押切蓮介「ハイスコアガール」を読んだ。ゲーセンに舞い降りた現代のボーイミーツガール。

Posted at 18/07/12

押切蓮介さん「ハイスコアガール」全9巻(連載中)を読んだ。
この作品を初めて知ったのは「このマンガがすごい!!2013」オトコ編第2位に入っているのを見た時だった。今この本を読み返してみると、この年の私の中の一位は圧倒的に卯月妙子「人間仮免中」(順位は3位)だったことを思い出したのだが、10位までで当時読んでいたのはこの作品だけだった。今見てみると他のも「ハイキュー!」(4位)や「ボールルームへようこそ」(9位)が入っていて、今楽しみにしている作品があり、良さが後からわかるということもあるんだなと改めて思う。そういう意味ではこの本で見てから6年近く経って初めてその面白さがわかったこの「ハイスコアガール」もまた私にとってそういう「その時は良さはわからなくても後でわかる作品」なんだなと思った。
「このマンガがすごい!」は「進撃の巨人」をはじめとしてこの本を読んで読むようになった多くの作品を紹介してくれたランキング本な訳だけど、この「ハイスコアガール」をその時に読まなかった理由ははっきりしていて、つまりは「ゲーム」がテーマ、というかストーリーの主軸をなす作品だったからだ。私はゲームといえば「インベーダーゲーム」までしか知らないし、RPGでも「ドラゴンクエスト」の1しかやったことがないので、つまり全然わからない。わからないから興味がない、いまこの紹介本を読んでいても「30代ゲーマーだけにわかるレトロな郷愁」というフレーズもあって、自分に縁があるようにあまり感じられなかったということもあったなと思う。

しかしこの作品は数奇な運命をたどる。「ハイスコアガール」が連載されたのはスクエアエニックスから出ている月刊「ビッグガンガン」誌であったわけだが、このゲーム会社が発行している雑誌で連載されていたゲーム漫画が著作権問題で同業他社に訴えられ、2014年11月にスクエアエニックスは単行本の回収を表明、5巻までが回収され絶版になった。その後和解が成立し2016年から連載が再開され、5巻までは「ハイスコアガールcontinue」と題されて再発売された。(訴えたSNKプレイモアの作品は大幅に削られているという)私が読んだのももちろんこちらで、古書店などには初版もあると思うが、とりあえず特に問題はない。

この事件については少し注目していたのだけど、結果として連載が再開されたことだけは知っていた。そしてネットで調べて関心を持ち、読むようになった「ユーベルブラット」が「ビッグガンガン」に連載されていることで、この「ハイスコアガール」も連載で読むようになったわけだ。

作者の押切蓮介さんの作品はその頃には結構関心を持っていて、マンガ業界を描いた「狭い世界のアイデンティティー」がとても面白く、また原作をになった「妖怪マッサージ」もシュールなノリでとても好きだったので、代表作であるこの「ハイスコアガール」にも興味が出てきていた。

そして、自分の周囲にはいなかったゲーマー、特に格闘ゲーム(格ゲー)をやる人が出てきたということもあって、少しそちらの方にも関心が出てきたということもあり、この作品自体にも少しずつ興味が湧いてきていた。

そして読むきっかけのダメ押しになったのが明日7月13日深夜からMX系で放送されることになったアニメ化だったなと思う。主人公の二人のキャラ、ゲーム狂いの少年矢口ハルオと美少女にして格ゲーの容赦ない天才・大野晶(あきら)にかなり興味は出てきていたが巻数がそれなりにあることから躊躇していたのだが、予習のつもりで読んだ第1巻が面白く、結局既刊9巻まで読破し、未収録の連載分も全部読み終わるということになった。

主人公のハルオはゲームバカで、1巻では小学6年生。ゲームが強いことだけがアイデンティティだったのにクラスの優等生の大野にアーケードゲームで蹂躙され、敵意を抱くがひょんなことから巻き込まれた乱闘で共闘になり、奇妙な友情が芽生える。そのうちにお嬢さんの大野が家庭ではお稽古事で雁字搦めにされ、好きなゲーム機も買ってもらえない境遇にあるのを知ったハルオは何かと大野を気にかけてあげるようになり、大野の中でもハルオに対する距離が近づいていくが、家庭の事情でアメリカに行くことになる、ということで第1巻は終わる。全く喋らない大野のいうことをハルオは表情や動作でどんどん読み取って行くが、好意に関しては読み取れない、というのが少年マンガの王道で気持ちいい。何も言わない大野が声をあげて号泣する場面が1巻のクライマックスだろう。
2巻で中学生になったハルオの周りにはゲームに夢中なハルオに興味を持った日高小春が現れる。日高は最初は初心者だったがハルオに近づきたい一心でアーケードゲームに取り組み、ついにはハルオを凌駕するほどの腕になるところが面白い。ハルオと大野の関係ではハルオが全く喋らない大野の心の内を読み取ることで話が成立しているのだが、日高とハルオの関係では日高の心のうちがモノローグとして語られ、ハルオは魅力的だけど自分の心を全くわかってくれない鈍いやつとして語られていく。この三者の関係性でこの物語は成り立っていて、高校受験の蹉跌を経て現在高校2年生というところ。
どの巻も面白いのだが、私が一番好きなのは休止になる直前の第6巻だ。日高に告白され、「私が勝ったら付き合って」という条件での対決。ハルオは勝ったものの日高に逆ギレされ、地元の武蔵溝ノ口で微妙な立場に。そして登場する大野の姉ちゃんがすごい可笑しい。大野とは正反対で家庭教師に全く従わない自由人だが、大野のことを心配している。この姉ちゃんがハルオのママと妙に気があうところもまた可笑しい。
なぜか姉ちゃんの注文で「女心を勉強するために」ハルオが「ときめきメモリアル」をやる羽目になるのも可笑しいのだが、どの女子にも爆弾マークがついて誰にも告白されないというエンドもおかしく、なぜかその場に居合わせることになった日高に「私にも爆弾マークがあることを忘れないでね」と脅されるところが超がつくくらい可笑しかった。
そして大野のために姉ちゃんが買った「RPGつくーる」でハルオが「おおのけクエスト」を作るという展開も最高なのだが、屋敷内に現れる最初のボスが「おおのアネキ」であるのは最高に可笑しかった。連載の中断はしょうがないとしても、最高に面白いものを作ろうとする作者の意地みたいなものが最高に現れていた巻だったと思う。

で、読み終わったのだが、当たり前だがゲームのことは今でも全然わからない。知ってる人が読むともっと面白いところはたくさんあるんだろうなと思うが、わからなくてもこの作品はとても面白い。キャラクターの造形の持つ独特の緊張感。(ちょっと奈良美智さんの作品を思わせるところがある)オタク的な怒涛の語りが小気味良いリズムを生み出し、それでも様々なマンガの文法やテクニックが惜しげも無く投入されていて作者の才能がうかがえる。

アニメではマンガでは私の経験不足により十分に読み取ることができなかったゲームの場面も画面に展開されるだろうし、それはとても楽しみだ。1クールだと恐らくは6巻までで終わりになると思われるが、それでも十分面白くできている。できれば2クール、最後までやってもらえるといいのだが。
そして第9巻でも予告されているが、次の10巻で終わりになるとのこと。未収録作品が連載4回分溜まっているのであと2〜3回で最終回を迎えることになる。恐らくはアニメ放送中にラストになる。この典型的な現代のボーイミーツガール作品がどんなエンドを迎えるのか、今からとてもワクワクしている。

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