8.こうの史代原作・片渕須直監督作品「この世界の片隅に」を観た。(11/29 13:10)


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そしてその人間の信じられなさが、その怖さがこの作品の持つ神話性につながっている。神話の教えるところの一つは、神よりも魔物よりも恐ろしいものは人間だということだと思う部分があるのだが、こうのさんの描く人間の怖さが神話の闇につながっている。暗い洞窟の先にそれがある。

というように、「一番恐ろしいものは人間」などと書くと、例えば戦争も人間が起こすものだから人間は怖い、みたいな話につながりそうなのだけど、私のいいたいことはそういうことではなくて、もっと本来的な人間の底の知れなさ、みたいなことだ。

また一方で、「戦争は人間が起こしているもの」という発想があるからなくならないということもあるのではないかと思った。人間が起こしているなら人間を変えればいい、と思想教育、平和教育を重視しようという方向性になっていたと思うけれども、結局それでは戦争はなくならなかった。そして、そういう意味での「人間は変えることが出来る」という、思想教育の弊害はかなり大きくなってきてる気がする。

戦争が起こるのは人間そのものに問題があるからと考えるより、むしろ事物の勢いみたいなものがあって、戦争が起こる前にどう制御するか、みたいな智慧を磨く方が大事と思う。平和主義思想には必ずその反動としての好戦思想が現れ、絶対平和主義には反動としてナチズムみたいなものが現れる気がする。ポリティカルコレクトネスの嵐の後のアメリカでトランプが勝利したように。

戦争と平和の問題は、要するに事物の勢いを制御する智慧の問題のようには思う。発展途上国における原初的な好戦思想みたいなものはどう制御すればいいのかはよくわからないのだが、文明どうしの対話みたいなものは、出来なくはない気はする。方法を知ってるわけではないけれども。

そんなふうに現代社会と神話をつなぐその場所に、こうのさんの作品はある気がするし、わかりあえない部分でこそわかりあえる、みたいな逆説が、こうのさんの作品にはあるような気がした。


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