日本は情報で戦争に負けた:チャーチルの先進性と縦割りの弊害があったアメリカと日本

Posted at 22/08/16

8月16日(火)曇り時々雨

ぐずついた天気のお盆も今日が最終日。午前中にお墓参りに行き、お寺にお礼を届けて、夕方に送り火を焚けばお盆の行事は一通り終わり。明日は午前中に母を病院に連れていき、午後からは仕事だ。日常が戻ってくる。

「世界史としての「大東亜戦争」」読了。とても面白く刺激的だった。いろいろ感想を書いたけれども、今日は第11章「インテリジェンス比較ー縦割りの日本、情報集約の英国」を中心に、インテリジェンスや情報機関の活動についての感想。

簡単に言えば、イギリスもアメリカも日本も、情報機関の能力は高く、日本も必ずしも遜色はなかったということのようだ。どの機関かはわからないが日本はソ連に対する謀諜能力が高く、基本的に中国寄りだったドイツにおいてそれが評価されたことで日独防共協定など日本との連携に踏み切るきっかけになったという記述があった。

ただ、ソ連に対する謀諜能力が高いならなぜヤルタの秘密協定や1945年の対独戦の終了後、兵力をソ満国境をはじめ日本に大量に向けたことなどをなぜ察知できなかったのかという疑問があったりはした。

その疑問の直接の答えになるわけではないが、情報をめぐる態勢が日本には欠陥があったということがこの章を読んでよくわかった。問題は「組織」とその「連携」にあったと言っていいだろうと思う。

この点において最も優れていたのはイギリスで、組織的にも対外情報機関が秘密情報部(MI6)をはじめいくつもあり、それに加えて陸海軍の情報部があったのだという。そして重要なのは各機関には縄張り意識が強くなく各機関の間での情報共有が進んでいて、内閣府に合同情報委員会(JIC)という機関を持っていて、情報が集約されて首相に届けられていた、という点だと思う。

しかしそのような優れた情報機関を持っていても政策決定者がうまく使いこなせなければ宝の持ち腐れで、実際ネヴィル・チェンバレンはライバル政治家を蹴落とすのに使ったりヒトラーに対して否定的な評価を行なった担当者を罵倒したりしていたのだという。

しかしチャーチルは情報の重要性を重視していたのでJICを機能させ、戦争指導とインテリジェンスを制度的に繋げて活用したのだという。

チャーチルはさらにアメリカとの情報共有も重視し、現在のファイブアイズ(イギリス・アメリカ・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド)の情報同盟の原型を作ったのだという。

チャーチルは集約された情報だけでなく自らも通信傍受情報を熱心に読んでいたというが、情報担当の補佐官もいて、思い込みによって情報を歪めて受け取ることはあまりなかったのだという。チャーチルという人についてはインテリジェンスについてのイメージはあまりなかったけれども、その歴史においてかなり重要な人なのだということはよくわかった。

アメリカの情報機関では暗号解読の能力が高く、日本の外交暗号や軍事暗号はかなり解読されていたが、1番のネックは現場で日本語がわかる人材が不足していたことで、陸軍の機関には日本語が話せる人は3人しかいなかったのだという。問題は暗号解読よりもその日本語訳に誤りが多かったことだ、というのがまあ可笑しいと言えば可笑しい話だと思った。

アメリカではそうした情報は政策決定者にまであげられていたが、イギリスのように情報を集約して整理する機関がなく、杜撰な翻訳の一次情報に直接触れていたため、「読みたい情報を読みたいように読む」情報のつまみ食いが起こり、自分勝手に解釈する「情報の政治化」が起こっていたのだという。この辺りは現在のTwitterでよく知らないくせに誤読して誤爆したり炎上したりするのと同レベルのことが第二次対戦中のアメリカ政府で起こっていたかと思うと怖いことだなと思う。

またアメリカでも海軍と陸軍では情報共有ができておらず、海軍はイギリスの政府暗号学校(GC&CS)と情報共有していたがそれを陸軍には内密にし、それを知った陸軍が情報を共有を求めても断ったので陸軍は直接GC&CSと協定を結ぶという滑稽なことが起こっていたのだという。この辺りはおそらく、戦後国防総省や統合参謀本部という陸海軍を超えた組織が作られた大きな理由の一つだろうと思う。

日本ではさらに各組織の縦割りがひどく、陸軍が得た情報は全て陸軍内部で秘匿されて、海軍にすら伝えられず、ひたすら組織の利益のためにだけ情報が使われていたのだという。特に陸軍は米軍の傍受能力に優れていたが、実際にアメリカと戦っている海軍にはその情報は伝えられていなかったのだという。

それどころかこうした情報は大本営・政府連絡会議にすらあげられることはなかったのだという。そのために意思決定の場で客観的な情報に基づかない判断が横行することになったというのは、敗戦に至る致命的な原因の一つになったと指摘する研究者もいるのだそうだ。これは本当にそうだろうなと思う。

日本が戦争に突入し戦争に敗れた大きな原因の一つは「科学性の不足ないし欠如」にある、というのはよく言われることだけれども、こうした官僚縦割り体制の弊害が日本を破滅させたことが十分に反省されているのか、その辺りのところはおそらく平成に入ってからかなり改善されたところはあると思うが、まだまだ気になるところではある。


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