『ニッポンの小説はどこへ行くのか』:作家は「好きで書いてる」か

Posted at 08/03/16

昨日。昼飯を買いに行くついでに宮本輝全集13を借りてくる。どうもなんだかあまり読めない。同じような時代背景でも有吉佐和子はすらすら読めたのだが。それは語り口の違いか。文章の好き嫌いというのは結局、何を扱うかとか何がテーマかなのではなく、その作家の語り口が好きか否かという問題なのだなと改めて思う。だから読者は、同じ作家のものばかり読んでしまうのだろう。

午後、何か新しいものを探そうと丸の内丸善に出かける。雑誌のコーナーでたまたま立ち読みした『文学界』4月号が面白く、購入。

文学界 2008年 04月号 [雑誌]

文藝春秋

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『ニッポンの小説はどこへ行くのか 十一人大座談会』。参加者は岡田利規、川上未映子、車谷長吉、島田雅彦、諏訪哲史、田中弥生、筒井康隆、中原昌也、古井由吉、山崎ナオコーラ、高橋源一郎。筒井・古井の年長組(70代)に橋渡し的に車谷、島田、高橋。後は若手、と私はとらえたがどんなものか。30~40代前半なら若手、という感じ。

この座談会は50年前(1957年8月号、正確には51年前か)に行われた『日本の小説はどう変わるか』という座談会を踏まえたもの。このときの出席者は52歳の伊東整を最年長に23歳の江藤淳が最年少で、年齢の高い順に書くと石川達三、高見順、山本健吉、大岡昇平、中村光夫、福田恒存、荒正人、野間宏、まで40代。30代が堀田善衛と遠藤周作、そして24歳の石原慎太郎、という順になる。さすがに現在でも健在なのは石原だけだ。

このときの議論は「私小説」か「物語」か、というテーマが中心だったらしく、確かに時代というものを感じるが、確かにそういうものが問題だったんだろうなということはまあよくわかる。

現代の座談会でもやはり「私」というものをめぐっての話が多かったが、これはもう確かに「私」というもののとらえ方自体が全く異なるものになっているということは感じた。考えてみれば遠藤周作ですら大正生まれであり、現代の我々が置かれた「私」の状況とは多分遠く隔たるところにあるのだろう。「私」という存在そのものを分析するという行為は、昔は「身も蓋もない」ととらえられてしまっただろうという指摘が新鮮に感じられた。

今回の座談会では、中原昌也が「好きで書いてるんじゃない」ということにこだわりを見せ、「『好き』ってどういうこと?」という方向に話が行っているのが面白かった。若手はみなそれぞれがそれぞれの抱負を持って作品を書いているのだけど、山崎ナオコーラなどは「私、まっすぐにそう(好きだから書いていると)思って書いてました。」と言っていて、ああなるほど、私などが若手の作家にどうも何か違うものを感じていたのは、「好きだから書く」という動機に対する楽天的な信頼性のようなものに対してだったのかもしれないと思わされた。このあたり多分川上未映子も共通するものがあるように思う。

「好きだから書いてるのよ。それのどこが悪いの?」というのは正論で別にどこも悪くないのだけど、でもそれだけじゃないだろう、ということはあるんじゃないかと思う。これは私が修士課程で西洋史の研究をしていたときにも感じたことだけど、当時の大学院生(考えてみれば彼らも既に30代だ)たちも歴史研究をやらざるを得ないという強い動機のようなものがないなと私は思っていた。

それは多分、自分と世界とのつながりの実感、のようなもの、主体としての私にこだわることで動機の純粋性のようなものにこだわりたいということなのだろうと思う。

確かにそれだけが文学ではないと思うが、そういうことにこだわりたいという志向は私自身の中にもある。多分それを引きずっているのが書くときにしんどい理由なんだろうとも思った。

ただそれぞれが文学に対していろいろ壮大な夢を描いていて、それはそれでなんかいい。特に島田雅彦が可笑しい。

「・・・その中で私自身は、非常にプリミティブな表現形態としての詩や神話をもう一回研究しつつ、最終的に単なる情報を扱うということを超えて、おのが本能や感情といった、一番言語化、情報化しにくい部分について何らかのアプローチが出来ればと思うんですね。・・・だからそういうような野心だけは保ち続けたいと愚考します。」

島田はそれを「ワーグナーみたいな仕事」と表現しているのだが、なんか志がでかくていい。

この座談会は、同じような問題関心の人ばかりが集まった蛸壺的な議論ではなく、同じ純文学と言う土俵があるとはいえ出身や背景もまちまちで間口の広い議論になっていてそのあたりサロン的な和やかな楽しいものになっていると思った。こういうものを読みながら、自分がどういうことを書こうとしているのかもう一度考えてみるのも面白いんじゃないかと思う。

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