「大人の男」に読ませるためには/BING:マイクロソフトの逆襲/携帯百景

Posted at 09/06/16

昨日。一昨日は腰が不安だったので電車に乗っては出かけなかったが、昨日は午後、日本橋に出て丸善で本を見た。何に取り組むべきか――ということを考えながら。自分のやりたいことをやる、というのはつまりはわがままなことをする、ということでもある。しかしそれが究極的には自分だけではなく回りも、上手く行けばこの社会も、日本国家も、世界もよい方向に動かせるようなことにつながれば、それは単にやりたいことではなくやるべきことでもあったことになる。つまり使命である。日々の暮らしを立てることは重要だが、それだけではつまらない、とみな思っている。しかし暮らしを立てながら、さらにその先のことを考え、行動に移すことはそう簡単なことではない。私自身の暗中模索も、その両者をいかに実現していくかということにあった。

ずっとウェブでいろいろなことを書いてきたが、一体誰に向けて書いていたのだろう。誰がこの文章を読んでくれているのか、どういう人がこの文章を読む人の中心像なのか、私はずっとわからなかったし決めきれないで来た。だからいろいろな方向にぶれてみたり、書く気を失ったりしたことも多い。しかし「書く」ことそのものが自分にとって必要なことである、ということはだんだん確かになってきたので、誰に書いているのか判らないままとにかく書き続けてきた。

大不況には本を読む (中公新書ラクレ)
橋本 治
中央公論新社

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日本橋の丸善で、橋本治『大不況には本を読む』(中公新書ラクレ、2009)と勝間和代『断る力』(文春文庫、2009)を買う。降りそうで降らない天気。ツイッターでときどきつぶやきを送る。なかなか面白い。

帰ってきて橋本を読む。現在86ページ。橋本治は面白いからもともと読んでいたのだが、『上司は思いつきでものを言う』が売れて以来、彼には全く似つかわしくないビジネス書の分野で売れているのが可笑しい。言っていることは昔からそんなに変わってるわけではないのだけど、1980年代以来の世界経済の流れを大雑把にまとめて今はこういう状態なんだ!とかいているのが「おぉ」という感じですごかった。いや、割合面白いというか、いいところを突いているところがたくさんあると思うのだけど、何しろこちらも経済のことはすごくよくわかるわけではないのでどのくらい正しいのかよくわからない。しかし、現代の今の状態を把握するためには、経済というのは確かに無視の出来ないファクターで、橋本のように蛮勇をふるって自分なりに世界経済観を構築しておくことは誰にとっても必要なことなのではないかと思った。

特に正しいと思うのは、「アメリカの勝利」というのは結局、ルールをつくり、それを日本や世界に要求する力にある、という点だ。80年代の自動車摩擦で日本車の輸入が激増したとき、日本人なら自国に適した車を開発する方向に動いただろうに、アメリカはそうではなく日本に輸入を要求する方向に動いた。その結果日本は「内需拡大」を求められ、日本人は「特に必要ではないもの」をたくさん買い始めた、というのである。これはなるほどと思う。バブル期の泰西名画の買いあさりとか、結局もともとはアメリカの「内需拡大」要求に端を発したバリエーションなのだ。アメリカ的生活様式がそれなりに日本に定着すると、今度はその文化的起源を求めてフランスやイタリアのものを愛好する方向(グッチとかエルメスを買い漁る日本人観光客、って奴だ)に動き、そうした方向性は日本人だけでなく日本をモデルとした後発の韓国や中国にも受け継がれていった。

日本人がそんなわけの判らん買い物をしているうちにアメリカはIT革命とか金融資本主義とか新しいルールを作り出し、世界中から金を吸い寄せ始め、その金で庶民に借金をさせまくり、ついに破綻したのが2008年だ、というわけである。

橋本は、その80年代の時点で、「特に必要ではないもの」を世界から買い集める方向ではなく、「輸出を制限し、自国で出来るものは自国で作る」という新たな世界ルールを世界に発信すればよかったのではないかという。そうすれば不況にはなったが、わけのわからん「百年に一度」の大不況が起こったりはしなかっただろう、と。結果的にそうはもちろんならなかったし、私が考えても当時の政治状況・経済状況でそんなことは現実味がなかったとは思うけれども、思考実験としては意味深いことだと思う。今必要なことは、消費とか儲けの方ばかりに引っ張られてしまった「人間の生き方」というものを考え直すことなのだ、と橋本は主張するのである。

90年代以降の経済は、どうしたら消費者にお金を使わせられるか、ということに知恵を絞る時代になった。消費が旺盛なのは若い女子であり、また「大きくなった子ども」である、と橋本は指摘する。つまりガールズファッションとサブカルチャーに、奇妙なくらい資源が傾斜投入された。大人の男が、いかに女・子どもに金を使わせるか、ということにばかり頭を使う時代になった、というわけである。考えてみたらヒット商品って「たまごっち」とかまさに女・子ども向け、みたいなものばかりだったなと思う。大人は基本的に「必要のないもの」は買わない。だったら消費は女・子どもに担わせるしかないわけで、考えてみたらこれはずいぶんいびつな構図だなと思う。

梅田望夫が「日本のウェブはバカと暇人のもの」という意見に賛意を表したのも、大きく見ればこの構図のなかで、ウェブが「大人の男」のものでなく、「大きくなった子ども」のものになってしまった、という事実を指しているのだなと思った。日本人はもともと細かい工夫などが得意だから、サブカルチャー的なものを発展させる潜在力はもともと世界一持っていることは確かなのだけど、梅田はやはりそこに限界を見たのだと思う。それはそうだろう、「大きくなった子ども」たちの力で未来を切り開いていくことはやっぱり難しかろう。「若い男」であっても「いい年の男」であっても、またもちろん世界を引き受けるつもりのある女性であっても、やはり「大人」にしか事態を担い、展開させ、未来を切り開いていく力があるはずがないのだ。梅田がそのヒントを将棋に見ようとしているのはもちろん梅田の個性でありカンなのだが、そうしたしっかりした見方の上に載ってそこで可能性を探っているのだということがわかってきた。その成果がどのように実を結ぶのかはまだ見当がつかないが、期待したいと思う。

橋本は本来小説家だがやりたいことは実にたくさんある人で、こういう文章もなかなか気が利いていて面白い。彼はこの文章を、間違いなく「大人の男」に向けて書いている。それは戦略的に正しいと思う。「大人の男」は残念ながら、ビジネス書くらいしか読まないのだから。だから大人の男に何らかのメッセージを届けるためには、こうしたビジネス書の形をとると言うのは正しい戦略なのだと思う。このあたりはとても参考になった。

断る力 (文春新書)
勝間 和代
文藝春秋

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勝間和代は未読だが、生きていく上で「切り捨てていかなければならないもの」がたくさんある現代の大人に、何を大事にし、何を切り捨てるべきなのかを考えるための参考書のようなものだという印象を受けた。多分面白いだろうと思う。

***

mixiのマイミクの人が日記に書いていたBINGというマイクロソフトの検索エンジンがすごい、特に動画がすごいと思った。画像の上にマウスポインタを乗せるだけでサムネイル上でさわりが再生される。開いてみないと動画の質がわからないと言う今までの検索エンジンや動画再生サイトの使いにくさが一気に解決されている。これでマイクロソフトのこの分野における巻き返しが始まるのだろうか。ちなみに上のリンクはビートルズの動画だが、"She loves you"の動画があって、これは実に盛り上がる。youtube位しか見たことがなかったが、これはDailymotionというサイトから引っ張ってきている。女子ファンの熱狂振りもすごいが、左利きのポールがジョージと鏡のように向かい合わせになってひとつのマイクで歌う様子がお洒落だ。1分くらいのところで"Woo!"と二人でファルセットでハモるところがあり、そこで二人とも首をブルブルッと震わせているのが実にかっこいい。あの高音の意味が今までわからなかったのだけど、動画を見て始めて理解できた。ビートルズを聞き出して30年以上たって。(笑)

また昨日はじめたツイッターに連動して「携帯百景」というサービスがあるのを知った。これも面白い。

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