3358.村上春樹『アンダーグラウンド』/ツジトモ『ジャイアントキリング』/勝間和代『断る力』(06/19 18:40)


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昨日。昼過ぎに湖畔に行き、職場に出る前に蔦屋にいって本を物色。村上春樹『アンダーグラウンド』(講談社文庫、1999)を買う。村上の作品、次に読むならこれかなと、少し前から思っていた。私は村上の作品ではじめてとても面白いと思ったのは『ねじまき鳥クロニクル』で、これが私の村上作品の出発点になっている。その後の作品はそれなりに読んでいるが、それ以前の作品はどうもあまり興味がもてない。やはり『ねじまき』以降の作品に比べると未熟な感じがしてしまうからだ。長編小説で次に読んでもいいなと思っているのは『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』ではあるのだが、まだ読む気になれない。

<画像>アンダーグラウンド (講談社文庫)
村上 春樹
講談社

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『アンダーグラウンド』はオウム真理教事件=地下鉄サリン事件の被害者62人に村上が面接してインタビューして書いたノンフィクションとも言える作品だ。これに取り組んだことは、『ねじまき鳥』以降の村上の技術的な進歩、人物造形における飛躍的な広がり、などにおいて、非常に大きな画期をなす出来事であったと思う。まだ少しだけしか読んでいないが、村上はきっとこの作品をがつがつ書くことでものすごく多くのことを吸収し、ものすごく多くの財産を獲得したという実感があったのではないかと思う。オウム真理教事件というのは、事件の結構自体がわけのわからない幻想性を持っていて、それで死んだり傷ついたりした人々も一体この事件とはなんだったのか、その日常とあまりにもかけ離れた目的と手段によって自分の生と一生が損なわれたことが受け止められなくても全然不思議はない事件だと思う。被害者意識の生む妄想がカルト的に組織されるとこんな恐ろしい事件さえ生む、と言葉にしてしまえば出来なくはないが、日常の薄皮の向うで想像も出来ないことを考えている人が現実に存在するという事実は、日本人の感受性の何かを変えてしまった可能性は確かにあるなと思う。読売新聞のインタビューにもあったが、村上はこの事件に向き合うことでいくつも作品を書き、そのもっとも大きい果実が事件から15年経って世に出された『1Q84』なんだろうと思う。ある意味でこの問題は村上のライフワークに近くなっているかもしれない、という気もする。

<画像>GIANT KILLING 10 (モーニングKC)
綱本 将也
講談社

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夜10時まで仕事。忙しくなく。でも終わりごろに急に仕事が増えたな。かえって食事、入浴。『ジャイアントキリング』の単行本を1から5まで読み返す。この作者のツジトモと言う人、漫画家だけでなくイラストレーターの肩書きも持っていて、そういう意味での、そういう方向で絵が本当に上手いなと読み直すたびに思う。何気ないコマの面白さ、椿がスタジアムを見上げて「ここはこんな場所なんだっけ…」と思う場面とか、決定的な場面の見開きの大ゴマ、単行本のラストの次号予告のコラージュ的な魅力、もちろんストーリーもいいしサッカーの技術や戦術をちゃんと描こうとする精密さもいいのだけど、絵の魅力が私にとってはかなり大きいと読み直すたびに確信が深くなる。この人の原画だったら欲しいなと思う、正直言って。椿のシュート場面の絵をサイン入りでもらったら絶対部屋に飾る。私はマンガはたくさん読むが、そういうふうに思う作品はめったにない。ジャイキリはすごい。


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