『オスカール大岩:夢見る世界』展/星野之宣、村上春樹、ドストエフスキー

Posted at 08/05/07 Comment(2)»

昨日。午前中はいろいろやって、昼食を済ませた後、自転車で東京都現代美術館へ行った。天気が良くて、都立木場公園は人が一杯。今年の連休はいろいろな意味で、近場ですまそうという人が多いこともあるかもしれない。でもそういうことに関係なく、この公園はとても気持ちがいい。世田谷美術館のある都立砧公園もむかしは気持ちよかった気がするが、最近はちょっと、という感じがある。木場公園は、天気が良かったせいもあるけど、この手の開放的な都立公園としてはとても感じがいいと思う。

しかしこちらのページを見ると、東京都の管理している公園はかなりたくさんあるのだなと思う。井の頭公園も上野公園も都立なのか。石神井公園や水元公園もそうなんだな。全公園制覇はいつの日か。

美術館の横に自転車を止めて入館。「屋上庭園」展を見にいったのだけど、他の客は「オスカール大岩」展を見に来た人が多く、少し考えた結果、常設展の「新収蔵作品展-『賛美小舎』上田コレクションより」岡本太郎の《明日の神話》特別公開も含めた共通券が1350円だったので、全部見ることにした。うひゃあ。

まず最初に「屋上庭園」展。「庭園」というテーマで1920年代から全くのコンテンポラリーアートまでさまざまな作品を見せようというコンセプト。作家一人ずつにそれぞれのテーマ名を冠して紹介する。この試み、現代美術館という空間の秀逸性もあいまって、非常に楽しい物になった。「グロテスクの庭」のビュフはなんとなくヘンリー・ダーガーを思わせた。「掌中の庭」は大正・昭和戦前期、つまりモダニズムに重なる時代の日本版画協会の活動、主に同人誌の展示で、モダニズムという潮流と創作版画というものがどう重なっていくのか、関心を持った。「アトリエの庭」の牧野虎雄の作品は素晴らしい。ぐいぐいとした油彩の筆致で生命力ある植物を描き上げ、ある種生命力そのもののいい意味での怪物のような作品になっている。これを目当てに図録を買ったのだが、収録されている絵が三点しかなく、少し残念だった。

「閉じられた庭」はマチスの「ロンサール恋愛詞華集」「シャルル・ドルレアン詩集」の二つの連作。マチスはやっぱりすごいなあ。これだけの線で作品にしてしまうのだから。「記憶の中の庭」はフランスの作家・ブロワザの映像作品。デッサンをアニメーションにしているといえばいいか。クッションを枕に寝そべってみるととてもいい。「天空に広がる庭」は内海聖史の「三千世界」。「庭を作る」は須田悦弘「ガーベラ」。いずれも現代美術の可能性を感じさせる作品だった。

続いて常設展。これは上田さんという個人の現代美術コレクションが寄贈された記念。現代でも、個人でこれだけのコレクションができるのか、ということに感動する。上田さんは他の美術館にもいろいろ寄贈されているらしく、舌を巻く。岡本太郎は前に一度見たのでじっくりは見なかったが、出来ればここにずっと展示しておいてほしいものだと思った。

休憩。レストランで、キッシュロレーヌとフラワーティー。ちょうど小腹がすいたところにふさわしい量。明るい店内で、パンフレットを眺めたり、携帯でmixiにアクセスしたり。

続いて『オスカール大岩:夢見る世界』展。特に期待はしないで見にいったのだが、ものすごく面白かった。思わず文字をボールドにしてしまうくらい。この人は天才だ。こんなことよく思いつくなあ、でも見せられてみるとものすごく面白いなあ、という発想に溢れている。そしてその発想を実現させる技術があり、また社会的なものから作品を発想できる力も持っている。ブラジル出身の二世だというが、すごい発想力。身近に感じる面もあるし、飛び抜けた楽園的な発想に感じるポエジーもある。何よりも、面白いと感じるツボが近いのが大きいのだろう。作品を見ながら可笑しくてくすくす笑ってしまった。現代美術を見る人ってなぜか難しい鹿爪らしい顔をして見る人が多いから、ちょっと浮いてただろうなとは思ったけど、この面白さでみんななんで笑わないのかそっちの方が不思議だった。

『屋上庭園』と『オスカール大岩』はともに図録がでていたので買った。帰りはまた自転車で木場大橋を渡り、郵便局でお金をおろして(図録を買ったら残金2000円になった。この連休は結構使ったなあ)帰宅。

帰ってからミクシィでやり取り。ちょっとこじれた話があったのだけど、まあ多分大丈夫だろう。それからおととい書いた村上春樹論でかなりやり取り。非常に収穫があった。村上にあんまり突っ込んでいくつもりはなかったのだけど、やはりこれもやっておくべき仕事かなという気がしてきた。

宗像教授伝奇考 2 (2) (ビッグコミックススペシャル)
星野 之宣
小学館

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星野之宣『宗像教授伝奇考』第2集読了。星野の諸星大二郎にない美質は、リリカルなところだなと思う。諸星の天才は、不死の者たちのキリストとか、安徳天皇の化身の巨大な海竜とか、思いもかけない巨大な奇妙な物を作り出し、それをドラマに仕立て上げる才能で、いわば幻視性にその原動力があるといっていいと思う。星野はおそらく同じような物を目指してきたのだと思うけれど、そういう点では諸星には及ばない。星野は常識人なのだ。しかしであるからこそリリックなものをドラマにする力を持ったのだと思う。

しかし、リリカルなものというのはうまく行けば大衆性を獲得できるけれども、それを乗せる題材というか構造を持たなければなかなか評価されない。競争が激しいのだ。より大きな構造を構築し、巨大な魅力ある個性を作り上げることがリリカルなものを受け入れさせる方法だとしたら、「宗像教授」という個性の創造はそれに成功している。その存在感とリリックな物との落差において、ポエジーが生まれているのだと思う。

夜は小松菜と豆腐の鍋。精進料理みたいだが、私はこの組み合わせが結構好きだ。食べ過ぎたときなど、夜を軽くこれで済ませることが最近多い。

ロシア闇と魂の国家 (文春新書 623)
亀山 郁夫,佐藤 優
文藝春秋

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食後、少し気合を入れて亀山郁夫+佐藤優『ロシア 闇と魂の国家』を読み通した。最後の方になって、どんどんずっしりとした重さが出てくる。話の中心は、亀山が『カラマーゾフの兄弟』の新訳を行ったことと付かず離れず。結局このテキストをめぐる様な話によってロシアを論ずる、ということになっているから、ある意味この新訳の反歌のような本だ。『カラマーゾフの兄弟』は亀山訳で3巻の途中まで(ドミートリーが逮捕されたところまで)読んで中断していたが、また読むのを再開しようという気になった。村上を論じたりカラマーゾフを読んだりするのはどちらもすげえ重いことなのだが、まあポーを読んだり詩作をしたりする傍らでそういうこともして見るのもいいかなと思った。

内容的には、911でポストモダン的な歴史理解は終わった、という指摘。これをどう解釈したらいいか。ミクシイの議論で、反グローバリズムや国産愛用の動きが起こらないのは、ブルデューのような理論的指導者がいないからで、知識人の責任だ、ということがあって、文化資本の重要性とか、そういうことについてもっと本を読んでみたい、と思ったりしたのだが、テロリズムにおけるグローバリズムの時代の開始を告げる911と、この点の関係とかを考えなければと思うが、どうも参考に出来そうなものがあまり思いつかない。ただ、文化資本の重要性の理解は、日本においては呆れるほど低いのは事実だ。橋下知事も大阪府立体育会館やスケートリンクの閉鎖、オーケストラへの援助の打ち切りなどを打ち出しているが、そういうものを切り捨てることへの鈍さのような物は救いがたい。東京でこれだけ文化を享受できるのは、やはり作家である石原慎太郎が知事であることはあるのではないかと思う。法律家ではだめなのかもしれない。

ドストエフスキーの主題は、お金であり、欲望なのだ、という指摘はちょっと目から鱗が落ちた。どうも自分があまり関心を持てない世界なのでそういう発想がなかなか出来ないのだけど、「お金が主題」だといわれると退屈な気持ちで読んでいたところが実は大事だったのだということが分かってくる。やはり評論というのは読むべきものだな。自分の読みの不足を補い、修正するためには、とても役に立つ、こともあるのだなと思った。

カラマーゾフの兄弟3 (光文社古典新訳文庫)
ドストエフスキー
光文社

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"『オスカール大岩:夢見る世界』展/星野之宣、村上春樹、ドストエフスキー"へのコメント

CommentData » Posted by o at 09/08/29

美術館に見に行きました。

CommentData » Posted by kous37 at 09/08/30

ずいぶん前のエントリですが、コメントありがとうございました。
オスカール大岩、最近の活動は日本では目にしませんが、新しい展開があるのでしょうか。また現代美術館などに来たら、見にいきたいと思っています。

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