モンテーニュを探す/塩野七生『ローマ人の物語 迷走する帝国』/ゴルゴ13を朗読するという企画

Posted at 08/09/01

このところ、日曜日は疲れが出てこのブログも更新できないときが多い。8月に更新できなかった4日を振り返って見るといつも上京した日か前夜上京の日ばかりだ。疲れが出るということでは、体力的な問題もあるのだけど、田舎にいるときと東京にいるときでは自分を取り巻く状況が全然違うのですぐには対応できないということが大きいと思う。東京にいるときは自分で時間が自由になるのだけど、自由に時間を過ごしているうちに雑用が降りかかってきてそれを考えているうちに動けなくなるという感じ。ギアチェンジが難しい。

ミシェル城館の人〈第2部〉自然・理性・運命 (集英社文庫)
堀田 善衛
集英社

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土曜日は仕事はかなり暇だったが、いつもと同じ時間に上京。東京についたらかなり強い雨とむしむしする妙な陽気に見舞われた。田舎にいるときは雨が降れば涼しいのだが、東京ではまだそうは行かないようだ。早めに寝たつもりだったが寝たのは実際には2時を過ぎていた。日曜日の朝は一番で丸善に行って堀田善衛『ミシェル 城館の人』の第二部、第三部を買うつもりだったのだが実際にはかなり出遅れた。9時に開店するからそれに間に合うように出かけようと思っていたのに、目が覚めたら9時前だったからだ。もたもた何もできないうちに時間が過ぎ、11時前にようやく出かけて、文庫のコーナーで二冊を手に取る。さて買おうと思ったら壁面一杯に塩野七生『ローマ人の物語』32~34巻『迷走する帝国』が並んでいる。『ローマ人の物語』は文庫で買っているのでこれも3巻買うことにする。『エセー』も買おうと思っていたのだが、訳本も何種類か出ているし、またどれも高い。時に読むものはずいぶん出来たし、よく考えてからにしようと思ってまだどれも買っていない。堀田善衛『広場の孤独』も買おうと思って出かけたのだが文庫の在庫はなくて、amazonかなにかで注文するしかないか、と思う。あるいは神田に行って探してみるか。

結局文庫5冊を買って、4階のMCカフェで一休みをすることに。窓際の席が空いていたのでそこに座って電車を見ながら何冊かぱらぱら読む。隣に座っていた親子連れの子供が電車が好きらしく、上越新幹線は新潟行きとガーラ湯沢行き、なんてことを母親に講義していた。最初はお茶だけにしようと思ったが、結局カレーセットにして昼食を済ませた。

午後は帰宅して本を読み続ける。『ミシェル』第二部は現在102/494ページ。モンテーニュの城館にこもったミシェルの日常生活、また書き始めた『エセー』の主な主題が自分自身について、自分自身の「判断力」を古今の事柄、また身の回りの事柄について試す、いろいろな事柄を自分で判断して見る、ということになっているということ、また隠棲してすぐ王から栄爵と廷臣の地位を授けられたことなどについて書かれている。モンテーニュがヴァロア朝末期の王権にとってそれほど必要とされていたことは知らなかったので意外だったし面白いと思った。隠棲の作家というと私たち日本人は鴨長明や吉田兼好のようにあまり身分が高くなく、また宮廷とのかかわりもほとんどない人を想像してしまうが、モンテーニュという作家はそうではないのだ、と思った。

ローマ人の物語 (12) -迷走する帝国
塩野 七生
新潮社

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塩野七生『ローマ人の物語』(新潮文庫、2008)32巻[迷走する帝国・上]、現在136/212ページ。セプティミウス・セヴェルスの死(紀元211年)後の四人の皇帝について。カラカラ、マクリヌス、ヘラガバルス、アレクサンデル・セヴェルス。読む前から知っていたのはカラカラとヘラガバルスの二人。カラカラは大浴場の建設と帝国内のすべての住民にローマ市民権を与えたということで知られている。ヘラガバルスは私はエラガバルスとして知っていたが、最初にこの奇妙な皇帝について知ったのは、澁澤龍彦『犬狼都市』に収録されている「陽物神譚」に描かれた少年皇帝である。それからこの太陽神侵攻の新刊でもあった奇妙な少年ローマ皇帝のことは関心を持っていたが、塩野はごくあっさりと外面的な事情を追いかけて描写を打ち切っている。つまりはローマ人たちの立場から、このオリエントからやってきた新皇帝の評価を下しているわけで、まあこの本のスタンスとしてはそれが妥当なのだろう。

澁澤龍彦初期小説集 (河出文庫)
澁澤 龍彦
河出書房新社

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セプティミウス・セヴェルスは五賢帝の最後マルクス・アウレリウスの死後、不肖の子として知られるコモドゥスが暗殺された後の乱立期を勝ち抜いて皇帝の座についた人物で、北アフリカ、カルタゴの故地の属州出身であった。その妻はシリアの太陽神神官の家系の娘で、ユリア・ドムナという。彼の死後皇帝になったのはカラカラであったが、万事に積極策をとったものの中途半端なアレクサンドロス大王信仰のためにパルティアとの和議に失敗して暗殺された際、ユリア・ドムナも自死した。簒奪者マクリヌスはパルティアとの和議を急ぎすぎたためにユリア・ドムナの妹ユリア・メサの策略にはまって殺され、ユリア・メサの孫のヘラガバルスが皇帝となる。しかしその奇矯な統治の末に彼が殺されると、ユリア・メサの別の孫であるアレクサンデル・セヴェルスが帝位を襲い、ユリア・メサは地位を保つことができた。このあたり、やや神話じみた皇帝の話が続くところが衰退期の巨大帝国の様相をよくあらわしていて興味深い。『ミシェル』に描かれたヴァロア朝末期の奇妙な王たちの様相も変といえば変だが、人間性の奇怪さがより現れてくるのはキリスト教イデオロギーが支配しているルネサンス期よりは、古代的奇怪さがそのまま現れたこの巨大な古代帝国の方だ。

友人が深川に新しくオープンする朗読とアートのスペース「そら庵」でゴルゴ13の朗読(群読?)をするというので聞きに出かける。そらとは河合曽良のことらしい。場所的にも深川の芭蕉庵のすぐ近く、小名木川が隅田川に接続するところだ。地元なので自転車で20分くらいかけて出かける。時間を少し勘違いしていたのでどうなるかと思ったが、間に合った。ついたときには日本ゴルギアン協会(この企画のために作ったらしい)の高野君が自分がザイールにいったときのスライドなどを出してモブツ政権やザイールについて説明していた。なるほどアフリカというのはこういう感じかと思ったが、ある意味奇妙な懐かしさを感じる。少年時代の自分の周囲というのはある意味ああいうアナーキーなわけのわからない世界だった。モブツ暗殺とゴルゴの連絡網の破壊というのが朗読した回のゴルゴのストーリーの中心だったが(128巻収録の「300万通の絵葉書」という作品)、なかなか面白かった。下町の元工場という空間もアナーキーな想像力を生む場としてはなかなか面白い物だし、「アフリカ」を舞台にした日本の「マンガ」をそこで「朗読する」という「企画の面白さ」はなかなかのものだと思う。音楽の演奏・歌も素晴らしく、オープニング企画としてはそれなりの物であったと思う。

ゴルゴ13 148 (148) (SPコミックス)
さいとう たかを
リイド社

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特に、朗読をプロデュースするという考えは面白い。朗読という分野は日本においては正直言って未発達だ。朗読のテープやCDなどを探してみて私も思うことだが、高野君の言を借りて言えば「左翼的な」ものばかりで広がりがない。芝居を見に行く、踊りを見に行くという発想はあっても、「朗読を聴きに行く」ということが「楽しみ」として日本では成立しているとはいえないだろう。朗読するくらいなら芝居にする、という発想の方が強いと思う。また、私は聞きそびれたが昨日も中心はポエトリー・リーディングであったらしく、日本で朗読といえばまだそういうものに限定されるのが実情だろう。

しかし『朗読者』という小説一つ考えてもそうだが、欧米では朗読はひとつのジャンルとして成立している。私もイシグロの『わたしを離さないで』などを読んでいて、恋人たちがお互いに本を読みあう朗読というのがいかに切ない、愛の営為であるかというものに心を打たれたことがあるし、芝居の本読みを越えた、あるいは役者としての朗読の表現を超えた朗読そのものの魅力を見つけるという試みがもっとなされてもいいと思う。高野君は「新聞の読み売り」などを例に上げていたが、蝦蟇の油売りの口上など、市井の人々を「悪場所」に引きずり込むための「声の力」、「語りの魔力」というものを探求していくという方向性はあると思う。そういえば浅野温子が古事記を演じるという試みをやっているが、ああいう一人芝居的な方向とか、語りの可能性を見つけていくという試みはもっと幅広く行われていいと私も思う。

朗読というテーマに限らず、高野君のやろうとしていることはものすごくラジカルなことなのだと思う。あまりのラジカルさゆえに、わたしなどが見ると、どうやったらこれがうまく行くか、というようなものが全然分からない。大体普通の意味でうまくやろうとしているのかどうかさえよく分からない。チャーは『気絶するほど悩ましい』のなかで「うまく行く恋なんて恋じゃない」、といっているが、高野君は基本的に「上手く行く芝居なんて芝居じゃない」、と思っているとしか思えない。その中で孤軍奮闘する姿はすごいとは思うが、周りでなかなか手出しの仕様がないという面もまたあるのだろうとも思う。どこへ向かって走っているのか私などには見当がつかない面も多いが、旺盛な活動には私自身が刺激される。

7時前にはねて高野君と酒井君とひとしきり話をした後夜の深川を自転車で走る。美術館通りなど、同じ江東区でも深川の方は面白そうな店がたくさん並んでいる。100円ローソンというのがあったのでそこで夕食の買い物をし、帰宅。夜は東京湾海底峡谷に住むゴブリンシャークという奇妙な鮫の話をNHKで見ているうちに寝てしまった。二日続けて中途半端な寝方になった。夜中に目が覚めてひとしきり本の続きを読み、また寝て6時前に起床。今日は防災の日。もう9月か。

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