「ハリケーンはやくざの仕業」説/『西太后』/東アジアのトリックスター
Posted at 05/09/24 PermaLink» Comment(0)» Trackback(1)»
カトリーナは原爆の仕返しをしてやろうというやくざがハリケーンを起こすロシア製の(笑)機械を使っての仕業だというお天気キャスターがいたそうだが、23日にアイダホのテレビ局を退職したらしい。アメリカ人は最近ある意味被害妄想で、世界中がアメリカを憎んでいるという妄想にどこか取り付かれているのではないかという気がする。その妄想がオクシデンタリズムなどのなかばトンデモ思想に発展しているのではないかと思うが、まあ非米人であるわれわれも世界中の人がアメリカを憎んでいるのではないかという妄想には取り付かれがちなのでそこまで行くとあまり妄想でもないのかもしれない。
しりあがり寿も、ハリケーンの被害がでているのを見てもイラクに州兵を送ったツケだとか超大国のクセに自分の国の防災もろくに出来ないのかとか自分たちがCO2を大量に排出して地球を温暖化させた罰が当たって海水温が上昇しハリケーンが大型化してるんじゃないかとせせら笑う「悪魔」が自分たちの頭に住んでいる、なんてことを書いていたが、まあ全くその通りであるだけに日本的な基準ではアメリカってバカ、ってことになってしまうが、世界的に見るとどうなんだろう。自分たちのやってることが自分たちに帰ってきている、つまり天に向かって唾した罰が当たっているという点では911と同じだという意見は一定強いだろうなと思う。
まあやくざの犯行説は原爆を落としたアメリカの加害者意識による怯えのある種の反動かもしれない。しかしその加害者意識が謝罪には絶対回りそうにないのがアメリカのアメリカらしいところである。
『西太后』読了。いろいろな意味で新発見が多くて面白かったが、どうもいただけない部分もそれなりにあり。どうしても中国よりの記述がでてきてしまうのは日本の外国研究者の通弊だが。西太后という人物は近代中国を決定的に弱体化させた悪玉として共産党史観では徹底的に弾劾される一方、庶民には意外な人気があり、その美食美衣を追求する分かりやすい幸福観に庶民は共感しているということが中国らしいと思う。権力の亡者といっても則天武后のように「男勝り」に権力を振り回して統治や政戦に縦横に活躍するといういわば現代のキャリアウーマンタイプではなく、感情のままに行動し、自分の誕生日の祝いの妨げになる戦争を嫌い、お気に入りを近づけ、北清事変でほうほうの体で西安まで逃げ出したあともまるで凱旋者のように派手に帰還してかえってカリスマを高めるという究極の社交界の女王タイプとでも言うか、デビ夫人を何億倍かしたようなタイプの女性である。
まあ確かに、近代的な国際政治の基準からいえば「清朝末期の腐敗した政権の権化」であることは間違いない。しかしなんというか、あまりに類例のない怪物であるだけに中国人というものを研究する上では非常に参考になる人物像であるという著者の意見にもうなずける。
特に戊戌の政変から北清事変の後始末にいたる数年のあたりは抜群に面白い。戊戌の政変、すなわち光緒帝の幽閉の前日に皇帝が伊藤博文と引見し、その屏風の背後では西太后が隠れて会見を傍聴していたというのはコワイというかなんというか、中国というものの底知れなさを感じさせられる。こういう場面にちゃんと顔を出すあたり、伊藤の東アジア近代史におけるある意味での狂言回し的な、あるいはトリックスター的な存在感というのは非常に面白いなということも改めて思った。この不思議な魅力を持つ初代総理大臣を、現在描写されているよりもっと魅力的に描き出すことはたぶん可能だろうと思う。
日清戦争に敗れたときの清朝の朝野の緊迫感の強さの描写は今まで読んだものから受けた印象をはるかに超えている。さすがに中国文学者、現代中国のさまざまな出版物を読んでいる人にはこういう文献の渉猟にかけてはかなわないなと素直に思う。中国の存亡を心底から始めて脅かした日本を、当時の中国人が本気で恐れ憎んだということがよく分かるし、それが現代の反日の原点なのだということもよくわかった。確かにそのあたり、日本人は能天気すぎるかもしれない。実際のところあんまり悪気がないし調子に乗ってみただけなのだが、つまりは下関条約が中国にとってのパールハーバーであり911だったということなのだ。反日思想は中国におけるオクシデンタリズムだといってもいい。
そういう意味で、中国にとってもアメリカにとっても日本という国は理解しずらい国なんだろうなと思う。悪気があって攻撃したならまだ始末におえる。もちろん悪気がゼロとはいわないが、つまりは世界観の基準が違うということなのだと思う。
今では西欧基準、アメリカ基準一辺倒だが、もしアメリカが没落したらたぶん日本はあっという間に方向を転換して別の方向性を模索しだすだろうし、それにも全然悪気があるとは思えない。『七人の侍』で志村喬が最後に「本当に勝ったのは百姓だ」みたいなことを言うが、まあなんだかそんな感じである。いいわるいは別にして、ずっとそんな国なのかもしれないなと今ちょっと思っている。
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