『アカシヤの大連』/自分の捨てたものの中に自分が見える
Posted at 08/09/14
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![]() | アカシヤの大連 (1970年)清岡 卓行講談社このアイテムの詳細を見る |
清岡卓行『アカシヤの大連』(講談社、1970)読了。日本時代の大連への美しいオマージュに陶然とする。「かつての日本の植民地の中でおそらく最も美しい都会であったに違いない大連を、もう一度見たいかと尋ねられたら、彼は長い間ためらったあとで、首を静かに横に振るだろう。」という書き出しで始まるこの小説を読んでいると、大連は植民地の中だけでなく、日本の支配していたすべての年の中で最も美しい街だったに違いないと思えてくる。
描写されている大連は都会的でモダンな街で、当時の東京といえどもこれだけ瀟洒な美しい都会であったとは思えない。外国人―この場合は西欧人という意味だが―も多く訪れたこの街は、日露戦争のときも第二次世界大戦の際も、不思議と戦争や破壊を免れた平和な街でもあった、という描写は郷愁と憧れを誘う。この作品が書かれた1969年は、いうまでもなく中国は文化大革命の火が燃え盛っており、また日中の国交が途絶している時代で、大連は物理的にも訪れることが不可能な都市であった。現在のように問題なく大連に行ける時代には30数年前のこの状況を想像するのは難しいが、現在の平壌よりも行くのが難しい都市であったということは認識しておかなければならないし、だからこそ純粋なノスタルジーとしてこういう作品が成立し得たのだろうと思う。
小説は特に物語が展開することもなく、叙情的に淡々と回想と戦時中の憂愁の引きこもりの日々と終戦後の生きるための日々、とは言っても大連に数年留まって売り食いの日々を続けるのだが、引き上げの人々の悲惨な話を多く読んだこちらとしては拍子抜けするくらい平穏な日々なのである。その中に美しい大連の風景が盛り込まれ、というよりちりばめられている。基本的にはこれは作者の体験を描いた私小説の体裁をとっているのだけど、この小説の本当の主人公は大連の街だろう。
戦前の大連は野球の盛んな町として知られ、都市対抗の第一回と第二回を連覇している。また昭和初期には現代詩の最前線の『亜』の同人が活動していて、中でも安藤冬衛の存在は大きかった。ウィキペディア等で調べると作者の清岡卓行は戦後セリーグに就職し、「猛打賞」という言葉を考え出した人だそうだが、詩人としても活動していて、時流に反して抒情詩を書き続けたのだという。小説はこれが二作目だというが、そういわれて見ると確かに詩人の書いた小説だと思う。それも抒情詩人の作品だ。アカシヤと大連の印象は、きっと当時も強い印象を与えたに違いない。「アカシヤの雨にうたれて」という歌もあったし、「アカシヤ」という喫茶店も新宿にある。野球と詩と、清岡はまさに大連の性格そのままに、野球と詩に関わる戦後を送っただけに、大連への思いいれも深かったのだろうと思う。読む前はこういう小説だとは思わなかった。
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上京し地元の駅に着いたのが9時半過ぎ。コミック乱TWINSと矢沢あい『NANA』20巻(集英社、2008)を買う。『Cookie』9月号の衝撃の展開まで収録されている。9月号は立ち読みしたのだけど考え込んでしまって結局買わなかった。一月半後に単行本化されることがわかっていたわけではないのだが。結果として買わなかったのは正解だが、連載派もコミックス派もどきどきしながら「待て、次号!」になる工夫がされている。今月末の11月号は売れるだろうな。
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それからもう一冊、桜井章一X名越康文『未知の力を開く!』(ゴマブックス、2008)を買う。これは甲野善紀のホームページで推奨されていたもの。まだ84/222ページだが、いろいろ考えさせられる。桜井は「受動的」だ、ということとか相手の捨て牌を見ないで自分の捨てた物を見ろ、とか、自分の捨てた物の中に自分が見える、という話はどきりとさせられる。名越という人は桜井の話しの聞き出し役としては今まで読んだ中で一番優れているかもしれないと思う。名越の解釈が納得しにくいところもあるのだけど、またこちらの感じ方との差を考えることも新しい発見につながるのではないかとも思う。
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