リヴィウの歴史/「一つの中国」と「一つのロシア」/古くて新しいナショナリズムという熱気の新たな誕生

Posted at 22/03/11

3月11日(金)晴れ

今朝はなんとなくちゃんと寝られなかった感じがあり、朝起きるのも少し億劫だったのだが、ブログに書くことを思いついたので起き出して、風呂に入ったりゴミ出しをしたりして今自室。ここまで2時間くらいはかかっている。今朝の最低気温はマイナス1.8度。そう寒くはなかったけど車のフロントガラスが凍結していて、出かけるまでに少し時間が必要だった。でもそんなにかからずに溶けてくれたので苦労はしなかったのだけど。

書こうと思ったのは、リヴィウという町について。昨日、ウクライナの著名人、ウクライナ出身の著名人を調べていて、リヴィウ出身の人物が結構出てきたのだけど、リヴィウは現在はウクライナだがソ連時代以前はポーランド領、その前はオーストリア=ハンガリー帝国と支配国が変わっている。

「著名な人物」というのもキエフなどよりも東部ハリコフ出身のゴルダ・メイア元イスラエル首相とか現在はルガンスク人民共和国として親露派の支配下にあるルハンシク出身の棒高跳びの世界王者で「鳥人」と呼ばれたセルゲイ・ブブカ、南部の黒海に面した港湾都市・オデッサ出身の物理学者ジョージ・ガモフなど、これはどこの国でもそうだと言えばそうなのだが、より国際的な開かれた環境からそうした国際的な人材は現れている。

リヴィウもまたオーストリア帝国支配下でレンベルクと呼ばれた時代には経済学新オーストリア学派のルートヴィヒ・フォン・ミーゼスや「マゾヒズム」に名を残しているレオポルド・マゾッホを輩出しているし、ポーランド領ルヴフの時代にSF作家のスタニスワフ・レムが生まれている。レムはユダヤ人の家系ゆえにナチス支配下では身分を隠し、カトリックとして育てられたのでソ連占領後はポーランド領クラクフに移住している。

歴史的に見るとチェコ系のモラヴィア王国の支配がマジャール族の侵入により瓦解した後、981年にキエフ公国のウラディミル1世により征服され、1015年にはポーランドに征服されている。その後13世紀にはポーランド王国に臣従するキエフ・ルーシ系のハールィチ・ヴォルィーニ大公国によって都市が建設され、その後はヤゲロー朝ポーランドの主要都市となった。17世紀にはウクライナ・コサックやトルコの攻撃を受け、北方戦争でスウェーデンのカール12世に都市を破壊されたりしたが、1772年の第1回ポーランド分割でオーストリアの版図となり、ドイツ化が進められたが1860年代以降自治が進み、ポーランド文化・ウクライナ文化の中心の一つとなったという。

第一次大戦下ではポーランドとウクライナの奪い合いになり、1918年のポーランド・ウクライナ戦争と1920年のポーランド・ソヴィエト戦争の結果ポーランド領となった。第二次大戦後はソ連領ウクライナの支配地となりソ連崩壊後はウクライナとなっているわけである。

現在ウクライナでの戦争の映像を見ていると、ハリコフなどはとてもソ連的な都市に見えるし、キエフは東方正教的世界に見えるのだが、リヴィウはよりヨーロッパ的な、ある種西欧ないしドイツ的な都市に見えるのはそうした歴史があるからだろうと思う。

ウクライナがこのような歴史的経緯の中でさまざまな民族や宗教の混淆する場所で、また地域によって全く違う歴史を持っていることから、当初ウクライナが国民国家として成立する困難さのようなものがあったことは昨日書いた通りなのだけど、皮肉なことにプーチンのクリミア併合によってウクライナ・ナショナリズムが成立し、ウクライナ国家こそが自分たちの祖国であるという概念が急速に普及し、それによって今回のような勇戦ぶりが成立しているということのようである。

プーチンが主張するのはこうした様々な経緯を持って現在に至っているウクライナの土地や人民はバラバラであり、ウクライナは国家として成り立っていないということなわけだが、それをまとめたのがプーチンだというのは歴史の皮肉ともいうべきものだろう。またその指摘と「ウクライナはロシアの一部」つまり「ロシアは一つ」という主張は矛盾するものでもあるし、ウクライナの人々にとって受け入れられるものではないだろう。

国民国家やナショナリズムというものはそういう意味では自覚の問題なので、中国から分離して100年以上独自の道を歩いている台湾には特に民主化され、中国の圧迫が強まってから新たなナショナリズムが生じているわけだし、この辺りでも「一つの中国」の主張はもう「一つのロシア」と同じように破綻しているように思われる。

クリミア併合以来のウクライナが国民国家としての道を歩んでいるのは感動的であるのだが、古くて新しいナショナリズムの問題にまたここでも出会っているのだなと思う。われわれは同時代に、ナショナリズムの新たな誕生の物語を目撃しているわけである。

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