真っ当な人の書いた本を読む/五十嵐大介『SARU』

Posted at 11/08/06

【真っ当な人の書いた本を読む】

厚い雲もあり、青い空もあり。よくわからない天気だ。今日は8月6日、広島原爆忌。式典は見ていないけれども、広島では福島のことにも触れられているのだろう。この先の未来がはっきり見えない中で、この日を迎えることになったのは残念なことだ。日本の将来を皆で考えて、公論を形成して行かなければならないと思う。

未曾有と想定外─東日本大震災に学ぶ (講談社現代新書)
畑村洋太郎
講談社

畑村洋太郎『未曽有と想定外』(講談社現代新書、2011)現在162/194ページ。この本を読んだ感想は適宜ツイッターの方にも書いている。まあ本当はツイッターに書いたこともまとめてブログに書きたいのだけどどうもそこまで気合がないので簡単に感想だけ書く。

一言でいうと、この本は自分の「面白い」と思う心と「これが真っ当だ」と思う心を刺激してくれる。この著者はすごく真っ当な人だ。それから彼が引用している寺田寅彦の考え方。これも全くその通りだと思う。彼らの著作を読むことで、世の中に対する考え方の「真っ当さ」の基準を作っておかないとと思う。正直言って、現代では自分が真っ当だと感じる人との出会いって本当に少ない。その人が真っ当だと感じるための条件はいろいろあると思うけれども、一つには変な野心がないこと、ということもあるのではないかという気がする。変な野心がなくて、本来の意味での科学的な思考――これはあとで説明すると思うが――ができる人。世の中のことがわかってはいるけれども、常識の罠や共同体の罠にとらえられていない人。私は面白い人はたくさん知っているというか、強い興味をもって探して来ているけれども、真っ当な人というものにはなかなか会えていないなと思う。

白洲正子とか河合隼雄にひかれたのは、ある意味そういう「真っ当な人」という感覚を求めた中で見つけてきた人たちなんだけど、でも彼らにも幻視している世界があって、そこが面白いのだけど落ち着かないところでもある。だから私が一番安心するのは、本当は科学者なのかもしれないなと思った。

私が科学嫌いなのは、基本的には科学が傲慢だという印象があるからだ。科学者も技術者も、自らの力に溺れて傲慢な人が非常に多い、特に現代は。しかし自分は育ってきた背景もあるのだと思うけれども、本来の意味での科学的な態度には信頼を置いている。つまり、科学には限界があるということをちゃんと認識している科学者、人は失敗するものだということをちゃんと押さえている技術者というのは、すごく安心するし、真っ当なんだなと思う。

私は自分の感覚にも、あるいは求めているものにもぶっ飛んだところ、この世ならぬものに憧れ、引っ張られて行くところがあるから、それが鎮静化した時に戻って来る場所というのを確保しておきたいという気持ちが強くある。巣というかねぐらというか。高揚した時にはどこまでも生きたいけれども、帰って来た時には中庸のある、自分にとってバランスのとれた、安心していられる場所を確保したい。

創作をしているときには高揚した状態に入って基本的に異世界に行ってしまっているのだけど、社会に対するときには中庸を得た状態にいないとまともに対応できない。その中庸の感覚を確保しておくために、想像力の飛躍や高揚のあとで帰って来る場所として、「まっとうな人たちとの会話」が必要だなと思う。寺田なども昔はよく面白いなと思って読んでいたのだけど、あまり遠くに行かない感じが物足りなかったが、今となってはそういう人との会話で「基地としての中庸」を確保しなければいけないなと思った。

中庸と高揚とは両方が私には必要なのだけど、私にとっての危機は中庸が侵害されることで起こるんだなと思う。まあ高揚しているときは怖いものなしだから危機もへったくれもない。もちろん高揚の時間と空間を奪われたらそれは明らかに危機であって、それも大きな要素ではあるのだけど、基本的に自分の中から中庸の感覚が失われたとき、壊れたときが危機なんだと思う。


【五十嵐大介『SARU』】

SARU 上 (IKKI COMIX)
五十嵐大介
小学館

五十嵐大介『SARU』上(小学館IKKIコミックス、2010)現在152/203ページ。最初は例によってとりとめのない印象だったけど、イレーヌに憑依したものに対するエクソズムの場面から急に面白くなった。この人のマンガというのは、急に面白くなる瞬間というのがある。それまで何を言いたいのかとりとめがなくてどうなんだこれ、と思っているのだけど、一度面白くなったらずっとわくわくが続く。次々に起こる奇怪な事件。そしてその背景に見えてくる一つの存在。

この作品もお勧めされて読んでいるのだけど、確かにこの作品の方が五十嵐の個性が現れているのかもしれない。書きたいものとか大きなテーマとかがあるのは『海獣の子供』の方ではないかと思うが。

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by Luke Peterson

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