10.西川賢「ビル・クリントン」を読んだ。面白くてためになり、アメリカの来た道が理解できたとともに日本の現状を理解する上でもとても示唆的だった。(08/12 11:37)


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大統領任期中のさまざまな政策課題にどういうものがあったか、それにどう対処したか、あるいはどのように閣僚を配置し、どのようにホワイトハウスのスタッフを配置したか、議会にはどういう勢力があり、どのように対応したか、あるいは選挙の時にどのように行動し、攻撃にどう対応したか、その辺りのことが一つひとつ書かれていて、政治というのはこういう膨大な事柄への一つひとつの対処であり、それを効率化・効果的なものにするための法や制度の整備、外交関係における国際的な仕組みの構築など、その一つひとつを発想し立案し説得し妥協し、結論を下して実行して行くプロセスの集積なのだということを改めて思った。

このあたりのところは大変興味深いし、だいたい私が歴史を専攻したのも、こういう政治プロセスが興味深かったからだなと改めて思った。

しかし、政治をやるのも人間だから、よくわからない件にはあまり的確な判断が出来ないし政策も不適当なものを実行したりして失敗したりする。それはクリントン政権だけのことではないけど、その辺りがちゃんと書かれていて、クリントンがどういうところで失敗したのかもよくわかった。

クリントン政権は基本的に経済チームを中心に動いていた政権で、逆にいえば冷戦後の状況ということもあり、安全保障にはやや関心が欠けていたということがあったというのも、だいたいの認識はあったが今回確かめられた感じ。その辺りで日本は経済的なライバルという面だけがみられ、対中安全保障に無関心であると言う印象が日本で広がり、結果反日政権であると言うイメージが強く残ったのだけど、その辺りの事情もこの本を読んで納得できたことの一つだ。

アメリカ側は日本の底なしの不況が、アジア経済危機の原因であるという理解をしていたというのがへえっと思ったし、それを受けての日本側の対応が日本がリードする形でアジア通貨基金を作るという構想だったため、逆にアメリカは日本がアジアで経済覇権を握ろうとしている、アメリカに対する挑戦だと見なして潰された、という過程があり、これらの過程の中で日本はアメリカ、特に民主党政権に対し強い反発を持つことになった、ということはすごく印象が裏付けられた感じだった。

だから逆にいえば安全保障を重視するWブッシュ政権がイラク戦争に突き進んだときもこちらの方が話が分かると強く支持することになる、という結果を招いた遠因にもなっているように思う。日本にとっては経済はもちろんだが、中国に対する不安というのが常に強いということをクリントン政権が理解していなかったのだろうと思う。このあたり、ヒラリーが国務長官になったオバマ政権期になって、基本的にアメリカは日本サイドに立つようになり、かなりの懸念は払拭されたように思う。

しかし日本の1990年代が特に経済において低迷したのは、政権が不安定だったということも大きいと思う。93年の自民党下野からはじまった連立政権の時代の中で阪神大震災と言う天災やオウム真理教事件と言う社会不安がおこったことも大きかっただろう。クリントン時代の8年間、日本の首相は宮沢・細川・羽田・村山・橋本・小渕・森と7人も交代している。これではアメリカに対して強く出られようがないという部分もある。1990年代の非自民連立政権時代、2009-12年の民主党政権時代の不安定さと経済低迷が、日本政治に残した傷跡はかなり大きい。

それはこの本の感想とは直接は違うが、「タフな大統領」であったクリントンの下で経済繁栄を謳歌したアメリカと日本との違いが痛感されるということだ。それが結局は小泉純一郎・安倍晋三と言うタフな政権への信頼が現在の日本で強くなった、最大の原因だと思う。

この本の著者の問題意識は、クリントン政権を「共和党の主張を織り込んだ民主党でも中道派」の政権と見、クリントン以後は「共和党保守派」のWブッシュ政権、そのあとは「民主党左派」のオバマ政権と左右に大きく振れる時代になってしまっている、中道を行く政権が出てきにくくなったのはなぜか、ということにあり、日本でも1980年代の中曽根政権が「自民党は左までウイングを広げた」と言っていた時期から現在のかなり右寄りになって来た変化も世界的なそう言う流れの一つとしてみている。中道ならばいいのか、というのはここで私は結論を下せないけれども、政権を安定させることは重要だ、ということには同意できる。

そのほか、この本を読んでよかったなと思ったのは、アメリカ現代を作って来たさまざまな知らなかった人物について、調べるきっかけが出来たことだ。とはいえネットの情報(英語を含めて)で調べた内容が大部分だけど、ニュート・ギングリッチやノーマン・ミネタについて知ることが出来たことは収穫だった。特にノーマン・ミネタがWブッシュ政権でも閣内に残り、911同時多発テロの時に水際立った対応をしたことについてはとても感銘を受けた。


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