トルコという新しい帝国/自らの運命を自分で選び取れる国

Posted at 18/11/02

内藤正典「限界の現代史」第4章まで読んだ。以下は全般的な感想といえばいいか。

欧米先進国のパラダイム、例えば主権を持つ領域国民国家というものが限界に達し、またその国際協調機関である国連も機能不全に陥っている今現在をどのように分析し、これから何を目指さなければならないかといえば、国同士が敵対的でもいいから緊張関係を持ったまま共存していくことが大事だというのが内藤さんの主張。ある意味ビスマルク的な勢力均衡政策というか、自らの実利的必要を満たしながら西欧とはまた違う論理で自国を安定させる力がある国を「帝国」と内藤さんは呼んでいるようだが、そうした「帝国」としてロシア、中国、トルコを例に挙げている。イランもまたそうした性質を持っていると、明言はしていないが言っていると思う。

中でも内藤さんのトルコに対する評価は高い。確かに、数百万人の難民を受け入れているのにEUのように大混乱をきたさずに、大統領選でも特に争点にもなっていないというのはもともと人口の多い大国とはいえ懐の深さ、広さを感じさせる。トルコでは世俗派の軍部とイスラム主義的性格の強いエルドアン政権の緊張というのがずっとあり、オルハン・パムクなどを読んでいた側としては世俗派の方に妥当性はあるのではないかと思い、ギュレン派のクーデターなどでも再度に渡る世俗派の巻き返しかと思ったが、エルドアンは速やかに鎮圧し国民もこれを支持し、大規模な粛清が行われたことは確かだが国内の安定感はよりいっそう強くなった。

エルドアンはムハンマドの血統ではなくイスラム法学者でもないからカリフを継ぐことはないが、カリフ的な存在を目指すことはあり得る、と内藤さんは見る。また中東における最も強力な領域国民国家であったトルコを多くの難民を受け入れる中でもっと超越的な存在に組み替えて行こうとしているのではないかと見る。つまりトルコ民族主義ではなく、イスラム主義によってカリフの統治するオスマン帝国の理想を推進することで、例えば中国に対してもトルコ系ウイグル族の独立運動を支持するという形でなく、ムスリムとしてウイグル人の亡命を受け入れる、ということで中国との先鋭な対立を避けようとしていると。

この辺りのイメージは私の中にも最近読んだ本や内藤さんのツイートを読んで出来つつあったが、やはりそういう見方だったのだなとこの本を読んではっきりしてきている感じがするし、アラブおよびイスラムの盟主に見えていたのにカショギ氏の事件で馬脚をあらわしつつあるサウジアラビアよりもはるかに盟主にふさわしい存在としてトルコが現れつつあるのは、地域だけでなく世界的なイスラム過激派の運動を沈静化する上でも大きな働きをするのではないかと思う。

トルコはカタールと並びムスリム同胞団やハマスと親和的であるということで西欧諸国から非難されがちだが、むしろそれらをも受け入れる懐の大きさがある、度量があるということも言えるわけで、非西欧的・イスラム的な帝国としてイスラム社会の中心になっていくことにより他との関係を安定させていく力にもなり得るのではないかと思う。

問題はそうしたトルコのあり方を西欧の側が受け入れるかどうかということで、ただトルコがそうした幅広く支持を受ける強力な国家である限りはアメリカなどは迂闊に手出しはしないということは今までのケースを見てもわかる。イスラームの正義を体現しながらも近代的な価値も尊重することが、トルコにとっても重要だろう。

日本はいわば戦前にはそうした西欧とはまた違う価値観を掲げてアジア人のアジアを目指したわけだが、今のトルコの動きを見ていると当時の日本には色々な意味で欠けているところがあったなと思う。特に帝国主義的な、山賊的な分捕り合戦に参加したかのように見えたことは、後々アジアの盟主になろうとした時にはかなり足を引っ張ることになってしまっただろうと思う。

日本はアメリカの腰巾着であり続けることが生き残る唯一の方法だという思い込みがあるが、本当はトルコ的な意味での「帝国」として米中の狭間で自らの意思で動けるプレーヤーであるべきだと思う。その時に重要になるのが、日本がどういう価値観を大事にする存在として世界に存在するべきであるかということになると思うのだが、そのあたりのところがもっと議論されていけばいいのだがとは思う。安倍政権のやっている方向も野党の唱えている内容も残念ながらちょっと首を捻ることが多い。

「弱い奴は死に方も選べない」という言葉が「One Piece」にあったが、日本は自らの運命を自分で決める力のある国であって欲しいとは思う。

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