あと15分しか人生がない、と言われたら、何をするだろうか

Posted at 12/01/25

あと15分しか人生がない、といわれたら何をするだろうか。

いろいろ考えてみたが、誰でも考えつきそうなことは実感が伴わない。欲望を満たす系のことを考えたとしても、15分くらいではその準備をしているうちに終わってしまうだろう。また「明日世界が滅びるとしても、今日私は林檎の樹を植える」系のことを考えたとしても、15分ではそんなにすごいことはできないだろう。

で、わたしは、『踊る』のがいいな、と思った。15分だったら『踊る』にはちょうどいい時間だ。好きな曲をかけて、好きなように体を動かして、好きなように自分を表現して、好きなように感情をあらわにして、15分後、突然終了。それってすごくいいかもしれないと。

織田信長もそうだったのかな、と思う。桶狭間の戦いに臨む前、幸若舞の『敦盛』を謡いながら――「人間五十年、下天のうちをくらぶれば、夢まぼろしのごとくなり。ひとたび生を得て、滅せぬもののあるべきか」――舞をひとさし踊ったというのはお約束の伝説だが、案外そのとき一番したいことをしただけ、なのかもしれないと思った。

わたしは何か専門的な踊りを習ったわけではない。日本舞踊や能はもちろん、ディスコやクラブでの踊りもできないし、社交ダンスもまともにやったことはない。リズム感もそういいとは言えない。出来るのは芝居をやっていたときに自分の身体性を開放する手段として曲に合わせて何かを表現する、というエチュードの一環としてやっていたものだけだ。これは「出来る」とか「できない」とかいうものではないが、「いい」か「悪い」かというものではある。多分その良し悪しというのは河合隼雄がやっていた箱庭療法の箱庭の良し悪しのようなもので、その人の持っている生のありようが強烈に表現できていれば凄いものであり、おざなりな無難なものを作ってもつまらない、というようなもので、表現としては金にならない種類の、原始的な、しかしそれだけにものすごく強烈な種類のものなのだ。

わたしは芝居をやっていたと言っても、新劇でも前衛劇でも舞踏でもなく、そういう原初的な人間の表現というようなものの魅力に取りつかれ、それが舞台芸術におけるソフィスティケートされたさまざまな表現手段とぶつかって生み出される一回限りの火花のようなものに魅かれていたわけだから、普通の意味での演技というものとはかなり違うので、なかなか説明がしがたい。

しかしそれだけに私がこの芝居=劇団=演出=稽古に出会ったときの衝撃は大きかった。それまで堂々巡りだった私の生に、突然一つの解が与えられた、と思った。これで生きて行くことができる、と思った、思えたのだ。

いま思ってみても、あのときの出会いがなければいまの自分はいないと思うし、観念の悪循環から抜け出すことはできなかったと思う。というか、その後も何度もそういう悪循環には嵌っているのだけど、「表現」という魔法の言葉をつかみ直すことで何度も「生きることができる磁場」に戻れるようになった。

いま自分はモノを書く、ということに取り組んでいるけれども、書くということの原点も、本当は「踊る」ことなんだなと思った。肉体のある言葉。芝居をやっていた頃には書いた言葉がそのまませりふになって発声され、自分もセリフとして声に出し、耳から入ってきて、言葉が本物かどうかいつも確かめながら書くことができた。踊る、ということを考えていて、今の自分の書いている言葉に足りないものは肉体、少なくとも身体なんだなと実感できた。

当時は山口百恵「曼珠沙華」やダウンタウンブギウギバンド「裏切りの街角」、RCサクセション「スローバラード」、ときにはカルミナ・ブラーナやチベットの仏教音楽に合わせて踊りながら身体性を再開発していたけれど、今はAKB48「風は吹いている」やビゼー「カルメン」にあわせて起こって来る、湧いてくる感情をそのまま素直に表現し、言葉にすることで言葉の身体性を回復することは可能だなと思った。

作家である、とか上段に構えると、私の場合は言葉も表現も出て来ない。人間の根源的な生のパワーのようなものを汲みだすことによってしか表現につなげられないし、そうした表現ができないと居ても立ってもいられなくなってしまう。

あと15分しかない、というときに言葉による表現まで持って行けるかどうかは分からない。ただ、死ぬまで自分の生を汲みだし続けることができれば、私はそれで満足なんだろうと思った。

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