3307.『バカの壁』の続編/『ローマ人の物語』35〜37/約束はさせないで(09/09 15:54)


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しかし、コンスタンティヌスが出て来ると話が俄然面白くなる。ディオクレティアヌスのテトラルキア(四頭制、四分統治)が後の東西ローマの分立とどこが違うのか、ということがあまりよくわかってなかったが、あくまでディオクレティアヌスは帝国全体の実権を握っており、ほかの皇帝たちはその地域の軍事指揮権を持っているだけで、防衛が主な任務だった、という分析はなるほどと腑に落ちた。一番へええと思ったのは、ディオクレティアヌスがさっさと引退したことと、引退後の彼が全く権威も権力も失い、自分の娘や妻の安全を守ることさえ出来なかったということだった。引き際が鮮やかだということは、そのあとの社会の安定があってはじめて意味を持つことで、韓国の大統領の引退後みたいなシビアな状況(ディオクレティアヌスの方がはるかに悲惨だ)が彼にもあったのだ、ということは慨嘆せざるを得ない。

コンスタンティヌスという男が副帝の長男でありながら帝位継承権のない位置からいかにのしあがり、ついには帝国全土を支配する存在になったか、というのはこれはやはり一つのストーリーとしてすごいものがある。また、彼はキリスト教の公認ということからキリスト教世界にとっては絶対の存在になるけれども、何と言うか相当なマキャベリストで、また軍事的才能も抜群というほどでもない、そういう生々しい人間性が上手く表現されているように思った。僭称者マクセンティウスを破ったミルヴィウス橋の戦闘の前夜、神のお告げがあって「これにて勝て」とキリスト教のマークが示された、という話は知っていたが、なんだか金の三本足の烏みたいな話で、あまりに神話的な人物という印象だったが、これを読んでいると人間としての彼が浮かび上がってくる感じがする。

コンスタンティヌス凱旋門の話も面白かった。あそこに掘られているレリーフの傑作のほとんどはもともと五賢帝時代の作品を持ってきてコラージュしたヌエ的なもので、新たに作られた4世紀の彫刻は、中世暗黒時代みたいなレベルになっていて、リアリズムという点、理想美の追求という点では相当後退している。中世は偶像崇拝を嫌うという観点からそういうものが発達しなかったのだと思っていたが、まだキリスト教が公認されるかされないかの時点で、しかもまだ異教徒のローマ市民と元老院が捧げた建築物なのにそういうことになっているということは、確かに200年余りの間に技術が決定的に失われたとしかいいようがないんだと思った。文明というものは破壊されてしまうものなんだと、しみじみ思われる。

***

昨日は夜10時過ぎまで仕事。寝たのは12時過ぎか。朝は6時前に目が覚めた。やるべきことを次々に思いついて頭の中が運動会状態。モーニングページに書き出してみたら少し落ち着いた。頭の中に渦巻かせて置くよりは、外在化させて頭から一度追い出してみると、やりたさとか重要度とか手順とかそういうことが思いつきやすい。書くということでいちど手を動かすしごとをすることにもなり、何もしていないという不全感が薄れることも大きいと思う。大概のことはそんな大したことではないのだが、頭の中であれもこれもと考えているとどうしたらいいかわからなくなってくる。書いてみるとわりとすらすら頭が動くので、書くという程度のレベルでも体を使って話をすすめるのは大事なんだと思う。

『バカの壁』の用語を使うといろいろとわかりやすくなることがあって、人生の目的みたいなことを言葉にすると自分自身を「情報化」してしまう、ということに気づいた。「こうしなきゃいけないという思い込み」が出来てそれに縛られてしまう。自分の考えていることを書いて外在化させることによって客観的にみる、というところまではいいのだけど、それを言葉にして人に言ってみたり、自分自身に言い聞かせたりするともうそれに縛られるようになる。情報は不変なので一度いった言葉はもう変わらないが、人間は生きている以上変化するので、その言葉と現在のやりたいことの違いが必ず現れてきて、それが自分を苦しめることになる。「約束はさせないで、守りきれたことがない」と中島みゆきも歌っているように、人間の心の弱い部分を約束にしてしまうと、必ず破綻して自己嫌悪に陥るという弊害が出てくる。

もちろんそういうことが必要な場面や、そういうことが有効なタイプの人もいるだろう。口にしたことで何がなんでもそれを実行する、というふうに退路を立つこと。しかしそれはいわば背水の陣であって、兵法的には奇道に属することだ。そういうやり方が誰にでもあっているとはいえないと思う。むしろ素直な人は、そう言うことをあまりやらない方がいいのではないかと思う。


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