5020.何人も孤島にはあらず/南方熊楠(07/17 09:48)


靖国神社をあとに、高速の下をくぐっていつも行く蕎麦屋へ。おろしそばを頼むが、辛味大根が実に辛く、食べ切れなかった。ちょっと油断したかな。

神保町に歩き本を物色。古書店をなんとなく見ていると読みたいというわけではないが欲しい、というような本を何冊か見つける。山陽堂書店で宮崎市定『現代語訳 論語』(岩波現代文庫)、湯浅信行編『ジョン・ダン詩集』(岩波文庫)、柳宗悦『手仕事の日本』(岩波文庫)を購入。あれま、三冊とも岩波だ。最近にしては珍しい。

ジョン・ダンは目当ては「何人も孤島にてはあらず」という例の詩を読みたかったのだが、収録されていなかった。そういえばこの本が出たとき、この詩が収録されていなかったので買わなかったのだということを思い出した。「何人も孤島にてはあらず/人は一人にては全ったからず/人はみな大いなる陸のかけら/…/されば問うなかれ、誰がために弔鐘(かね)はなるやと/そは汝(な)がために鳴るなればなり」というこの詩を読んだのは、堀田善衛の引用であったが、中世からヘミングウェイに至る西洋文学の伝統を強く感じたものだった。

その後半蔵門線・南北線で六本木一丁目に出て書原へ。いろいろ見たが結局水木しげる『猫楠−南方熊楠の生涯』(角川ソフィア文庫)を購入。帰って来て一気に読了したが、熊楠という人の異形の天才ぶりが余すところなく表現されていて、これは『劇画ヒットラー』以来の水木しげるの傑作だと思った。『神秘家列伝』などでは水木自身による変な批判がそこかしこに挿まれていてどうも気に入らなかったが、これは全然そんなことがない。
怪人振りを余すところなく発揮していた熊楠の人生が、弟との絶縁を機会に暗転し、高校の受験に高知に出かけた一人息子が発狂する。何とか家で療養させたいという両親の願いもむなしく、息子は熊楠と自分自身が長年かけて書いた貴重な粘菌のスケッチを破り捨てて熊楠を号泣させるくだりは、人間としての激しさの全ての業を背負った巨人の悲しみを描き出して余すところがない。

そしてそのあと、周りの彼を元気付けようという意図もあって、ついに昭和天皇へのご進講が実現する。このあたりは彼の喜びと昭和天皇のお人柄がよく表現されていて、胸が熱くなる感じがする。

いずれにしろ、南方熊楠という人は本当に日本には希な、まさに巨人というにふさわしい人物であったということが非常によくわかる。リテレートliterate(教養人)であり野人。このタイトルに本当にふさわしい人物は彼以外にないだろう。

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