銀座に出てみる/尾崎放哉 全句集:絵のように描くことと文化的伝統/ポール・マッカートニー:なぜ好きかはわからないが、聞くと幸せになる/ジェーン・バーキン:押しつけがましさがないのに、私はこうよと言っている

Posted at 13/07/15

【銀座に出てみる】

昨日の夕立は、一度上がったかと思ったらまた強く降りだした。でも出かけようと思ってから、ああ、あれをしておかなきゃ、これをしておかなきゃというのがいくつか出てきて、実際に出かけるころにはかなり小降りになっていた。

考え事をしながら駅まで歩く。いつもと違う駅に歩いて、いつもと違う風景を見た。

ホームに来たほうの電車に乗ろうと思い、もし西船橋行きが来たらどこへ行こうかと思ったのだが、中野行きが来たので都心に出る。日本橋で降りるかどうか迷ったが、帰りに買い物をすることにして、銀座線に乗った。

銀座で降りて、四丁目の交差点に出て、当てもなかったけど山野楽器に入ってみる。アニメのDVDのコーナーをのぞいたが、当然『進撃の巨人』はまだ出ていなかった。ジブリの作品の、かなりたくさんがもうBD化していることを知った。DVDに比べても高いのでなかなか買う気はしないのだが、ジブリの作品はやはり高画質で見る価値があるだろうとは思う。

そう言えば、昨日昼ごろ家に帰った時、ジブリの広報誌『熱風』の7月号が届いていた。特集は「憲法改正」。もろにガチ。執筆者は、宮崎駿・鈴木敏夫・中川李枝子・高畑勲。まあもちろん彼らは憲法改正絶対反対なのだが、この4人が『熱風』に並んでいることなど見たのは初めてだ。こういう時のジブリの本気度はやはり大したものだ。表紙はもちろん、今夏公開の宮崎監督の『風立ちぬ』。まあ戦争の話だしな、ということもあるのだろう、この特集は。


【尾崎放哉 全句集:絵のように描くことと文化的伝統】

尾崎放哉全句集 (ちくま文庫)
村上護編
筑摩書房

教文館に入って、本を物色。何の気なしに、『尾崎放哉 全句集」(ちくま文庫、2008)を手に取る。この人の句集は、以前青空文庫で荻原井泉水編集の『大空』をプリントアウトして持っていたが、本になるものを持ってはいなかった。ふと目を走らせた、定型句時代の句稿拾遺、まだ在俗の時代の作品が目に入ってきたのだ。


蚊帳釣て子に添乳する暑さかな

寒菊や鶏を呼ぶ畑のすみ

石に踞して薬とり出す清水哉

申し置いて門を出れば時雨哉


どの句も絵のように情景を描いていて、結構気に入った。しかし、本を棚に戻して、また手にとって同じ句を読み直してみると、もう特に面白くない。なぜなのだろうと思う。

ぱらぱらとページをめくり、放哉の真骨頂、自由律の時代の句をいくつか読んでみる。

釘箱の釘がみんな曲がつて居る

百姓らしい顔が庫裏の戸をあけた

朝がきれいで鈴を振るお遍路さん

うつろの心に眼が二つあいてゐる

咳をしても一人

最後の句は、確か中学生の時に教科書で初めて読んで、衝撃を受けた句だ。これを俳句と言っていいのか。自由律、という言葉にも強く魅かれた。定型さえ捨ててしまうことができて、それでなお俳句である、と。

考えてみたら、放哉は私が最も素直に衝撃を受け、すごいと思った俳人であって、それはある意味口語自由詩の萩原朔太郎・谷川俊太郎、短歌の与謝野晶子、短詩の八木重吉にも匹敵する存在だった。なかなか手頃な作品集がなくてきちんと読んでいなかったのだが、この本には私の今の行き詰まりを打開する何かヒントがある、と直観的に思い、買うことにした。

後者にあって前者にないもの。もちろん技巧的なものもあるけれども、技巧的なレベルを上げて行けば後者になるというものではない。写実と、その感じたことをどさっと投げ出す思い切りの良い投げだし方。この句を詠む放哉が、その時どんな人間なのかも彷彿とするとともに、「釘箱」「庫裏」「百姓らしい顔」「お遍路さん」「うつろの心」「咳」「一人」それぞれの言葉が持つ、文化的背景とでもいうべきものの力。確かに放哉が、その場で生きている、その確かさを裏付ける力が、それらの言葉に感じられる。

蚊帳の中で添乳させる若い母親。これが後年の同じような情景になるとこうだ。

すばらしい乳房だ蚊が居る

子に乳をやるということに蚊を組み合わせるのは同じだが、迫力は全く違う。若い頃の作品は、その作品が自分の人生から見てどこかよそ事で、きれいに絵を描いて満足している感じがする。それぞれ句の持つユーモラスな部分は後年の作品にも同じものが感じられるが、簡単に言えば平凡だ。見たまま感じたままを写生という、その言葉通りに詠んではいるのだけど、やはり頭で感心するようにできている。

頭で詠んだ、たましいで詠んだ、ということは簡単なのだが、多分それでは何も言っていないに等しくて、おそらくは詠んだ対象に対する視線の深さ、それらのもの・人の持つ文化的背景と、同時に自分自身を照らし返す視線がある。釘箱の釘がみな曲がっている。自分はどうだろう。百姓らしい顔が見えた。自分はどんな顔をしているのか。きれいな朝だ。心が弾んで鈴を振っているのはお遍路さんだけではない。自画像を描いてみる。うつろな心、ただものを凝視している眼だけが開いている。ただ一人で咳をしている、その自分を見ている自分がいる。

文化的伝統、文化的背景とは、自分がそこに生きているということだ。受け継いできた時代の流れを自分が見ている。この時代の中で、自分がどういう人間として今ここにいるか。その自己認識をそのまま、表出している。表現と自己が一体になっている。

その場でそこまで考えたわけではないが、放哉の句の前期と後期の違いは文化的伝統だ、ということは直観的に思った。そして、私の作品に欠けているものもそれではないかと思った。私はあえて文化的伝統とかかわりのないこと、自然なこと、自分だけが感じられるオリジナルなことを書こうとしていたから。


【ポール・マッカートニー:なぜ好きかはわからないが、聞くと幸せになる】

本を手にとって、レジに向かう。文化的伝統と言ってもいろいろある。それをどう取捨選択すればいいのだろう。それは、自分が本当に好きなもの、屈折なしで自然に好きなものを選択するべきなのではないか、と思う。

増補新版 ポール・マッカートニー (文藝別冊)
河出書房新社

ということを考えていて歩いたら、文藝の別冊で『増補新版 ポール・マッカートニー』(河出書房新社、2011)が目に入った。そうだ、と思う。先日考えた音楽と少年、というテーマの中でも、私が最も自然に好きだと言えたのが、ポール・マッカートニーだった、ということを突然思い出した。ポール・マッカートニーはミュージシャンだ。ジョン・レノンはミュージシャンであると同時に思想家でもあったし、デヴィッド・ボウイはミュージシャンであると同時にファッションリーダーでもあった。しかしポールは違う。ただひたすらにミュージシャンだ。政治的発言もしない、ファッションはまあ、正直言ってそんなにかっこいいわけでもない。というより多分、根本的に無頓着なんだろう。後年、ウィアーザワールドとか、政治的と言えなくもない発言をするようになってからは彼の音楽を聞かなくなってしまったし、まあファッション的にスタイルを確立したミュージシャンの方になんとなく心を魅かれて行くようにもなってしまったけど、彼はただひたすらに音楽を、ラブソングを、つくり続ける。

何で彼が好きなのかはわからない。でもそうなっているし、それを聞くと幸せになる。ポールはそんなミュージシャンだ。そんな人について考えるのも、自分にとってプラスになることだと思い、これも買うことにした。


【ジェーン・バーキン:押しつけがましさがないのに、私はこうよと言っている】

Love!Jane Birkin―perfect style of Jane (MARBLE BOOKS Love Fashionista)
マーブルトロン

さらに書棚を回ると、今度は『ジェーン・バーキン パーフェクトスタイルブックPart2』(マーブルトロン、2013)という本が目に入った。ジェーン・バーキンは私が最も好きな女優、というよりファッションリーダーだ。彼女のスタイルは、これをこうしたからこれがこうなって、だからかっこいいというのがいちいち腑に落ちる。なんというか、私の思うお洒落の鉄則を全くそのままに体現している感じの人なのだ。どこがどうと言葉で言うのは難しいが、簡単に言えばすべてのアイテムを支配していると言えばいいのか、意のままに操っていると言えばいいのか、それが適度に計算されていて適度に投げやりで、そのいい加減さがかっこいい。それは自分の顔立ちや体型、一緒にいるパートナーのセルジュ・ゲーンズブールや子供たちもまた、まったくナチュラルにジェーンと共存している。押しつけがましさが一切ないのに、私はこうよ、という主張がぼん、と投げ出されている。その嫌味のなさが、彼女の、そしてファッションのもっとも大きな魅力で、人間としてこうありたい、というものを彼女が表現しているように、私には思える。

彼女のファッションブックはもちろん持っているのだが、今回もなかなかいい編集で、セルジュやそれぞれ父親の違う彼女の三人の娘たち、ケイト、シャルロット、ルーもそれぞれ取り上げられていて、彼女たちもまた魅力的だ。

結局この三冊を買ったのだが、まあそれぞれが自分の創作と人生にまとまって意味を成すだろうと思った。まるで三題話だが、そのあと考えたことはまた稿を改めて。

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by Luke Peterson

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