譲位の意思を示された天皇陛下が実践されて来たこと。

Posted at 16/07/15

天皇陛下の譲位の御意思に対する反応はいろいろなところで読むことが出来ますが、一番心にしみたのがドナルド・キーン氏のこちらのコメントでした。

キーン氏自身が、ケンブリッジに在籍していた時にエリザベス女王の戴冠式で渡英した当時皇太子の天皇陛下を、ケンブリッジ市中を案内したと言う縁の深さもあるのだけど、全体にいたわりと敬意に満ちた、素晴らしいコメントだと思いました。

特に重要だと思ったのが、今上天皇が改められた天皇のイメージについての話でした。

明治維新前の孝明天皇は、その生涯で実際に会った人は100人に満たなかった、とキーン氏は言います。考えてみると、そうかもしれません。きちんと数えたわけではありませんが、昇殿できる人(殿上人)は原則位階が五位以上の人ですし、つまりは上級貴族です。江戸時代は武家にも官位が与えられていましたが、五位以上だからと言って基本的に天皇に会えたとは思えません。それに「龍顔」を拝せたからと言って言葉を交すこともできない人の方が多かったでしょう。そう考えてみると、孝明天皇は極めてわずかな人との話によってしか、自分の考えを伝えられないような境遇にあったことがわかります。

明治維新後は伊藤博文らの宮中改革により、明治天皇は山岡鉄舟によって鍛えられたという話があります。しかし基本的に、明治天皇は人にあうのが嫌いで、宮中もずっと電灯やガス灯は入れなかったと聞いたことがあります。開明君主としての外向けの姿と、天皇としての伝統的な生活スタイルの両方が同居した君主であったようです。

大正天皇は社交的でしたが、昭和天皇もまた立憲君主であろうとしていました。しかし軍内部でそうした天皇の姿勢に反発する勢力もあり、そのことが二・二六事件を引き起こしたりもしましたが、その断固たる処断によって皇道派が追放されるというようなこともありました。最もこれによって軍内部での勢力バランスが崩れたということも言えなくはないわけですが。

昭和天皇は戦後、大きな決断をされ、敗戦後の国民を励ますために直接全国を巡幸されて、直に多くの国民と接する機会を持ちました。これは革命的な出来事だったと思います。しかし明治以来の権威的な帝王学を授けられた昭和天皇は、一般の人々とコミュニケーションを取ることはかなり苦労されていたような印象を持っています。

今上天皇は即位以来、いや皇太子時代から多くの人と会われ、特に災害の際には事態が落ち着き次第速やかに被災地を訪問され、膝をついて被災者の人たちと話をする姿には感動を覚えました。そのようなことは、昭和天皇には出来ないことだったと思います。そういう意味で、今上天皇もまた天皇というもののイメージを大きく変えられたと思います。

天皇陛下は即位された頃は、昭和天皇の威厳に比べてどうしても物足りない印象を持った人が多く、苦労していないお坊ちゃん、というようなイメージがつきまといましたが、今ではそのような感想を持っている人はごくわずかでしょう。阪神大震災や東日本大震災、今回の熊本地震などの災害の時、またサイパンなど多くの日本人が戦没した場所を慰霊された時に特に、「天皇陛下は国民と苦しみや哀しみを共にされている」と多くの人が自然に思うようになったと思います。

今では「天皇陛下さえブラックな労働を強いられている」というツイートが出るくらい、職務に精励されていることは多くの国民が心配すらしている現状でした。今回の「譲位の御意思」の話も、無理もないと概ね共感を持って受け止められていると思います。

天皇陛下はただ多くの人に会われるだけではない。「開かれた皇室」という言葉がありますが、それにとどまらない。「日本国憲法下で天皇という存在がどうあるべきか」、それを自問され、その答えを28年にわたって実践されて来たと思います。

明治天皇に象徴的に見られる権威としての天皇像を求める一部の人たちに取っては、それは不満であったと思いますが、現実の天皇陛下は新しい天皇のイメージをつくられたと思います。それは昭和天皇がされて来たことを踏まえてのこと、という前提がある上で、常に国民とともに、日本国とともに歩もうと言う姿勢そのものが国民と国家を結びつけ、良きにつけ悪しきにつけこの平和な国を保って来たのだと思います。

そんなことを、キーンさんのコメントは改めて考えさせてくれるものでした。

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by Luke Peterson

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