「クローズアップ藝大」を読んでいる:自分の道を「開通」させるということ

Posted at 21/06/05

国谷裕子「クローズアップ藝大」を読んでいる。


クローズアップ藝大 (河出新書)
東京藝術大学
河出書房新社
2021-05-21


いろいろ思うことはあるのだが、アート関係、特に美術系の大学教員に対する質問とその答えを読んでいると、なるほど左翼進歩派の人たちはいまだにそういう考え方の枠組みの中にいるのだなと思うような回答が多く、そこは残念な感じがする。何と言うか、世の中のステロタイプな認識とあまり離れていないと言えばいいのか。

昨日読んでいて気づいたのは、ベジタブルウェポンというわりと面白いものを作っていた人が藝大教授だったということなのだけど、「野菜は兵器に似ている」という事実を見つけ出した着眼点がすごいと思ったのだけど、その思想背景で語られているのが「武器というものに対する批判」という形で語られているだけに思えたのはちょっと残念な感じがした。

総じて美術関係の教員との対談は頭で考えたような内容が多く、ちょっと面白くないなあと思ったが、音楽関係や工芸関係の人の言葉はとても面白く刺激になるものが多いように思った。

フルートの髙木綾子さんの言葉で面白かったのは、一つは演奏の時にプログラミングを工夫する、曲によってその国、その時代ごとの背景をちゃんと入れ替える、ということを言っていて、これが国谷さんにピンときてないのかな、という感じの反応だったので少し不思議な感じがした。

現代的な価値観で過去の歴史を断罪する感覚の人だとこういう繊細な作業はできないと思うのだけど、逆に曲に寄り添うことで過去の歴史に寄り添い、「背景」を深掘りしていくことは、音楽や歴史の豊かな多面性を自分のものにしていくための重要な手段だなあと改めて思った。ただこういうのは「現代社会・現代世界を批判する」ジャーナリストであるとか歴史を踏まえない系統の学者とかには難しいことなのかもしれないとは思った。

もう一つ面白いと思ったのは、楽譜に場面設定とか気持ちを書いておくと演奏の時にすぐその世界に入れるというもの。これも国谷さんはよくわからないと言っていたけど、私はブログを書いたりすること自体がこういうことをこの本を読んだ時に感じた、ということを保存するためにしている面があるから、その時のブログの文章を読み返すことでその時の感情や情景が再現されることがよくある。時間がたってから本を読み直し、ブログを参照するとその時とは全然違う感想になっているときもあってそれも面白いのだけど、文章を書くということは「その時の自分を保存する」という側面があるから面白いのだよなと改めて認識したり。

また、人に教えるようになって自分が無意識にやっていることを言葉にすることを重視するようになった、というのはすごくよくわかる。自分で無意識にやっていることを言語化することでなぜそのやり方がいいのかということを自分で再認識することができるし、逆にそのやり方の限界が見えることもある。説明しようとしてできないことをきちんと調べたりよく考えたりすることはよくあることで、車を運転しているときに「あ、こういうことだったのか」と気づいたりする。人に教えるということは自分を高める、少なくとも自分の中を整備することに絶対つながると私も思う。

それから、ラストの箭内道彦さんの「開通」という話が面白かった。「開通」というのは書かれていることから解釈すると、自分が例えばアートに志したときから、様々な技術や能力を身につけ、関心を広げた上で自分は本当は何をやりたかったのかということをもう一度考えて、最初の自分と現在の自分をつなげ、そしてその間に広い道を開通させる、というようなことだと思う。その道が「開通」さえすればやるべきことやりたいことは無限に出て来るわけで、そういういみではキャリアの初期、ないしは学生のうちにそれを「開通」させることは重要なわけだ。

この系統で私がいいなと思った本に「ずっとやりたかったことを、やりなさい。(The Artists' way)」という本があるが、要は今の自分と「ずっとやりたかったこと」すなわち「初めの自分」とをつなげ、その間に大きな「アーティストの道」を「開通」させることなんだなと今改めて考えて思う。


ずっとやりたかったことを、やりなさい。
ジュリア・キャメロン
サンマーク出版
2012-11-05


自分にとっての「初めの自分」はいつの自分なのか、その時々で違う自分は道もどう開通させればいいのか難しいのだけど、ある意味たどってきた道そのものがその道でもあるかもしれないので、「開通させる」というのとは違うかもしれないが、そういう観点から自分を振り返ってみるのもいいのかもしれないと思った。

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