包丁人味平、美味しんぼ、食戟のソーマ:「あの演出」に強い説得力を感じた

Posted at 18/05/14

少し前、輸入食材なども扱っているスーパーでふと見たので「レモンカード」を買った。これはバターにレモン果汁を合わせたもので、乳化に卵を使う、原理としてはマヨネーズと同じ作り方(水と油を混ぜるわけだから乳化剤が必要)だ。私はパンに塗って食べているけれども、お菓子作りなどにも使われる食材のようだ。
私がこの「レモンカード」を知ったのは、『食戟のソーマ』を読んだからだ。今「少年ジャンプ」で連載されているこの作品は、料理の専門(エリート)高校である「遠月学園」を舞台とし、主人公幸平創真を中心に、料理人たちが食戟というバトルを繰り広げていく内容だ。

この中でイタリアと日本の混血のイケメン料理人・タクミ=アルディーニがお菓子作りのバトルで使ったのがこのレモンカード。よくわからないがとても美味そうだと思ったことを覚えている。

包丁人味平 〈1巻〉 包丁試し1
牛次郎[原作]
マイナビ出版
2014-10-23



食戟=食のバトルと言えば昔からマンガではよく取り上げられてきた。私が読んだ一番古い例では1973-77年に同じく少年ジャンプで連載されていた『包丁人味平』。日本料理店の後継ぎとして生まれた味平が広い食の世界を目指し、洋食の世界で修業していくストーリー。その中で様々なライバルたちとさまざまな形で「勝負」していく。

この話の中で「鯛の生き造り」などの突出した技術や塩加減の微妙な差が味を決めること、カレーの香辛料の中には麻薬に近いものもある、なんてことを知った。小中学生だった当時は単行本を買ったりはしていなかったが、友達の買ったジャンプを回し読みしたり病院の待合室に置かれていたものを読んだりして楽しんでいたことを思い出す。
また、同じく料理勝負としては特に有名なのが青年誌「スピリッツ」に1983-2014年に連載されていた『美味しんぼ』だろう。実の父親の美食の巨峰・海原雄山の繰り出す「至高のメニュー」に挑む若い新聞記者・山岡士郎の「究極のメニュー」。この作品からも多くの食材やその扱い方について知ったことは多い。近年福島原発に絡んでネットで騒動が起こってから新作が発表されていないのは残念だが、この作品は単行本111巻すべてを持っている。

それぞれ時代を越えて読み継がれている料理マンガというジャンルだが、その時その時の時代のカラーがよく表れているだろう。高度成長期の終わりに現れた「味平」はまだ食に詳しい日本人がそう多くない時代に料理というジャンルで少年たちの胸を高まらせた印象深い作品だった。また『美味しんぼ』は経済大国になった時代からバブルを越えて不況時代、SNS時代まで連載が続き、その時々の世相をよく写している。北大路魯山人のエピソードなど古くからの美食の伝統も掘り起こしたこの作品は、食のマンガと言えばこれ、というほど浸透した作品だったと思う。

『食戟のソーマ』は2012年、東日本大震災の翌年から『少年ジャンプ』で連載が始まった作品で、世界中の食が食べられるようになった現代の日本での状況を踏まえ、ただ世相を映すという部分は最小限に抑えて「若い料理人たちの情熱とレシピ」を映し出すことに焦点が置かれているように思う。

最初は食戟という「バトル」に焦点があてられていることにやや懸念を感じていた、というのは「味平」で普通料理人はバトルなどしないし、腕のいい料理人でもそういう状況に置かれると萎縮してしまって力を発揮できない、という話を読んだことがあったからだ。

しかしこの作品は上記の二作品よりもはるかにフィクション度が高いし、また少年誌特有のお約束をうまく利用してその辺のところはうまく処理しているように思う。

そしてこの作品の一番の特徴は、美味しさ=食の官能を文字通り性的な官能に置き換えて、美味を感じると衣服が破れる・脱げるという演出をしているところだろう。これはもちろんイロモノなのだが、ここのところの連載を読んでいて、なるほどと思うところがあったので書いておきたい。

現在進行中の物語は遠月学園でクーデターが起こり、追放されていた総帥の一族・薙切薊が全権を握って「改革」を進める中、主人公創真や薊の娘で「神の舌」を持つと言われる薙切えりなたちが叛逆を起こし、「連隊食戟」でその雌雄を争う、という展開になっている。学園の精鋭である「遠月十傑」を敵に回しての戦いは困難を極めたが、ついに決着という場面。そこでクローズアップされたのがその「衣服が脱げる」という演出だ。

もともと、味の美味・不味は絵で表すことはできない。当然なのだが、読者はどんなにうまいのか想像することしかできないわけで、そこに創造力が働く余地があるわけだが、しかし読んでいるだけだと「この皿が本当に相手の皿よりも美味いのか?」という疑問が生じることは時々ある。それは「こっちがうまい!」と審査員が言えばそうなるわけだが、やはりそれだけでは説得力がないわけだ。

しかし、この「衣服が脱げる」という現象が盛大に起これば、よりそれが多く起こった方が「美味かった」ということが絵で表現できる。しょうがないイロモノだな、と思っていた演出がこんなにみごとな説得力を持って視覚的に表現されるというのは驚きだった。今週のジャンプを読んで、そんなところでとても感心したのだった。

それにしても、食という人間が生きている限り決してなくならないテーマを扱ったマンガが新しい表現方法を得て(まあこの演出はさすがに他の作品でパクることはできないと思うが)新たに想像されていくというのはとても面白いなと思う。また知らない食材や興味深い調理法なども新たに紹介されていくだろうし(分子ガストロノミーというテクノロジーの粋を集めた分野もこの『食戟のソーマ』で初めて知った)この作品の展開が楽しみであるとともに食を扱ったまた新しいマンガが出てくることも期待したいと思う。

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