p.256ムスリムに改宗した神学者ポローシンの言葉。
「自分が何を信じているのか、この世界にどうして悪が存在するのかわからなくなった。キリスト教的な問題の立て方が諸悪の根源のように思える。人間に原罪なんて存在しない。そのままの人間は善でも悪でもないと素直に認めればいいんだ。結局、ユダヤ教、キリスト教という原罪観にとらわれた宗教が世界をねじ曲げて解釈し、人為的に問題を作り出すというように僕には思えてならない。」
これは重要な指摘だと思う。一神教的態度が世界の不和の原因だと良く日本では言われるが、一神教的態度よりも「原罪観」という見方こそが人間を飽くなき正義の追求に駆り立て、むしろ悪を創り出しているように私も思う。善悪二元論では解決しない問題がこの世にはほとんどであるのに、それを無理やり割り切ろうとする態度は硬直しすぎていて有害だと思う。
あとどこで読んだか忘れたが、「ソ連は最初から狂っていた」というアレクサンドル・カザコフ(サーシャとして出てくる佐藤と非常に親しい人物で、ラトビア人民戦線の仕掛け人)の言葉も強く印象に残る。それは私もよくわかる部分がある。ただ、やはりこの人たちの分析はあまりに鋭利で、そのまま受け取ると危険な部分がずいぶん多い。「袋の中に錐(きり)は隠せない」というが、適用するときは少し無害化して使った方がいい場合もずいぶん多いような気がする。インテリゲンツィアは自分も十分に使いこなせない危険な概念や言葉を振り回しているある意味始末の悪い人々なのだということはよくわかる。もちろん日本の近代史や私自身の自分史に登場してくる多くのインテリ、あるいは自分自身のある部分を見てもそれは明らかなことなのだが。
ま、とにかくこの本、というか佐藤優の書くものは、そういう危険に満ちた知的刺激に溢れているということははっきり言える。ヨーロッパ、特にロシア・東ヨーロッパというものはとんでもない世界である。
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