ウクライナのロシアに対する「かなり妥協した」停戦案:停戦は実現するか/国際的な白人極右運動のウクライナ戦役への関わり:「アゾフ連隊」と「ロシア帝国運動」

Posted at 22/03/30

3月30日(水)晴れ

この三月はロシアのウクライナ侵攻の初期の進撃局面から始まりウクライナ軍の反攻が少しずつ見られるようになってきての終わりという感じになっているが、まあ2月24日の開戦からずっとそうなのだけど、色々なことを考えさせられている。

昨日はトルコでエルドアン大統領の仲介で停戦交渉が始まり、ウクライナ側からはかなり具体的な提案が出たようだ。中立化=NATO不参加の条件としてポーランド・トルコ・イスラエル・カナダの4カ国によるウクライナ防衛の枠組みを作ること。この提案はそれぞれの国に話は通してあるのだろうけど、NATO加盟国3国+イスラエルというのは多分よく考えられた枠組みなのだと思う。この中で一番ロシア寄りなのはNATOでないイスラエルだろうか。一番反ロシアなのはポーランドだろう。アメリカ・イギリスを入れないのが一つのポイントなのだと思うが、カナダにはかなりのウクライナ人が住んでいてそうしたこともあると報道ステーションでは言っていた。

もちろんこれはロシアが了承しなければ絵に描いた餅なのだが、このそれぞれの国の選択は割とそれだけで興味深く、敬意を見守りたいと思った。

もう一つはウクライナ領土からのロシア軍の撤退だが、ウクライナ側は2月24日の侵攻が始まる前のラインまで戻れと言っている。ゼレンスキー大統領は「これは妥協だ」と強く言っているが、もちろんルガンスクドネツクの親ロシア派支配地域とクリミアの問題を棚上げする、特にクリミアは15年間という具体的な数字を出して棚上げを提案していて、これはウクライナ側にしたら思い切った譲歩だろう。しかしこれは逆に言えばロシア側には侵攻の果実自体はゼロということだからそこをロシア側が飲めるかどうかという問題になる。ただこれは現実的なラインとしてはまあこんなものかなとは思う。

もちろんいろいろな問題はある。ゼレンスキー大統領はこれを国民投票にかけるというけれども、こうしたウクライナ側からすれば「譲歩」を命懸けで戦った国民が飲めるかどうか。しかし、これで停戦になればこれ以上死ななくて済むということはある。また破壊された国土の復興にも着手できるし国外に流出した難民も帰国できるだろう。また状況からして日本をはじめとした西側の多くの国からの復興援助はあるだろうからそこで国力を回復できるし、農業国であるウクライナにとっては農作業に着手できるということも大きいだろう。日本の戦国時代も戦争は主に農閑期に行われていたという話もあり、そのあたりも結構大きいのではないかと思う。

ゼレンスキー大統領はクリミアには戦禍を広げないと言っていて、この辺りも大きな譲歩であり、また「力による現状変更は行わない」というスタンスの表明でもあるだろう。この辺りで道徳的にロシアより優位な地位を保ち続けつつ停戦に持ち込むという狙いもあるのだろう。

ロシアはこの提案を飲むかどうかはともかく持ち帰って検討するとのことなので、あとは結局はプーチンの判断次第ということなのだろうなあとは思う。

こうした状況に持ち込めたのもウクライナ軍がよく戦い、市民の戦意も軒昂だったからで、日本の評論家たちがいうように早めに降伏していたらウクライナという国が地上から消え去り、恒久的な難民がまた世界中に散らばって軋轢をもたらした可能性は高い。戦うべき時は戦わなければならないのだ、ということが明らかになったと思う。

***

それから昨日知った、というのか割とちゃんと認識したのが国際的な白人極右運動について。極右というからナショナリストで、その国独自のものかと思っていたのだが、ネオナチというか白人極右運動というのは割と国際的なものなのだということを初めて認識したように思う。

ウクライナの「アゾフ連隊」というのはロシア支持派の日本人がよく触れているし、もともとウクライナにはバンデラ主義があって右派的な勢力があったことは認識していたけれども、現在では「アゾフ連隊」そのものは民兵組織ではなく正式のウクライナ軍の組織下にあるということで、「そうした右翼は排除されている」と報道で見て、その意味がわからなかったのだけど、いくつかのサイトを見て「極右組織としてのアゾフ連隊」にはウクライナ人だけでなく流入した国際的な極右が加わっていたということを理解して、そういう人たちが排除されたのだ、という意味だと理解した。だからウクライナ人の極右はもちろん加わっている可能性はあるが、彼らはまさに自分たちの国を守るのだから当然と言えば当然だし、無法な行為をしなければ問題はないわけだ。

もう一つ、初めて知ったのはロシアには「ロシア帝国運動」という極右組織があり、ロマノフ朝の皇帝を神と崇拝しているのだという。この「ロシア帝国運動」は民間軍事会社とも傭兵組織とも見られるワグナー社に多くの「人材」を送っているのだという。ルガンスクやドネツクの「親ロシア派勢力」の主力となっているのがこれらの人々だという話もあり、プーチンは「ウクライナの非ナチ化と非軍事化」を唱えているが、自分でもナチス的なそうした勢力を手駒として使っているのだということを認識した。

この「ロシア帝国運動」はロシア西部・サンクトペテルブルグで軍事訓練キャンプを運営しているらしく、ドイツやスウェーデン,フィンランドの出身者が参加しているという。この訓練を修了した者の中には2014年のウクライナ紛争に参加した者もいるというので、今回も動きはあったのだろう。

このように「ロシア帝国運動」にも国際的な白人極右は相当数流入しているようで、この辺りは自分が認識していた「ナショナリストとしての極右」とはかなり様相が違うのだと認識を新たにした。この辺りは少し違うかもしれないが、日本でも右翼がアジア主義を唱え、アジア解放を呼号していたことと重なるのかもしれない。右翼の国際的連帯というか、孫文のような革命家を日本の右翼が支援していたことと現象面としては似ているのかもしれない。

満洲で馬賊になった伊達順之助とか義勇兵的に青島のドイツ攻撃に参加した井上日召みたいな人もいたので、勝手に血が騒ぐ人たちがいること自体は洋の東西を問わないのだろう。我々にとってはアジア民族の解放・植民地独立というのは大きな大義だと感じられるが、白人にとっては白人優越主義を固守することがある種の大義として感じられる、その辺の理路はアジア解放の大義に比べれば無理があると思うけれども、彼らのそういう心象風景の研究等も機会があったら調べてみてもいいかもしれないとは思う。恐らくはその意識は極右だけのものでもないようにも思われるし。

以下の文は今回の戦争が始まる前の記事。戦争についても特にウクライナ側の動きはあまり表に出てこないのでよくわからないが、戦争が終わったら実態はどうだったかの検証は始まるだろう。

https://news.yahoo.co.jp/byline/mutsujishoji/20220129-00279459

また以下は公安調査庁のサイトだが、特に目を引くのがアメリカにある「アトムヴァッフェン・ディビジョン」(AWD,ドイツ語で核兵器師団の意)という組織である。この組織はロシアをはじめとしてヨーロッパ各地にネットワークを構築しているという。白人極右運動の組織はSNSなどを利用してメンバーを拡大しているようだ。

https://www.moj.go.jp/psia/ITH/topics/column_03.html

この辺りのことは全然知らなかった、というかほとんど関心がなかったのでいろいろとへえっと思うことが多いのだが、アメリカでトランプ支持のQアノンなどの特異なグループが注目されたように、白人世界全体を跨いで白人極右運動というものがあるのだなと新たに認識した感じはあった。まだその影響力はそんなに強いとも思えないが、イスラム原理主義運動やそこから派生した過激派組織、またキリスト教原理主義運動などの宗教を背景とした実力行使的な集団だけでなく、白人極右という宗教とは別のある種の信念を持った右翼運動の高まりというのも世界史の新しい現象なのだなあと認識した感はある。

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