「保守主義とは何か」第3章を読んで(1):アメリカの「コミュニティ」と「成熟しない」保守主義

Posted at 21/02/18

「保守主義とは何か」の第3章、アメリカの保守主義について読んだ。この本ではここまで特に主要な思想家を中心に特にイギリスの保守思想を見てきたわけだが、第3章に関してはある思想家についてというよりも、今世界の保守思想の中心となっているアメリカの思想的バックグラウンドを含めた保守思想全体の見取り図を描いているという感じで、かなり大きいものを相手にしている感じがした。
その中で、自分が今まで理解していなかったアメリカの社会像のようなものも見えてきたところがある。そしてそれを背景として歴史的に現在のアメリカの保守思想が形成されてきたわけだけど、そのあたりのところをわかりやすく図式的に整理して説明してくれていると思った。

考えたこと、理解したこと、思いついたこと、日本との関連で考えたことなど、なるべく整理して書いてみたいと思う。長くなるので、数回に分けて書きたいと思う。

まず第一に、アメリカの保守思想とイギリスの保守思想はかなり違うということ。イギリスの保守思想は今まで見てきたように、求心的に抽象的な理想を追求する設計主義的なフランス革命の指導思想やその後継者たるリベラル、その中で生まれた社会主義などに対し、その行き過ぎを是正し、社会にあるいわば大切なものを守りながらの前進を、つまりは「変革」よりも「成熟」を求める思想であると言えると思う。

それに対してアメリカの保守思想には、いくつかの流れがあるけれども、そのそれぞれにとっての理想があり、その理想を追求する情熱がある。ごくわずかの例外を除いて、アメリカの保守思想は成熟を求めているのではなく、ユートピア的な理想を求め、時にある種のカルト的な印象さえ得ることがある。

しかしそれは、保守主義についてのみ言えることではなく、リベラルや特殊な宗教集団、スピリチュアルなコミュニティについても言えるように思われる。

それは恐らくはアメリカ社会の成立の歴史に関わることで、ヨーロッパと違い入植により形成されたアメリカはそれぞれのコミュニティが物理的に孤立していて、それぞれ独自の信念を持ったコミュニティが形成されていったということなのだと思われる。

ユタ州のモルモン教のコミュニティや、カウンターカルチャーの中で形成されたラジニーシ教団のコミュニティなど、どちらかというと宗教的・カルト的・スピリチュアル的なコミュニティは、それぞれの特殊な事情によって形成された異質の集団であると思っていたのだけど、最近はメガチャーチに集まる福音主義の人々のコミュニティや、ウォール街の投資家たちのコミュニティ、大学周辺に集まるリベラルなコミュニティもまた、同じような形成過程を持っているのではないかと思うようになってきた。

つまり、アメリカは「信念を持った人たちの国」であり、それぞれのコミュニティはそれぞれの理想を持っている。そして実現すべきユートピアについて違う理想像を持っている。政治においてはどのコミュニティがどの候補を、どの党を支持するかが大きな意味を持っていて、人間形成の期間においてもしばしば「自分探し」が行われるのは、信念を持った人々の国であるアメリカで生きていくためには強い信念を持たざるを得ず、最終的にどのコミュニティに属するかを決めるという過程なのだと思う。従って、信念の変化によって属するコミュニティが変わることもしばしばあるし、逆に先鋭な信念を持ってしまったためにどのコミュニティからも受け入れられず、新しいコミュニティを作ることに失敗してドロップアウトせざるを得ない人も出てくる(トマス・ペインについて調べているときに思った)ということなのだと思う。

よってアメリカでは「ゲイはゲイらしく」してないといけないし、「アジア人はアジア人らしく」していないといけない。自分がどのコミュニティに属しているかを常に明示していないといけないわけである。これは同調圧力とも言えるが信念の表明でもあるので、他のコミュニティの文化に憧れてそれを模倣したりすると非難されるし、特に白人が他のエスニシティの服装を真似たりすると文化盗用などと批判されたりすることにもつながるのだと思う。

ヨーロッパや日本ではこのような凝縮力のあるコミュニティはそう多くはないと思われるし、またより大きな「階級」とか「生活様式」によってもっと緩やかでありつつ規模の大きな社会集団になっていると思う。日本でも古くは地縁血縁などで強力なコミュニティが形成されていたが社会の流動化とともに解体しつつあるのは、それが信念に基づいたコミュニティではなかったからだろう。逆に言えば日本のコミュニティ形成の今後はこのようなアメリカ型の信念に基づくものになっていく可能性も高いように思われる。

アメリカに話を戻すと、これらのコミュニティも必ずしも最初から最後まで保守に属し続けるわけでもなく、現在の状況でいえばリベラルから保守に移動したコミュニティも多い。

従って、本当は保守思想だけでなくリベラルや知識人、また保守主義でもこの本では取り上げられていない第二次世界大戦後の反共主義などについても見ていかないと、アメリカの思想の流れの全体像は見えてこないのだと思うのだが、この稿ではこの本で取り上げられた内容についてまとめ、考えていきたいと思う。

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