子の演説でフィーチャーされるとは思わなかった。

この場面で「尼将軍の言葉を聞け」と呼びかけるのが弟の時房であり、「鎌倉のためだけを考えていた」という政子に「私も知っている」というのが妹の実衣であり、「相手は官軍。厳しい戦いになるでしょう。上皇様に従いたいものは従いなさい」という政子に対し、「そんなものはここに来ているはずがない!」とさらに団結を訴えるのが息子の泰時であるという展開は、義時を守ろうとする決死の心が北条一族全体にあることを示しているわけで、それもまた御家人たちを動かす、ということになったわけだろう。様子見を決め込んでいた三浦義村や長沼宗致は動揺するがもう大勢は決したと判断せざるを得ないわけで、幕府軍による朝廷(正確には君側の奸)追討という前代未聞の事態に流れ込んでいくしかなかったわけだ。

このドラマでは大江広元が政子に推しの感情を告げ、政子が「重すぎます」と相手にしないわけだが、大江がこの場面で政子の英雄的な立ち居振る舞いに感激しているのは面白かった。また、義時が思わぬ事態の進展に対して涙ぐむのはまさに「泣き虫の小四郎」が復活したかのようで、小栗さんの演技もまた胸を打つものがあった。

正直に言って、北条義時にとって最大の事件である承久の乱をわずかの回だけで描写するというのはもったいないとずっと思っていたのだけど、この政子の演説に一年間のすべてをぶつけるドラマの展開を前提にするのならば、こうするしかなかったのだよなと納得する。

また最初の方の回で、義時の父の北条時政が舅の伊東祐親から頼朝を差し出せと言われていちど懐に飛び込んできた窮鳥を差し出すわけにはいかないと反旗を翻すところなども思い出させる。まあそれに反するような場面もいろいろありはしたけれども、最後に来て政子の演説でそれらが浄化されていくものを感じさせるし、ずっと義時に反抗してきた泰時の、この場面におけるリーダーシップというものも際立つものがあった。

また政子の、ダークな執権となった義時を、弟として守ろうとするのは、先週の実衣に対する「二人だけになってしまった」という言葉から、「私はあなたを見捨てない」とさらに一歩進み、「バカにするな!そんな卑怯者は坂東に一人もいない!」ということばによって、「自分は信じられていないから自分が身を捨てるしかない」と後ろ向きになっていた義時自身を叱咤する展開にも感じられ、本当によくできたドラマになったし、今まで描かれてきた北条政子としても燦然と輝く演技になったのではないかと思う。

この回はいわゆる「神回」だと思うし、また多くの人がそう言っているので自分が敢えて書くことがあるだろうかと思ったのだが、やはり書き出すと無限に書けてしまうので、本当に素晴らしいドラマになっていると思う。

次回は最終回だが、そこにも多くの仕掛けがありそうだし、また普段より15分長い拡大版なので、最後までしっかり楽しみたいと思う。

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