なんでもない日

Posted at 12/03/30

【何でもない日】

私は湖のほとりを美術館に向かって車を走らせた。外は春の陽気。自然に明るい気持ちになって、カーステレオのピアノ曲に心が弾む。パワーウィンドウを開けて湖畔の風が入ってくる。きらめく風が吹きすぎる。湖の向こうにはまだ雪に覆われた高い山脈の白い峰々が荘厳に聳えている。

ピアノはドビュッシー。夜の方が似合いそうなのに、こんな春のうららかな午前中に聞くと、こんな日のためにつくられた曲なのかと思ってしまう。ピアノを聞くと、雑念が消える。生きていることの喜びが、素直に心からしみだしてくる。ピアノが途切れる。ぼくは思う。もっとピアノを。カーステのボリュームを上げる。突然、モーツァルトのコンチェルトが始まる。

美術館について、駐車場に車をとめる。会場に行くわけではない。レストランとショップに直通の、もう一つの入り口から入る。出口とも言うが。ショップは広大で、さまざまなガラス製品が並んでいる。私は消費文明に毒されているのだろうか、ツタヤやコンビニやホームセンターしかない田舎のショッピング空間に5日もいると耐えられなくなる。だからときどき、他にないものを売っているこの美術館に、ただガラス製品を見るためにだけ車を走らせるのだ。ガレのランプやラリックの香水瓶もよいけれど、手に入るレベルの品物でもガラスはいい。買うつもりはなかったのだけど、桜色をしたガラスの小鉢があんまりきれいだったので、自分用に買って発送してもらった。日曜日に届く。楽しみだ。

少し華やいだ気分になって車に戻り、道を代えて田んぼの中にのびる新しい道を走った。いつも曲がる交差点の一つ手前の信号を左に曲がる。この道は知らなかったのだけど、まっすぐに街に向かって伸びているということが分かった。でも街の手前の大きな川に突き当たると、そこに橋はなく堤防上の道を右に折れていつもの道に戻った。

FMをつける。カーラジオからスローバラード。こんなうららかな日に。胸の底が熱くなる。

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by Luke Peterson

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