ありがとう、新庄!
Posted at 06/10/27
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そうなったらいいなと思っていた。でも難しいだろうなと思っていた。一つ勝っても、もう一つ勝っても、三つ勝っても、心のどこかで「そんなにうまく行くはずないよ」と思っていた。しかしそれがほんとうに実現した。一つ負けたあと、四つ続けて勝って、ついに日本シリーズに優勝したのだ。それも札幌ドームで。日本ハムファイターズが。
テレビが見られない場所にいたので、ネットでテキスト実況中継を読んでいて、一球ごとにリロードして、戦況を見ていた。この仕組み、何が面白いんだろうと前は思っていたが、こういう状況の中で読んでいるとまさに手に汗を握ってくる。アサヒコムのサイトで読んでいたのだが、最後の打席にフルスイングで三振した新庄に、スタンドからスタンディングオベーション、というのを読んで、じんわりと涙が浮かんできてしまった。そういえば巨人が好きだった頃、末次が逆転満塁サヨナラホームランを打ったのに感動したのはラジオだった。より間接的なメディアの方が、ある意味記憶に残るといえるかもしれない。もちろん江夏の21球のように、テレビで見られてほんとうに幸せだったという記憶もあるのだけど。
家に帰ってきてからニュースで何度も試合を見、インタビューを聞き、ビール掛けを見たけれども、ほんとうにじんわりと嬉しさがこみ上げてくる。ヒルマン監督も板についてきたし、シリーズMVPになった稲葉の活躍も大きかったけれど、やはりこの試合の主役は、なんと言っても新庄だろう。8回最後の打席で涙を流しながら三振したシーンを後で見るとほんとうにゾクっとする。三振で観客を感動させる選手など、ほんとうに長島以来ではないだろうか。成績は確かに長島には及ばないけれども、新庄は長島以来の存在だったのだと思う。
日本ハムが札幌に本拠地を移し、日本ハムは本当の意味ではじめて熱烈なファンを獲得したと思う。私のように1970年代後半以来のファンなど、もうごくわずかしかいないだろう。江夏の活躍でパリーグを制覇し、巨人と後楽園七連戦の日本シリーズになった年。あの年のシリーズは屈辱的だった。後楽園は日本ハムの本拠地でもあるのに、スタンドの9割5分は巨人ファンだっただろう。その雰囲気の中でファイターズは呑まれ、実力を発揮できないうちに敗退した。翌年からも何年も優勝候補になりながら、広岡監督が就任した西武にあっという間に水をあけられ、Bクラスの常連に低迷していった。
だから本拠地が札幌に移転するということを知ったとき、地元東京で応援できない寂しさは感じながらも、チームにとっていいことだろうと思っていた。ホークスが福岡に移転して大阪球場の閑古鳥状態にはない熱烈なファンを獲得したこと、ロッテが千葉に移転してやはり最高のファンを獲得したことを見ていたからだ。
しかしチームには核がない。本拠地移転の話題性だけでファンがつくほど野球は甘くない。そこに現れたのが新庄だった。
はっきりいって私は新庄をあまり高く評価してはいなかった。野村監督時代の阪神で「言ってることが難しくて分らない」と言ったり、敬遠の球を痛打してサヨナラにしたりの意外性の男だとは思っていたが、イチローと同じ年に大リーグに挑戦し、イチローに「ぼくとあの人は目的が違いますから」と言うようなことを言われていて、まあそうだよなあとイチローの肩を持ったりしていたものだった。だからメッツで活躍したことも以外だったし、北海道に来てからもあんまり評価していたわけではなかった。
その気持ちが変わってきたのはいつからだろう。近鉄消滅騒動の中で行われたオールスターゲームで、新庄はホームスチールを敢行し、みごとオールスターMVPに輝いた。その時新庄が言った、「これからはパリーグです!」という言葉が、今思うとその転換点だったかもしれない。その時から、この男は、ほかの野球選手とは隔絶した、何か違うものを持っていて、何か違うもののために野球をやっていると感じ始めたのかもしれない。
プレーオフ制度が始まった年、日本ハムは3位に食い込み、プレーオフに出場することが出来た。それを決めた試合で新庄はサヨナラホームランを打ったのに前の走者の田中幸雄と二三塁間で抱き合い、走者を追い越したとしてアウトになってしまった。しかし、そんなことはほんとうにどうでもいい、チームがプレーオフに進出したことを純粋に喜んでいるその姿が、決まりきった野球の勝負観念をどこかに吹き飛ばしてしまうのを、私は感じていた。
今シーズン、ずっと三位につけながら、終盤の驚異の粘りでついにシーズン1位を獲得した。今シーズンから作戦スタイルを変えたバント重視のヒルマン監督の采配の中で、新庄がバントする場面もずいぶんたくさん見た。最初は新庄も不満そうに見えることが多かったが、だんだんそれも消えて、重要な場面でとてもよいバントを何度も決めるようになった。あの新庄のひたむきさがあればこそ、監督批判騒動でプレーオフ出場を棒に振った金村があのような謝罪を見せ、日本シリーズで普通なら考えられない登板と勝利を実現して日本一に貢献することが出来たのだと思う。
新庄の言葉は今まで迷言の類に分類されることが多かったけれども、今シリーズで最も深みを感じた彼の言葉が、「札幌ドームは空地なんだ」という言葉だった。子どものころ、ただほんとうに楽しくて野球をやっていた、空地。彼はほんとうに子どものように純粋に野球を楽しんで、それを絶大なファンがほんとうに楽しんでいる。心の底からの感動と言うのは、ほんとうは子どものような純粋さからしか生まれないのだと、心のどこかでは思っていたけれども、その新庄の言葉によって、この男はそれを実現できる、ほんとうにたぐいまれな男なんだとほんとうに心の底に響いた。
新庄のプレーは、そういう意味で、ほんとうに勝負を超越していたのだ。そしてだからこそ勝利を呼び込んだのだし、だからこそ泣いて三振しても、泣いて守備についても、見るものすべてを感動させることが出来たのだと思う。
私は、スポーツ選手に「ありがとう」という表現が嫌いだし、「楽しまなきゃ」という表現もあまり好きではない。しかし新庄に関しては別だ。この男が見ているのは個人の楽しみではない。もっともっと大きなものなのだ。
WBCで日本が優勝したとき、それはほんとうに嬉しかった。しかし、松坂ありがとうとか、松中ありがとうとかは思わなかった。彼らにとってはそれが自分のためでもあったし、自分のためにもいいプレーをするのがプロである以上あたりまえのことだからだ。しかし新庄のプレーには、その「自分」がないのだ。自己顕示欲のかたまりのように思うむきもあろうが、それは全く逆で、彼は純粋に自分を楽しもうとしている。そしてそれを「みんな」に楽しんでもらおうとしている。その「自分のなさ」がなければ、あのちょうど派手なパフォーマンスも嫌味な鼻につくものになっていただろう。彼はほんとうに札幌のため、北海道のため、チームのため、パリーグのため、日本の野球のため、そしてそれさえも越えた何かもっと大きな、「楽しむ」ということの無限の可能性のためにプレーしていたのだと思う。
だから最後に、心の底から、ほんとうに心をこめて、こういいたい。
ありがとう、
新庄!
日本ハムが44年ぶり日本一 プロ野球日本シリーズ(共同通信) goo ニュース
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