21.「ふつうの軽音部」が楽しみだ/「忘却バッテリー」細かい捕手の技術を題材にストーリーを盛り上げる手腕/「生成AI」再論/「もっとみんな政治に関心を持てばいいのに」という言葉をめぐって(04/07 09:13)


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「生成AI技術を新しソフトとかと同じ次元で見ている」という批判があったけれども、それは必ずしもそうではなく、生成AIが「インターネットの発明」や「検索エンジンの発明」と同じくらいゲームチェンジャーである可能性は多くの人は感じていると思う。それに対し一番被害を受けそうなのが絵が上手いのは当たり前でコンセプトが重要になってくるアーティストとかではなく、また絵の巧拙以外の部分、ストーリー展開やキャラクター設定が重要なマンガ家でもなく、現在の「イラスト絵」の流行の中でその巧拙をシノギを削って競ってきたイラストレーターの人たちであり、彼らが最もこの技術に対して危機感を持っているというのはわからなくはないなとは思う。

私はマンガが好きだし現代美術もそれなりに見てはいるが、彼らの作品で持つ感想は「絵が上手い」というようなものではあまりない。もちろん江口寿史さんや大友克洋さん、横槍メンゴさんなどのように圧倒的な絵のうまさがこのマンガ家さんの大きな魅力だ、という人はいるが、彼らの絵はある意味模倣され、スタンダード化し、それでいて唯一無二のオーラを放っていたりするわけで、この「オーラ」という部分がAIでは真似できないだろうなとは思う。また「Illustration2024」などの作品集を見ても、オーラのある作品というのは他の人とは違うなと思わせるものがある。そういう意味では、それだけの実力のある人にとってはAIは必ずしも脅威ではない、という気はしなくはない。

ただ、ここに落とし穴があることも確かで、例えばホリエモン氏が「寿司屋の10年の修業とかなんの意味があるの?」みたいにいうのと同じことで、「修業で極めた結果辿り着いた味」なんて非効率であり、寿司ロボットが握る寿司だって十分美味いんだからそれでいいだろう、という考え方もあり得るということだ。だから適当にいろいろな作品をAI学習させて吐き出させたAI絵で十分じゃん、と思う人も世の中には結構いるわけで、その方がコストが低いならそれでお願いします、という依頼主も多く出てきて、それによりイラストレーターに支払われる報酬が激しくダンピングされる、ということは十分あるし、現実問題として「イラストレーターに正当な報酬を支払いたくない」依頼主はたくさんいて、それに対して戦っている中で著作権無視のAI絵師が市場を蹂躙するようなことがあれば泣くに泣けない、自分の人生はなんだったのかということになる、ということもまた確かだろうと思う。

ただAI技術というものが一度出てきてしまった以上、もうない時代には戻せない。日本国内でそれが成り立っても、そういう展開は著作権意識の低い中国その他の国を利するだけになるし、今までも日本国内の規制が先に立つ展開によってパソコンのOSや検索エンジンにおいてマイクロソフトやGoogleに市場の巨大な利益を全て持って行かれた苦い経験が日本にはあるわけである。

だから絵を描いた人の著作権を保護するためのAI法規制、またその国際条約みたいなものは絶対に必要だと思うし、禁止すればいいということにするのは無理だし日本の国益を損ねると思う。結局AI絵という新しいジャンルが生まれることは避けられないと思うし、イラストレーターの人たちはそれに負けない質の絵を描いていく以外に仕方ないということになるだろうと思う。

これは写真という新しい技術が出てきたときに画家の仕事が大きく減ったことと同じことなので、「AIには描けない絵」の可能性を探っていくしか最終的にはないのだろうと思う。もちろんAIに学習させない権利みたいなものはしっかり確立していく必要があると思うが、その法的根拠をどのように考え、現実問題として何ができるのかは検討していく必要があると思う。

まあこういう問題は理屈では片付けられないことが多いから、ルサンチマンが残って思わぬところでつまづく展開になる可能性もある。新幹線が静岡県に止まらないから難癖をつけて遅らせる知事もいるし、自由化によって林業や農業が壊滅に追い込まれた歴史も日本にはいくつもある。開発がくれた雪国の怨念が田中角栄の日本列島改造論を生んだりもしたし、近くはアメリカでトランプが白人労働者の苦境を背景に「Make America Great Again」を主張して政権を取ったりもしている。昨日まで正しかった自分のやってきたことが急に新しい技術や理屈で否定されることを、人はそう簡単に受け入れられないというのもまた事実だと思う。


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