クロノスの呪い/プロセスを楽しむ
Posted at 10/03/03
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昨日帰郷。銀行に行く関係で新宿11時の特急に乗る。あまりよく寝られなかったので車中では結構寝ていた。少し風邪をひいていて、左の鼻が痛いのと痰・洟が混じって忙しい。車中では起きているときはほとんどずっと平野啓一郎『葬送』第一部・上を読んでいた。サンドの娘ソランジュが婚約者のブレオーと別れ、彫刻家のグレザンジェと関係を深めている時期の話が長々と。このあたりの件でサンドとショパンの仲が決定的に悪化したということはショパンの伝記でも読んだことがあるが、ショパンの病状とも相伴って気の毒な感じがする。もう一人の主人公・ドラクロワはとにかく独白が多い。ドラクロワが残した日記がおそらく資料となっているのだろうけど、芸術観のようなこと、人生観のようなことについて長大な思考がつづられているし、また実にシャイであったりイタリアに行くことに不思議な拒否反応があったりして確かに題材としては面白い人物だと思った。
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途中「クロノスの呪い」という話が出てきて、時間というものについて考えざるを得ない「平和」な時代の人間はいつかは人は死ぬという憂鬱から抜け出せない、というか自分の仕事の価値を疑ってしまうために、なかなか仕事に取り掛かれない、というようなことを言っていて、最初はなんだかピンとこなかったのだけど、自分が感じている焦りのようなものも共通するところがあるのかなあと思ってキャメロン『ずっとやりたかったことを、やりなさい。』の該当する項を読み直したりしてみた。キャメロンは単純明快で、そういうのは仕事に取り掛かるめんどくささに対する言い訳にすぎない、というようなことを言っている。
確かにそうした仕事を再開するときのハードルは結構高い。その作品世界に戻るのに一瞬というわけにはいかないことはよくある。そういう時には益体のないことをよく考えるもので、「クロノスの呪い」などというのは確かにそんなたぐいのことかもしれない。
キャメロンはそのあたりのハードルのことをemotional costすなわち「感情的なコスト」と呼んでいるが、確かにそのあたりの時には何かしらの感情的な無駄のようなものが発生している感じがする。感情が人間の本体だと思ってしまうとそれに振り回されてしまうが、感情に振り回されないように、と考えると、「時間がない」という感情(というか観念と感情の複合という感じだが)にも振り回されるのはよくないわけだ。
創造性にとって、時間の問題のポイントは結果をほしがるのでなくプロセスを楽しむことにある、という指摘はその通りだと思う。プロセスを恐れたり無駄だと考えたりすると、すべてがつまらなく無味乾燥になり、ガレー船の奴隷の船漕ぎか賽の河原の石積みのような感じになってしまう。私などもプロセスを軽視する傾向が強いので心しなければと思う。
『葬送』は第一部上を読み終わり、下巻に入っている。『謎の渡来人 秦氏』は読了。なんか初心者向けの研究史のまとめみたいな本だったが、時々はこういうものを読むのもいいなあと思う。小学校高学年から十年くらい前まで、かなりこの分野の本は読んだけど、最近は聖徳太子非実在説とかあまり私には受け入れにくい癖のある研究が多くて敬遠しがちだったけど、伝統的なアプローチでもこれだけ興味深いことをかけるわけだし、またこの十年くらいの間の古代史研究の進展も感じることができて面白かった。
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