雨の中、三月も去く/読書記録から分かること/ポエジーと作者の思い

Posted at 08/03/31

雨の中、三月も去く。

読書記録の続きをつける。昨年の9月から12月までつけてみた。

9月はジョルジュ・バタイユから始まって、多分これは丸善日本橋店の本棚で文学関係のもので何か、と探していて見つけたのだと思うが、『嵐が丘』『カラマーゾフの兄弟』と読んだが、途中で息切れ。ポール・オースターやルナールを読んで、文学から少し外れて幕末のものを読んだりアルキメデスを調べたりした。このあたりは自分に何が必要なのかわからず、いろいろやってみては失敗する、というやや悪循環の傾向があったように思う。

10月の半ばごろキャメロンを紹介され、ここからさまざまな試行錯誤が。アゴタ・クリストフ、『みどりのゆび』、純正律、インテリア、ギター、古武術と少しでも関心のあるもの、懐かしいものにとにかく手を出してみた。これが11月一杯続いた。

12月には川端康成を読みはじめ、桜井章一を挟んでアート方面に。原美術館にいったのは思い出だったがピピロッティ・リストはあたりでそのあと展覧会にいくつか行き、奈良美智・吉本ばななと行って年が明けた。12月あたりからは観念的な捜索ではなく、感覚的に自分の好きなものを見つけていく感覚が出てきたように思う。

そして今は詩のほうに関心が戻ってきたのかもしれない。

俳諧辻詩集
辻 征夫
思潮社

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辻征夫『俳諧辻詩集』読了。詩人たちが遊び心を持って本気で俳句に取り組んだ、という話が面白い。辻が詩を書き始めたのは安西冬衛や西脇順三郎ら「モダンボーイ」の活動の全盛時代だそうで、詩は昭和初期の「詩と詩論」に始まると本気で思い込んでいた、という。そこから明治初期の「新体詩抄」、江戸、王朝、万葉とさかのぼって詩もこの流れにあるという安心感を得たと言う。俳句に比べて現代詩は「痩せすぎ」だ、という指摘はその通りだと思う。俳句を取り入れて詩を書く、という試みはどのくらい受け入れられるのかよくわからないが、私は好きだった。

連句のたのしみ (新潮選書)
高橋 順子
新潮社

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高橋順子『連句のたのしみ』。第1章読了。36首を連ねて一つの「歌仙」を巻く、という連句の基本的な成り立ちが理解された。前の句の連想で次の句を続けるのだが、同じ季節を続けるとかいろいろルールがあるようだ。前の句の連想があまり飛躍しない場合もあるし、かなり飛躍する場合もあるが、それぞれにそこに生じるポエジーが命、ということなんだなと思う。一つの句としての完成度ももちろんだが、36首全体全体がまた一つの作品、という行き方が面白い。しかも共同制作で、どこに行くかわからない、ある種の曼荼羅的なものなんだなと思った。それぞれの作者の個性が句によく出ていて面白い。

詩学 (1969年)
西脇 順三郎
筑摩書房

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西脇順三郎『詩学』。「「詩学」という意味は私にはポエジイというものは何であるかを学ぶという意味である。」と西脇は言う。「詩」というとき、内的な意味でいう場合は「ポエジイ」であり、外的な意味をいう場合は「詩作」という、という。「詩作の直接の目的はポエジイという思考の世界を創作することである。」という明快な定義は目から鱗が落ちた感じがした。ポエジーとか詩情とか、そういう言葉を使っては来たけれども、自分の内面を表現する、という方に気を取られすぎていたんだなと思う。内面などなくても、詩情はあるのだから、そういうものを捕まえるという作業をもっとすべきだったんだなと今にして思う。いや、これは「愛」について悩んでいたときに辞書を見て「いとおしく思う気持ち」と書いてあるのを読んで目から鱗が大量に落ちた、という相原コージ『コージ苑』の序文に匹敵する基本的な再発見だ。

じゃあポエジー=詩情というものはどうしたら生まれるのか、というのが詩人の大命題になるわけだが、これがこの本のテーマということになる。ちょっとじっくり読んでみたいと思う。少なくともポエジーは理屈ではない。理が勝っていると面白くない。だからといって乱調ならいいというものでもない。そうね、他の分野でいえば「美」ということになるのか。「美がある」、と「詩がある」、微妙に似ていて似ていなくて。

辻征夫に戻ると、彼は「作者の思いほど詩の邪魔をするものはなく、まず力を抜かなければととりあえず窓を開け放ったりするのが、自室にいるときの私の動きの基本的なパターンであるに違いない。」という。なんていうか、自分の思いに溺れて詩をつかみ損なっていった私のパターンがよく見えて苦笑いするしかない。少なくともポエジーとは、「作者の思い」とは別のものなのだ。そんなこと、分かりきったことだったはずなんだけどなあ。

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