「魔法使いの嫁」:家族という障害、嫉妬という闇、悪魔による提案

Posted at 18/02/23

魔法使いの嫁 8 (BLADE COMICS)
ヤマザキコレ
マッグガーデン
2017-09-08



「魔法使いの嫁」既刊第8巻まで読了。

この辺りではチセとエリアスが対立する展開になっていてちょっと読んでいて苦しい感じはあるのだが、この対立が起こったのはそれぞれの変化の象徴でもある。

エリアスはチセを買ってからもクールな怪物であり続けたわけだが、チセがステラという少女に心を開き、楽しそうにしているのを見て、どうしようもない嫉妬の感情にかられる。それはチセによって鎮められるのだが、チセの危機に際してそれが再燃する。

チセは密猟者に捕らえられた竜の子が自分と同じ異世界的なものを扱うオークションにかけられている(チセはそこでエリアスに買われた)のを知り、魔法学院の面々とともに買い取ることで救出を目指すのだが、竜の子が暴れてしまい、それを鎮めようとしたチセは竜の呪いを受けてしまう。

もともとの体質が莫大な魔力を持っている割にひ弱な体で長生きができないと言われていたのに、竜の呪いで命がわずかだということになり、魔女との交渉なども経て、エリアスはチセに内緒でステラを犠牲にしてチセを救おうとする。またチセの使い魔であるルツはチセを護ることが第一なのでエリアスに賛成し、その動きに気づいたチセはエリアスに強い怒りをぶつける。

誰よりも自分のことを思ってくれる人が、誰よりも自分の前に立ちはだかり、自分の意思、自分のやりたいことの障害になる。つまり、それが「家族」というものなのだが、本当の家族よりも強い絆で結ばれているエリアスやルツがそういう存在になってしまうというのは辛いことだけどやはり読む人も誰もが皆そういうことを経験している、あるいはそこでの軋轢を避けるために対立はしないでもそこでその「優しい障害」に立ち塞がれた、あるいは立ち塞がれそうになったことはあるだろう。

そしてもう一つはエリアスの嫉妬。嫉妬というものの闇の深さが、人間でない存在であるエリアスが持つことによってそれがより純粋な底知れぬ闇に見える。人の嫉妬はよく醜いというが、嫉妬というものの本質は醜さではなく、深い闇なのではないかと思わされる。

そしてエリアスが用意しルツが止めなかったチセの「救済」をチセは怒りとともに否定するが、(まずここで怒るということ自体がチセの大きな「変化=成長」だ)あんなにエリアスに捨てられることを恐れていたチセがエリアスでなく竜の子を密猟した主犯であり、ステラの体を乗っ取っていたヨセフ=カルタフィルス(不死の悪魔)の提案に乗る。この辺はなんだか「ファウスト」的ですらある。

熱量の低い物語展開が続いていてそこが現代的で面白いなと思っていたが、ここにきてかなり感情の強い動きが出てきて、不思議な青い炎のような温度の低い熱を感じるようになってきた。たとえ温度が低くても炎であるから、不用意に触れると低温で炎上してしまいそうな。

月別アーカイブ

Powered by Movable Type

Template by MTテンプレートDB

Supported by Movable Type入門

Title background photography
by Luke Peterson

スポンサードリンク













ブログパーツ
total
since 13/04/2009
today
yesterday