「忘れないこと」と「読むこと」

Posted at 08/12/24

昨日帰郷。必要があっていつもより一時間早い特急に乗る。特急の中では桜井章一『見えない道の歩き方』をずっと読み、一つの言葉を読むたびにいろいろ考えたり反省したりしていた。

見えない道の歩き方
桜井 章一
竹書房

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一番反省させられたのは、過去を忘れない人は怖い、という言葉。具体的には

『「忘れない人」の怖さが、今、病になっているケースが多く見られます。』

という言葉だ。私もこのブログにいろいろ書いているように過去のことをいろいろほじくり返す人で、またかこのことを覚えているだけでなくいろいろ思い出しているので、「忘れない人」に当てはまるだろう。そしてこの言葉を一歩進んで考えてみると、「忘れないこと」というのはいわば一つの病だということで、私は「忘れない病」の人だなということになる。

これは大いに反省させられた。忘れるべきことを忘れなくて、嫌なことももう本当はどうでもいいこともしっかり覚えているということが自分によくない影響を与えているということにきちんと気がついていなかったということだ。正確にいうと気がついている部分もあったはずなのだけど、それを見ないようにしていたのだと思う。

しかし、過去は何でも忘れていいかというと、そんなことはない。「初心忘るべからず」というが、志を立てたときの初心は折に触れて思い出した方がいいし、なぜそのような志を立てたのかということも折に触れて思い出した方がいいと思う。つまらないことは忘れるべきだが、大事なことは憶えておいた方がいい、ということだけれども、自分を成長させる糧となることは覚えておいた方がいい、と思う。これはこの本で桜井が言っていることではないけれども。

そういうわけで、自分の初心、というものを少し思い出してみようと思った。私がなぜ表現に取り組もうと思ったのか。しかしそれは、桜井が麻雀をやるようになったのと同じ、「風が後押しをしてくれた」からかもしれないと思った。なぜ私は読むようになったのか。それは「読む」のが好きだったからだ。思い出してみると、私は文字を覚える前から本を読んでもらうのが好きだったし、文字を覚えてからは自分でどんどん何でも読んでいた。私は物心ついたときからあらゆるものを読みつづけている。それだけは自信を持っていえる。文字を覚えたときから、いやその前から私は読むということを愛してきたのだ。

それが、初心なんだろう。私は、読むという行為に、執着に近いものがある。食べるとか寝るとかをのぞけば一番根源的な欲望なのだと思う。文字が読めるようになって本を読み、絵画の見方を自分なりにつかんで絵を見るのも好きになった。これはある意味で絵を読んでいる、ということなのだろう。もちろん、絵を暗号のように謎解きするということではない。同じように映画や演劇も読んでいる。だから読みがいのない、説明過多のものは見る気がしないのだ。そういう意味では、バレエなど言葉がない方がいいくらいだ。

ただ、読みやすいものと読みにくいもの、読む食指が動くものとあまり動かないもの、というのはある。小説などは読みにくいものが多いし、英語やフランス語の文章も気合を入れれば読めないわけではないけれどもなかなか読みすすめられない。それは、その言葉の難度もあるが、英語的な発想、フランス語的な発想がどうもあまり好きになれないという根源的な問題がある。もちろん、翻訳ものでがんがん読めるものもあるから、一概に言うことは出来ないけれども。でも、読むということに関してはほとんど一次欲求のような好き嫌いがあるようだ。

読むということを媒介にして私は世界を把握してきたし、そういう意味では現実の世界のありようそのものも無意識に読んではいる。読み違えることも多い。現実というものは本や絵に比べてさまざまな文法が入り乱れていて読みほぐすのが難しい。

「働く」とか「お金」とか「夢」とか「生きる」とかそのほか、比較的分りやすい文法もあるけれども、その文法自体を詰めて考えてみるとまた全然分らなくなったりする。

結局、表現というのは、自分が世界をどのように読んだか、ということなんだと思う。読んだようにしか書けない。読んだ世界を読んだように書く文章と、それをアレンジした文章。アレンジが過多のものはどちらかというと苦手なのかもしれない。それが小説があまり得意でない理由か。

何らかの理由で世界が読めなくなったときに文章を書けなくなるのだろう。読めているときは何らかのことは書ける。いきいきした読み方が出来なくなると精彩のない文章になる。

読むことが私の人生なのだ。

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