何を考えているのか分からない凄さ/フェティシズム

Posted at 06/09/17

昨日は日記を書いた後出かける。SPUER JUMPで「クラブハウスサンドが美味しい」と推薦されていた店に行ってみた。確かにまともなものではあったが、なんというか標準的で、「びっくり!」というようなものではなかった。有名食料品店の直営なので材料的には不安感はないが、サンドイッチにうるさいわけではないのでどうもまああまりぴんと来ない。コーヒーも頼むと結構いい値段になってしまうし。

ちょっとぶらついて八重洲ブックセンターへ。一階の文芸書を少し見て回る。ここの本屋は面白いものが見つかることもあるのだが、どうも本の配置がどういう考えに基づいているのかいまいちよく分からない。歴史の本などは探しやすいのだが。

結局何も買わないで八重洲から京橋をぶらぶらし、丸善の日本橋店に立ち寄る。コンラッドの『闇の奥』に新訳が出ていて驚いた。さらに『万策尽きて』という初訳のものも出ている。最近改めて注目されているのだろうか。さらに北上して日本橋を越える。日本橋のたもとでトランペットを吹いている人がいた。橋の上の高速に反響して、結構渋い音になっていた。

さらに歩いて三井記念美術館へ。友人にもらったチケットで『赤と黒の芸術 楽茶碗展』を見る。初代の長次郎の作品は古怪というのか雄渾というのか、何を考えて作陶したのか見当がつかない凄さがある。ごついのに鈍くない。圧倒的な存在感。楽という特殊なジャンルの作陶(手びねりで内窯=家屋に隣接した場所の小規模な窯で焼く)の極みは、長次郎がすべて表現しているのだと感じる。

二代目以降はいろいろとそれなりの魅力はあるのだが、だんだん何を考えて作陶しているのかが理解しやすくなってくる。なんでもそうだが、不可解な魅力、本当に深い、見るものの気がつかないところに流れている細い流れを感じさせる力のようなものが芸術=モノつくりの真髄だということを感じさせられた。「憑き物」という言葉もあるように、モノとは本来ある種の霊的な存在なのだと思う。

一通り見終わったあとで喫茶で白玉餡蜜を食べ、外に出る。ここ三井本館に来ると私などはすぐ血盟団事件を思い出すのだが、隣のタワーにはマンダリンオリエンタルホテルが入り、植民地主義時代のイギリス資本の根強いパワーを改めて感じる。隣は日本銀行。休刊の建築を眺めたあと、隣に貨幣博物館があったので見学。入場は無料なので日本橋観光のついでにはちょうどいいかも。

所蔵されている貨幣はいろいろと興味深いものが多かった。知らなかったが、戦後すぐの「50円札」の肖像画は高橋是清だったのだ。昭和11年に暗殺されて昭和26年にお札になるというのは凄いなあ。平成の高橋是清といえば宮沢元首相らしいが、お札になることは…ないだろうな。展示は面白いといえば面白いが、以前見た山梨中央銀行の金融資料館の方が充実していたし、ほかに客もいなかったせいもあるが、非常に熱心に説明したもらったので、この分野に関心のある人はこちらの方がお勧めだ。甲府だけどね。そのまま呉服橋の交差点に出、地下鉄に乗って帰る。なんだか疲れた。

夜買い物に出た際、小川洋子『博士の愛した数式』(新潮文庫、2005)を買った。そういうことには疎くていけないが、文庫では今年上半期に最も評判の良かったものらしい。『薬指の標本』でだいたいの感じは分かったので、これも読んでみることにした。まだ50ページしか読んでいないが、雰囲気はなるほどと思う。なんというか、「設定が勝負」というタイプの作家なのだなと思う。そのあたりイシグロに似ているところがある。ただ社会性という点では、イシグロのほうが遙かに広がりがあるのだが。漫画を読んでいるとそういう設定勝負の作品が多いが、文学ではあまりそういうものを意識していなかったので、小川洋子がそういうことをはっきりさせて書いているのはひとつの特徴ではないかという気がしている。

博士の愛した数式

新潮社

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もうひとつは改めて書くまでもないが、フェティシズムだろう。前に読んだ『薬指の標本』など題名からしてフェティシズム全開だし、「六角形の小部屋」でも細部の描写の細かさが実にフェティッシュだ。これはリアリズムというものの限界を超えている。『博士の愛した数式』ではまさに数字や数式が物神崇拝の対象になっているわけで、主人公の息子の頭の形を見て彼に『√(ルート)』という呼び名を与えるところなど、愛というべきかなんと言えばいいのか。

普段あまり動かない土曜日に動いたせいか、今朝はなんとなく疲れが残っている。はっきりしない天気だ。

『読書三昧』に以下の二作品を追加しました。


コンラッド『闇の奥』
村上春樹『スプートニクの恋人』


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