『オシムの言葉』(続き):「自信など不要だ」と「ナショナリズム」
		Posted at 06/07/24
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『オシムの言葉』を読んでいる。以下、『オシムの言葉』/昔の手紙を引っ張り出して読む:読書ノート / 20060724 11:33:59のエントリの方を先にお読みください。
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『オシムの言葉』を熟読している。先のエントリでは歴史との絡みのことを主に書いたが、サッカーと人生の哲学のようなこと、ボスニアでオシムがどのような存在か、ということについて読んでいると目頭がなんども熱くなる。
昨日の『情熱大陸』に出てきた言葉を思い出した。「自信など不要だ。相手にどう見えるかが大事なのだ。相手という鏡に映った自分を見て、自分の足りないところを向上させていくのだ。」正確ではないが、このようなことを言っていた。
この言葉は私にはすうっと来た。「自信を持て」、とはよく言われるが、自信など不要だ、ということを言う人はなかなかいない。それは私が、「もっと自分に自信を持たなければいけないな」と思うことが、というより「思ってしまう」ことが多いからに違いない。つまり「自信を持て」ということ自体が囚われになって自分を縛ってしまうということである。無意味に自信過剰な人間が溢れている現代は、ある意味危険だ。つまり、そうでない人間がその無意味な自信に圧倒されてしまうことが往々にしてあるのだ。そしてその結果、負けないようにまた無意味な自信を持つ、つまり「自信という名の思い込み」を持とうとして、せっかくの成長のチャンスを失ってしまう危険性が高い、ということなのだと思う。
本当に力のない状態で、力以上のものを出すためには、あるいは自分がうまくコントロールできない状態で集中するためには、「自信」self confidenceというものは大きな力を発揮することは確かだ。「自信を持て」とよく言われるのは、本来そういうことだろう。しかしいったんそういう状態を脱し、自分のリズムで動くことが出来るようになったとき、自分自身の根拠を「自信」に戻って確かめようとすることは帰って動きを硬直化させてしまう。つまりそこで成長のチャンスを失ってしまうのだ。
「自信を持つ」ということは一つの神話である、というより一つの「段階」であると言うことなのだろう。それよりステージが上がったら、「自信」などにもうこだわるべきではないのだ。人の目に映った自分を検証し、さらに自分を高めていく工夫だけが必要なのだ、ということを彼は言っているのだと思う。そういう意味では「自信」は一つの「罠」ですらある。
私はこれを聞いて、ふっと「ナショナリズム」というものもこれに似ているな、と思った。力がないときに、何とか集中しようとしてその糧になりうるのが国家の場合はナショナリズムだ。ある危機になるとそれが燃え上がるのは国家としての生存本能の現われだろう。しかし、ある程度以上強力になった国家にとって、ナショナリズムはなにか別の形に転換していくべきなのだと思う。韓国や中国を見ていて思うのは、弱小国家だった時代にナショナリズムが強いのは理解できるのだけど、現在のようにある程度以上強大な国家になってもそれにこだわっているのがあまり気持ちよいものには見えない、ということなのだ。中国では「ナショナリズム」というにはあまりに「大国意識」や「被害者意識」など攻撃的な感情が煽られすぎている。韓国政府にも「北朝鮮重視・日本敵視」の言動ばかりがあるがそれがどのくらい本当なのかわからない見えにくいところがある。建前としての朝鮮民族主義と本音としての生活保守主義というか、そういうものが極めてアンバランスになっている感じがする。
日本はどうだろうか。現代の日本にナショナリズムが必要だとすれば、それは「力不足」という点にあるわけではないことはまあだいたい一致できるだろう。つまり、自分たち自身の力をうまく活用し、コントロールできない状態にあることが根本的な問題なのだと思う。
それは外交上の問題をうまく処理できないことに端的に現れているわけで、先日の北朝鮮安保理決議にしても、あれくらいのことは日本の力があればもっと簡単に出来てもおかしくないことだと思わないだろうか。それが出来なかったのは「土下座外交」に代表される、「外交上の自信のなさ」に端的に現れていたわけだし、たとえば拉致問題にももっと打つべき手段があるということ、またイラク人質問題に現れるように何が国際的に評価される行為で、どういう行為が不信を呼ぶかという認識が不十分なところにある。
つまり、中国との問題に対しても、一方的にやり手の中国の外交にいいようにやられるのではなく、じっくり交渉しないと手ごわいぞと思わせることが大事なのであって、中国がそういうふうに振舞うようになれば日本人自身のセルフリスペクトも相当改善されることは間違いない。そうなればナショナリズムの必要性を云々する必要性もそうはなくなるだろう。ただ日本人は、慢心しやすい。それも、増上慢になることよりも、卑下慢になることが往々にしてある。卑下という慢心に付け込まれているのが日本の弱さや混乱の原因なのだということも理解しておいた方がいいだろう。
『オシムの言葉』を読みながらそんなことを考えた。
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