古田織部/数寄と好みとおたく

Posted at 09/02/07

今日は久々に冷え込んだ。マイナス5度くらいまで行ったようだ。そこまで冷えると朝になっても室温がなかなかあがらず、普通の姿勢で何かをするのも億劫になって、本を読むのも寝転がってになってしまう。昔はそうでもなかったのだが、最近は寝転がって本を読むとたいてい眠くなる。それに、寝転がって本を読むには文庫くらいのサイズがちょうどいいので、読むものが限られてくる。読もうと思っているものはたくさんあるのだが、なかなかこなせない。

日本数奇 (ちくま学芸文庫)
松岡 正剛
筑摩書房

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松岡正剛『日本数寄』、「Ⅲ 数寄と作分」を読んでいるが、これが面白い。利休を書いた「利休の面目」、古田織部について書いた「バロック・オベリスク」が特に面白い。確かに松岡の言うとおり、利休に比べて古田織部についてはいままで余り書かれて来なかった。しかし織部が日本の文化的嗜好に与えた影響というのはかなり大きいものがある。そういう意味で、モーニングに連載中の『へうげもの』は画期的な存在といえるのではないだろうか。かなり独創的にストーリーや事件をつくってはいるが、古田織部という確かに極めてバロックな人格を語るにはこうした手法が望ましいのではないかと思う。

私がはじめて古田織部という人物について知ったのは加藤唐九郎の『やきもの入門』という本だったと思う。新潮社の「とんぼの本」のシリーズだ。そこに桃山の陶片、特に織部焼きの陶片がいろいろ写真で掲載されていて、唐九郎は「織部はすぐれたデザイナーだ」と書いていた。織部というのは緑色の焼き物の種類のことだとなんとなく思い込んでいて、それ以上に知ろうとはあまり思わなかったのだけど、利休の後をついで秀吉の茶頭になったとか、大阪夏の陣前後に徳川家に切腹を命じられたとかいうことを知ったとき、相当変わった人なんだろうというイメージを持ち、そこに魅力を感じてはいたが、その後ときどき茶に興味をもっていろいろ調べてみてもやはり利休について調べたくらいで織部まで見ようという意識はなかった。

「へうげもの」をはじめて読んだとき、このマンガは自分の知識欲、というか「好み」の未発達の部分を突いたものだということを察知した。とは言っても、「西遊妖猿伝」を読むついでにモーニングを二三週読んで、ようやくわかってきたのではあるが。で、織部についての関心を揺さぶってみると自分の中のいろいろな部分が揺さぶられてきて、いろいろなものが目覚めてきた感じがする。自分の「好み」の中のいわばミッシングリングのようなものだったのかもしれないと思う。

というように自分をとらえる発想が出てきたのは、『日本数寄』の「編集文化数寄」という稿で「好み」について語られているのを読んだからである。「好み」というのは面白いことばだなあと思う。日本人は平気でこの言葉を使うが、英語にしようとすると難しいのではないか。tasteという言葉に近い、という松岡の指摘は良くわかるが、「利休好み」を訳そうとするとどうなるのだろう。the taste Rikyu liked とでも訳すのか。しかしこの訳でもすべてを言い尽くした感じにはならない。

「好み」というのは確かに日本文化のある部分を語るのに重要なものがある。自我の確立において、日本人は自我が弱いとよく言われるけれども、多くの場合「好み」においてはかなりはっきりとした自我があるといえるのではないか。だからその「好み」にこそ日本的な自我があるというべきで、近代的自我とはやや違う、日本的近世的自我とでもいうべきものがそこに存在し、たとえばおたくとかマニアとかいうのもその延長線上で語られるべき部分があるのではないかという気もする。

井戸茶碗のカイラギの良さ、なんてものは微妙なテイストにうるさいオタクの会話に近いものがあろう。しかしどこに違いがあるかといえば数寄者の覚悟の深さがおたくには欠けているということ(違う方向の覚悟があるのかもしれないが)で、やはり人間的な魅力のあるなしはそこにかかっているのだろうと思う。覚悟の深さと人間的な深みとは深い関係があるのだと思う。今のところ、オタクの思想というものも「セカイ系」などにみられるように人間個人の生き方とはかけ離れたレベルに雲散霧消し、むしろオカルト的な志向を持ってしまっているように思う。そういう意味では日本文化の遺伝子は正しくは受け継がれていないということなんだろうと思う。山上宗二が茶の湯の名人の条件として「覚悟、作分、手柄」と言ったというが、作分の面では日本のおたく文化は相当花開いているにしても、あるいは世界にも影響し得ているという点で手柄もあるかもしれないけれども、「覚悟」の点においてはやや違うのではないか。そこが混沌としているからこそおたくがおたくなのかも知れないが。

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