『iPhone 衝撃のビジネスモデル』その3・総括
Posted at 07/06/08 PermaLink» Comment(0)» Trackback(0)»
岡嶋裕史『iPhone 衝撃のビジネスモデル』読了。
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Web2.0では新しいビジネスモデルが構築されていない、ということがこの本では指摘されているわけだが、それではiPhoneが実現する可能性のある「衝撃のビジネスモデル」とはいったい何なのか、ということが関心の中心になって読み進めていたのだが、結局その主張は二点に絞られるように思われる。
一つは、アップルは「自社がもっとも強い競争力を持つユーザーインタフェースの分野での革命」であり、「増大しつづけるサービスポイントへの窓口をiPhoneに集約すること」だと指摘している。つまり、アップルの最大の強みはインタフェース技術にある(コンピュータのMac、携帯音楽プレイヤーのiPodなどの操作性やデザイン性の革新性に現れている)ので、その革命を「サービスポイントへの窓口」においてiPhoneに集約させることによって成し遂げたい、ということのようだ。
と書くと自分でも何を言ってるのかよくわからないが、つまりは日本で携帯電話が電話だけでなくメールが使え、写真が撮れ、画像を作成でき、mobileSUICAに見られるように決済手段としても使え、というふうに現時点でもかなりさまざまなことが出来るが、入力手段が「テンキー」に縛られているために発展可能性が限定されているのを、全面タッチパネルの採用でキー入力(PCにおけるキーボードの役割)だけでなくポインティングデバイス(PCにおけるマウスの役割)の使用が可能になり、それを指で入力できることで入力を圧倒的に簡素化し、入力部分と表示部分を共通化することによって画面が広がり、表現能力が大幅に向上するので、iPhoneを使えば今の携帯に比べてもはるかにたくさんの、何でもかんでもが出来るようになって、iPhoneがその「ポータル」としての地位を獲得する、といえば少しはましだろうか。
Yahoo!にしてもGoogleにしてもPC上でのポータルの地位を獲得することでその事業は圧倒的な成功を収めたわけだから、その戦略は理解はできる。特にまずはiPhoneを使わなければそれが出来ないならiPhone本体が爆発的に売れるはずだということになろう。事実500-600ドルという価格設定(携帯電話としたら考えられない値段だ)にもかかわらず、1000万台を見込んでいるという。
もう一つは、梅田望夫・茂木健一郎の『フューチャリスト宣言』に見られるような「すべてのコンテンツの無料化・すべてのコンテンツへのアクセス自由化」に対する反論と言っていいと思うが、「コンテンツへの課金」の可能性を探りつづけるべきだということで、それに関しては現在の携帯電話の「電話料金と合算しての一括支払い」を大きく評価している。決定的な支配力を持つ企業団体の存在しないPCでは一時的な覇権をYahoo!やGoogleが握ろうとも、そのビジネスモデルは広告収入ということになるわけで、ビジネスモデルから言えばGoogleは「世界最大の広告会社」だという指摘はなるほどなあと思った。しかしドコモやauなどのキャリア(通信会社)の支配力が圧倒的な携帯電話業界では、すべての課金を電話料金に合算して請求することが可能であり(いわゆる公式サイト)、回収率も高いし何よりもユーザー側が課金の際に簡単に支払いを行えることが大きい。PCで決済をする際の、新しい販売会社を使おうとするたびに住所まで入力しなければならないわずらわしさに比べたら天と地の差である。
私も個人的には、梅田や茂木の「コンテンツの無料化・完全自由化」の路線にはちょっと疑問を感じていたのだが、現実問題としてコンテンツに金を払うという文化が今後成り立ちえるのかということに関してはどうなのかなあと思っていた。そのあたりのところは、ジョブスが「ユーザーがP2Pを使うのは違法行為をしようと思っているわけではなく、ただ面倒なだけなのだ」という通り、簡単に支払いが出来てその方が便利であるならユーザーは金を払う、ということはありえるなとは思った。携帯では着メロ・着うたのようなコンテンツビジネスが十分成立しているわけで、携帯以上に使用範囲が広がる可能性を持ったiPhoneならば、もっと違うコンテンツでも十分ビジネスとして成立する可能性はあるかもしれないと思った。
梅田や茂木が言わば「アナーキズム」路線であるとすれば、岡嶋の主張は「資本主義」路線である。「情報や知識の対価をゼロにしてはいけない。情報がその付随的価値によってしか対価を得られないシステム(つまり広告収入)は、情報にバイアスがかかるか、真にクリエイティブな情報を創る人がいなくなる可能性がある。(p.177)」このあたりには、私が感じていた問題点がうまく表現されているように思った。
そのほかこの本の特徴はいろいろあるし、主張も読み取るべきものはもっとあるのだが、以上の点だけでもなかなか要約は大変で、なかなか盛りだくさんの本だと思う。PCや携帯電話やさまざまなものを使いこなし、それらの動向や可能性、その世界での話題などを積極的に探っている人でなければ、この本に書いてあることを理解するのはかなり大変ではないかと思う。少なくとも昨年の私では読めたかどうかわからない。最近携帯電話の動向などに関する本を結構読んでいるのでようやくあのことをいっているんだなと想像がつく、という部分がかなりあった。
しかしこの本がしている問題提起にはかなり重要なものがたくさんあるし、ちょっとアップルを誉めすぎだと思う面もあるが、アップルが出来て日本企業が出来ないこと――新しいパラダイムを持った商品を(不完全であっても)市場に投入すること――などの指摘に関しては重要だと思う点もある。「低完成度の商品を市場に投入することは日本企業の倫理と美意識にかなわない」というのは全くそのとおりで、しかし日本企業がその倫理と美意識を失ったら日本社会自体が崩壊する可能性もあるわけだから、なかなか痛し痒しだと思う。できる出来ない、採用する採用するしない以前に、そういう考えをもった世界企業と伍してビジネスを展開して行かなければならない現実は押さえておくべきだろう。
いろいろな意味で――梅田望夫の路線とのバランスを取る意味でも――読んでおきたい一冊ではあると思う。
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