給食当番の女の子

　給食当番の女の子

あんパン二つ　豆三つ
六月六日の参観日
白色頭巾の女の子
いつまでたっても終わらない
三十三年ここにいて
カレーシチューをよそってる

白いエプロン付け外し
大きく凹んだ胸の傷
うずめてくれる人は誰
私はずっと待っている

三年三組の教室の
前から三列右から三列
その椅子と机の曲がり角
その角を曲がって見えなくなった

存在感希薄な女の子
挙動不審な女の子
誰か覚えているかしら
三十三回目の同窓会に
白い頭巾で現れた
給食当番の女の子

覚えてる？
大きな滝が流れ落ちてる
深い緑の森の中で
紫の花が咲いていた
足元の白い蛇が
長い睫毛のその下から
思わせぶりな微笑を送った

私が踏み迷った
青い涙の湖のそばで
黄色いカナリヤは
私の方を振り向きもせずに
淡い秋波を送っていた

ああ　私のこと
覚えていてくれたね
緑の幻想　滝の音
あの遠足で訪れて
写りこんだストラップの影に隠れて
写真に写らなかった私

その時からずっと
私は小さな花瓶の中で
みんなの給食当番を
見つめていたんだ

私はいない　いないけどいる
私はいる　いるけどいない
私は空気　それとも物質
見えているのに見えていない
気がつかれてもつかれなくても
私はいたんだ

私がこの世界に
存在したのかしたくなかったのか
今ではもう分からない　けど
三十三年目の給食当番は
もう　終わり

あんパン二つ　豆三つ
雨がざあざあ降ってきて
三角定規にひび入って
あっという間にかわいい…