『ダヴィンチ・コード』と『愛の流刑地』のはざまで/「気持ちいい」一日

Posted at 06/05/22 Trackback(1)»

昨日。昼過ぎに外出。昨日はかなり元気があったので散歩をしたいという気持ちと久しぶりの天気なので初夏の風を感じたいという気持ちがあった。普段歩いていないところを歩くと自分の内面が活性化してくるので、私は知らない道を歩くのが好きなのだが、どの辺りに知らない道で気持ちい道があるのかということになるとこれはまあ行き当たりばったりということになる。昨日は不思議なくらいそれがうまく行って、まだまだ自分は東京を知らないんだなあと「一生精進」みたいな気持ちになった。

いつものコースで、新御茶ノ水で降りて神保町に歩く。神保町でまず三省堂に入り、何か読みたいのが無いかなと探すが、世の中『ダヴィンチ・コード』ばかりだ。キリストがらみで話題を呼んでいるようで、フィリピンでは上映禁止になったとも言うが、ベネディクトゥス16世は日曜のミサでも言及しなかったらしい。まあ賢明な対応というか、大人の対応と言う感じである。下手に言及するとまたガリレオ裁判並みの面倒がおころうし、フィクションはフィクションとして対応する程度にはカトリックは成熟していると言うべきだろう。売り場を少し進むと今度は『愛の流刑地』が山積みである。おいおいと思うが、こういう大規模書店ではこういう売り方をせざるをえないんだろうなあと思う。大川隆法がスペースの一角を占めていたり、『人間革命』がどんと積んであったりするのも商売というものだろう。

まあしかしそういう商法にはどうもなじめないものがあるのも事実で、探していたミラン・クンデラ『カーテン』(集英社、2005)を見つけたのだが、ほかの書店で買おうと思って一応目だけつけておいた。裏口から出て東京堂に入り、二階に上って外国文学を探すと『カーテン』はすぐに見つかった。ぱらぱらとめくってみるとやはりshaktiさんの推薦だけに面白そうで、すぐ買った。2500円(プラス消費税)はちょっと痛いので、もともと、まずはユーズドか図書館の貸し出しで、と思ったのだけど、どちらもうまいのが見つからず、読んで面白ければ新刊で買おうと思ったのだった。集英社というのも『少年ジャンプ』くらいしか出版物が思いつかなかったが、(あとは『プレイボーイ』か)文学関係のもいろいろ出しているんだなと最近認識してきた。

古瀬戸珈琲店に入って昼食をとろうと思い、メニューを見て出来心でミネストローネスープを注文したのだが、やはりカレーとかほど満腹にならず、午後はやや空腹で過ごす。ぱらぱら見た感じでは「世界文学」への言及があったのが興味深く、「東側出身の亡命作家」とか「スラブの作家」というレッテルに苦労したという話が面白いなと思った。こういうことって、今でもずいぶんあることなんだろうと思う。大衆レベルではやむをえないとしても、知的エリートの世界でもずいぶん奇妙な歪曲された認識は大手を振っているのだろうと思う。

神保町の裏町を歩き、専大前の交差点のあたりから竹橋の方に歩いて、面倒になってきたので地下鉄に乗ろうと思い下に下りる。上に上ってくる若いカップルの男が「今日は気持ち言い、ホントに気持ちいい」といっていた。全くいい気候で、昨日一日で「気持ちいい」という言葉をいったい何回聞いたことか。いや気持ちはよくわかるのだが、なんだかあんまり聞いているとちょっと滑稽な気がしてきた。

下に下りると切符売り場に長蛇の列。どうも近代美術館の「フジタ展」がえりの人たちらしい。普段はパスネットを使っているので関係ないのだが、そのときは丁度切れていてしかし売り場に並ぶのもうざったいなと思いお濠端を大手町まで歩くことにして反対側の出口に出た。暫く行くと平河門で、濠の向こうから人が三々五々出てきていて、ああ、こんな日は皇居東御苑を歩くのもいいなと思って苑内に入った。

全くいい日和で、本当に気持ちいい。本丸の方には上がらず、二の丸の雑木林を散策。昭和天皇の発案で武蔵野を再現したというが、いい雑木林である。大手門の方に向かい、売店を見つける。ここで買い物をしようと思ったことがなかったのでどんなものがあるんだろうと思ってのぞくと皇室ゆかりのみやげ物があれこれと。なるほどこういうものを売っているのかと思い、実用品を、と思って袱紗を買ったのだが、考えてみると菊の御紋入りの袱紗を一体どの席に持っていけるのだろう。ちょっと大げさになってしまうなと買ってから困った。

ついでに三の丸尚蔵館に入り、花鳥画の展示を見る。狩野探幽ってうまいなと今更馬鹿のような感想を持つが、やはり目玉は伊藤若冲だろう。どうしてこれが昔は評価が低かったのかと不思議に思うし、そのせいでたくさんの絵が海外に流出してしまったことを思うと惜しくて仕方がない。金さえあれば買いたかった、無かったけど。外国人観光客をはじめ結構な人出で、入場も無料の東御苑というのはこういう日には全くぴったりの散策場所だった。

大手門から出ると目の前にメリルリンチの大きな文字。いや、そんなに大きくないが、日本橋のコレドが正面に見えるのだ。永代通りの終点は大手門なのだと認識。門前のパレスホテルに入る。私は割りとホテルのラウンジが好きなのだが、そういえばここのラウンジには着たことがなかった。光がさんさんと差し込んで気持ちがいい。もう少しましな格好をしているときに(最近こればっかりだが)ここにお茶を飲みに来ようと思う。お濠端を南下。東京駅の正面のから来る道に出る。噴水公園。ここは時々来ることがある。道を渡ると皇居外苑。そういえばここはほとんど来たことがない。芝生が続く気持ちのよい広場。戦後によく集会が開かれた皇居前広場とはここのことだろうと思うのだが、全然そんな雰囲気もなく、カップルがみんな敷物をしいて寝そべってゲームをしたり雑誌を読んだりしている。代々木公園や木場公園と基本的には全然一緒だ。それにしても広くてへえと思う。地図には楠公の銅像があるということで歩くがかなり歩いてもなかなか行き着かず、こんなに広いんだとちょっと瞠目した。東京にずいぶん長くのたくっているが、ここははじめてきたといっていいだろう。

楠公銅像に出る。ラテン系らしきカップルが銅像前で写真を取り合っていたが、楠木正成がどんな人物か彼らは知らんだろうなあと当たり前のことを可笑しく思う。マドリッドノプラッサ・デ・エスパーニャのドン・キホーテの銅像を思い出したり、サンクト・ペテルブルクの「青銅の騎士」を想像したり。住友が別子銅山の何かを記念して建てたというが、作者は誰なのだろう。(今ウェブで調べたら高村光雲だという。うーん、さすがだ)祝田橋に出、道を渡って日比谷公園へ。最初のガス灯や水飲み器が残っていて、面白い。はなみずきのきれいな花があってちょっと見とれる。日比谷公園にいる人と皇居外苑にいる人と、ちょっと雰囲気が違うのも面白い。

晴海通りを銀座へ歩く。旭屋書店に入り、『カーテン』を探すとあった。へえと思う。みゆき通りを行って中央通りに入り、歩行者天国を北上。教文館に入って『カーテン』を探すと、ここにもあった。いや入り口は『ダヴィンチ・コード』に塞がれ、『愛の流刑地』も平積みだったが。『ダヴィンチ・コード』と『愛の流刑地』の狭間でも、ちゃんとあるものはあるんだなと当たり前の感慨。中央通りに戻り歩くが、ものすごい人出だ。ちょっと疲れてきて高速の下をくぐった京橋に入ったところで「あづま」という甘味屋に入り小豆アイスクリーム餡蜜を食べる。店の中は地方から出てきた感じの中高年の人で一杯で、私はラーメンを食べている男性と相席になった。虎屋や東京羊羹と比べると洗練度は落ちる感じはするが、下町らしい味わいでよかった。

さらに北上、八重洲の通りを突っ切って丸善日本橋店へ。ここでも『カーテン』を探すが見つかった。うーん、全勝だ。すごい。コレドに歩き、夕食の買い物をして、地下鉄に乗って帰る。ずいぶん歩いた。書くのも疲れた。なんだか東京再発見だった。帰ったらもう相撲は終わっていた。白鵬が勝ったか。まあそんなとこか。ウェブで白鵬は宮城野部屋所属で親方の最高位は十両だということを知る。番付がものをいう世界でこれはきついだろうなと思う。楽天巨人戦を見ようと思ったが、テレビではやっていない。楽天のサイトからライブ中継が見られるということでちょっと見ていたのだが、画面が小さく(拡大は出来ないようになっている)どうも目が疲れてあまり見る気がしない。せっかく見せるなら大画面で見せればいいのにと思う。

『マエストロに乾杯』読了。内田光子、ホロヴィッツ、クライバーなど。内田光子は友人にもらったCDを持っているが、音は好きだけどどうも人の雰囲気はあんまりなあ、と思っていたのだが、「全女性の憧れのまと」と著者は書いていて、へええと思う。男から見てと、女から見てで全く評価の分かれるタイプの人なんだなあと思う。このインタビュー集はいろいろ面白かったが、やはり演奏家と指揮者とではものの言い方が全然違うなと思う。もう少し演奏家の「創作の秘密」のようなことが語られているといいのにな、と思ったが、演奏家はそういうところはほとんど無意識的な、言葉では語りえない分野のことなのかもしれない、とも思う。指揮者は自分の要求を言葉で伝えなければならないから、自然言語表現が発達するのだろう。興味深い。

『カーテン』読み始める。さまざまな作品が検討されているが、あまり読んでいないのでちょっと困る。フローベールの『感情教育』について書いていて、買ったきりになっている岩波文庫があったことを思い出しちょっと読んでみるが、引用されている箇所がどこにも見つからない。調べてみるとどうもこれは『ボヴァリー夫人』からの引用らしく、ずっこける。主人公の名前を書くだけで何の作品かすぐ分かる人を対象に書いているんだろうな。うーん、そういう意味では、手ごわい。

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ミラン・クンデラ「カーテン―7部構成の小説論」

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