3314.養老猛『バカの壁』を読み直す(09/03 20:11)


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私は基本的に、科学でも何でも無前提にすべてを信用してしまうようなものは信じられない。宗教ならば、信仰優先だからそういうふうに考えるんだね、と人の信仰を許容することはできる。しかし自分がその信仰を受け入れることは出来ない。神の存在を実感として感じたことが自分にはないからだ。神社などで、「何か居る」ということを感じることはあるけれども、たとえば造物主のような抽象的なものになると実感が湧かない。神社だって何がいるのかまではわからないが、何かいる感じのものが神様と呼ばれているんだろうというふうに自分では納得している。

素朴な違和感を思考で何とかするということは、それでも以前はやっていた。しかしそれには膨大な努力がいるということもよくわかった。中学生頃から違和感を持っていた「民主主義」の「正しさ」というものについての考えが自分なりに結論が出たのは、つまり民主主義というのは一つの考え方に過ぎず、それをたまたま多くの国で採用し、比較的上手くいっている、ということに過ぎない、と考えるようになったのは、もう40前になってからだった。

今現在私が違和感を持っているものには、科学絶対主義のようなものや、環境問題に対する人びとの姿勢などがある。上の二酸化炭素の例で改めて思ったが、私が環境問題というものに違和感がある理由は、よくわからないのに地球の終わりのように大げさに騒ぎすぎるというところがある。理由が納得できないのに騒いでいるというのは大体よからぬことがあるからで、なるべくそういうものに関わりたくないという感じがするからだ。

本当はきちんと勉強すればいいのだが、「よくわかる環境問題」的な本というのは主流派的な立場から啓蒙的に説明しているだけで、「環境問題への違和感」という素朴な疑問というものに答えるものはまずない。つまり、人々は環境問題についての知識を得ようと思ってそういう本を読むのであるし、書く側も知識を与えようと思って書くわけだから、そういう違和感を解決しよう、自分の違和感を上手く代弁してくれるものを読みたい、と思ってもそんなものがあるわけはないわけだ。だから当然、それなりに本気で勉強しなければそういうことはよくわからないのだが、正直言ってそんなことを勉強している暇はない。だから違和感だけ持ってることになって、それはそれで面倒なわけだ。

この本で、そう言う問題が解決されているわけではないが、違和感を持つのはなぜなのかということはある程度見当がついてきた。そういう意味で、「それに違和感を持つことは正しい」ということが肯定されるだけでもずいぶん楽になる面があった。

私が科学というものに対して違和感を持つのはどういうところなのか、ということの一つの理由がこれだろうと思ったのは、カール・ポパーの言説を引用している部分だ。ポパーは「反証されえない理論は科学的理論ではない」と述べているという。このことは以前も読んだことがあったが、読み飛ばしていてこのことについてあまり深く考えてはいなかった。しかしこれはかなり本質的に重要なことで、科学的といわれているものの中にはかなり反証されえないものが実際には含まれている。たとえば進化における自然選択説は、反証しようとして例をあげることは出来ない。そういう時間の経過の中で実際に起こってしまったことをあと付けで理論付けているものの多くは、そういう反証可能性がないものが往々にしてある。

ネットで少し調べたところによると、ポパーは精神分析やマルクス主義、論理実証主義などを批判している。私は精神分析やマルクス主義は科学というよりは文学的なものだと思う。別に科学でないからだめだとは思わないが、科学を標榜するから科学的でなくなり、教条主義に陥るわけで、一つの思想としてワンノブゼムとしてこういう考え方もある、こういうふうに考えて治療すればうまく行くこともある、というくらいのものと見ればいいのだと思う。しかし当人たちにとっては科学という金看板を失うと商売に差し支えるという面はあるのだろうし、影響力も圧倒的に失われるから、逆に批判に対してはたいへん攻撃的になり、どうも辟易してしまう。

しかし論理実証主義を科学的でないと切って捨てられたのはあれれという感じだ。というか、実は私は本当はそう思っていた、いやそう感じていた、のだと思う。私は歴史学を科学と考えるのはどうも以前から納得がいかなかった。歴史学でなされるさまざまな言説も、最近とみに納得の行かないものが多くなっている。科学や論理を振り回せば振り回すほど、その学者のいうことを受け入れられなく感じるようになってきて、それで歴史学をやるのが辛くなってきたという面があるのだと思った。


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