3360.読売新聞の村上春樹インタビュー:『1Q84』をめぐって(06/17 10:33)


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昨日。10時半過ぎに出かけ、大手町で乗換え。丸の内丸善の前にX的な女の子たちが大勢いて何事かと思ったら、ヨシキの著作刊行記念サイン会が行われるということだったらしい。ダークスーツの男女が行き交う丸善の一階に異空間が出現していた。東京駅のキオスクで読売新聞を買う。朝mixiを見ていたら村上春樹のインタビューが掲載されるという情報があったからだ。一面に抜粋、23面に詳しく出ていたが、新聞のインタビューらしく語尾とかが適当に端折られているのでなんだか読みにくい。『モンキービジネス』みたいなだらだらした感じの方がずっと読みやすいのだが。でも要点は押さえられているという感じかな。上中下の三回に分けての掲載。村上が『1Q84』について語るのは初めてで、その意味で注目される内容だと思ったが、その他の部分では今までいろいろなところで彼が語ってきたことが中心だという印象を受けた。印象に残ったことをいくつか。

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村上春樹
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まず構想の出発点。オーウェルの近未来小説『1984』の逆の、近過去小説にしたい、ということ。これは以前からいろいろなところで語っている。もう一つが『オウム真理教事件』への関心。地下鉄サリン事件で8人殺害した林泰男死刑囚への関心。それを「ごく普通の、犯罪者性人格でもない人間がいろんな流れのままに重い罪を犯し、気がついたときにはいつ命が奪われるかわからない死刑囚になっていた――そんな月の裏側に一人残されていたのような恐怖を自分のことのように想像しながら、その状況の意味を何年も考え続けた。それがこの物語の出発点になった。」と語っている。

村上は『アンダーグラウンド』で被害者60人の話を聞いてまとめたということは知っていた。世間とは違い主に被害者に関心があった、というニュアンスのことを言っていたと思ったのだが、それだけでなく信者に聞いた『約束された場所で』という作品も書いているのだという。そういう意味では『1Q84』は彼の一連のオウム真理教事件を題材にした作品のひとつの決定版ということになるようだ。

このことは正直言って意外だった。確かに教団の本拠地を山梨県にするなど、オウム真理教事件との関連が感じられるところもある。教祖である「リーダー」の描写は、私は読んでいて麻原を想像させられた。娘がある大事なファクターを握っているというのも何か似ている感じはする。「リトルピープル」も、麻原がそういうものを見ていても不思議はないなと感じさせる存在ではある。青豆がリーダーを殺害する場面でも護衛にいる連中はオウムの白服集団をなんとなく思わせた。オウムの特徴は、「狂信集団」という感じがあまりしないことだ。なんというか、ものすごく「迷い」を感じるのだ。精神的な「迷い」があるのに行動としては迷っていない。そのあたりがすごく変な感じがして、なんだか現代的な感じもしていた。「狂信集団」というのは、普通はもっと「迷っていない幸せ」みたいなものを感じさせるところがある。辟易はするが、本人たちはきっと幸せなんだろうなという気がする。しかし、オウムというところは本人たちも幸せじゃないんだろうなという感じがするのだ。そのかんじがやや、護衛の男たちには感じられた。

たしかにそういう共通点はある、というか上にあげた中には今そう言われてみればこういうところはそうかも知れない、と思ったところが多いのだけど、私が読んだときには、もっと学生運動のセクト性とか、コミューン運動みたいなものが舞台になっているという印象が強かったのだ。そういう意味では私の中でもオウム真理教の存在は急激に陰の薄いものになってきているのかもしれないと思う。村上に「オウム真理教事件が構想のきっかけになっている」と断言されてしまえば、そう言う角度からも見直してみなければ、と思わざるを得ない。だがもちろん、そういう集団の持つユートピア志向の性格とか、そういうものの共通性はあるわけで、村上がそういうものをどう考えるか、ということに関しては、基本的には信じてはいない、という感じはするが、どこかやはり保留状態という部分もある気がする。


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